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第13話:深海の闇と、純情な防波堤

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あらすじ

地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第13話:深海の闇と、純情な防波堤

本文

水族館のメインスポット、深海魚コーナー。

 ここは館内でも特に照明が落とされ、足元すらおぼつかないほどの暗闇に包まれている。

 カップルたちが身を寄せ合い、あちこちで甘い空気を醸し出している場所だ。

(ここよ……! ここが勝負所!)

 リリは暗闇の中で目を光らせた(比喩ではなく、サキュバスなので夜目は効く)。

 隣を歩くケンジは、さっきから緊張してガチガチになっている。

 今日の「普通の服」作戦は効果てきめんだ。彼は私を意識しすぎて、直視すらできなくなっている。

(この暗闇を利用して、一気に距離を詰める!)

 リリは「キャッ」と小さく声を上げ、つまづいたフリをした。

 そして、バランスを崩した勢いを利用して、ケンジの左腕に自分の体を預けようとした。

 狙うは「腕への抱きつき」。

 私の柔らかい胸を彼の二の腕に押し付ければ、彼の「鉄壁の理性」も粉砕されるはず!

「あっ、暗くて……ケンジさん、掴まってもいいです――」

 ギュッ。

 リリの体がケンジに密着しようとした、その寸前。

 ケンジの手が、リリの肩をガシッと掴んで静止させた。

「――っ! だ、ダメだっ!!」

 暗闇に、ケンジの切羽詰まった声が響いた。

 彼はリリの体を引き剥がすと、ハァハァと荒い息をつきながら後ずさった。

「ケ、ケンジさん?」

「ご、ごめん……! でも、それはダメだ……!」

 ケンジは冷や汗まみれだった。

 危なかった。本当に危なかった。

 今日の「天使モード」のリリに、暗闇で体を密着されたりしたら?

 腕にあの柔らかい感触が伝わったりしたら?

 俺の中の獣が暴走して、この場で彼女を押し倒してしまうかもしれない!

「そんな……そんなふうに抱きつかれたら……俺、もう耐えられないよ……!」

 彼は本音を叫んだ。

 「理性を保つ自信がない」という意味で。

 しかし、リリの脳内変換機能は、これをポジティブに翻訳した。

(『耐えられない』……! つまり、もう限界ギリギリってことね!?)

 リリは口元を緩ませた。

 あと少し。あと一押しで、彼は野生に戻る。

 なら、さらに追い打ちを――。

「じゃあ……どうすればいいですか?」

 リリはあざとく首を傾げてみせた。

 ケンジは葛藤した。

 暗くて危ないから、彼女を守らなきゃいけない。でも密着は危険すぎる。

 その二律背反の答えとして、彼は震える手をおずおずと差し出した。

「……て、手を」

「手?」

「手をつなぐくらいなら……なんとか、我慢できるから」

 それは、彼なりの精一杯の妥協案(純愛アピール)だった。

 リリは拍子抜けした。

 抱きつき攻撃が、ただの手繋ぎにランクダウンしてしまった。

(チェッ……ガードが固いなぁ。でも、まあいいか)

 リリは彼の大きな手に、自分の手を重ねた。

 ギュッ、と強く握り返される。

 その瞬間。

「んっ……♡」

 手のひらの接触面から、じんわりと温かいものが流れ込んできた。

 彼の緊張、興奮、そして「守りたい」という愛情。

 それらが混ざり合った精気は、少量ながらも極上の甘さだった。

(あ、これ……おいしい。チュッパチャプスみたいに、ずっと舐めてられる味……)

 ガッツリ食事とはいかないが、空腹を紛らわせるには十分な糖分だ。

 リリは空腹が少し満たされ、うっとりと頬を緩ませた。

「……はい。じゃあ、こうしててくださいね」

 二人は暗い水族館の中を、手をつないで歩き出した。

 ケンジは「彼女を守れた」という達成感に包まれ、リリは「非常食(手)」を確保した安心感に包まれていた。

 お互いの目的は全く違うのに、周囲から見れば、それはどう見ても「初々しいバカップル」の姿そのものだった。

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りくりな

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