第15話:限界突破の途中下車と、愛ゆえの逃走劇
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第15話:限界突破の途中下車と、愛ゆえの逃走劇
本文
プシューッ。
ドアが開く。
目的地の駅ではない、どこか途中の駅のホームに、二人の男女が弾き出された。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
ケンジはホームのベンチに手をつき、肩で息をしていた。
額からは滝のような汗が流れている。
彼の顔は真っ赤で、そしてどこか悲壮な決意に満ちていた。
「け、ケンジさん? 大丈夫ですか? 急に降りるなんて……」
リリが心配そうに覗き込む。
彼女は少し乱れた髪を直しながら、不思議そうな顔をしている。
その仕草だけで、今のケンジの脳内には、さっきの電車内での「感触」が鮮明に蘇る。
(柔らかかった。温かかった。いい匂いがした……!)
ダメだ。もう限界だ。
手をつなぐ? 健全なデート? 無理だ。
今の俺は、火薬庫の隣でマッチを擦っているようなものだ。
これ以上、彼女と一緒にいたら、俺は間違いなく理性を手放して、レストランのトイレかどこかで彼女を襲ってしまう!
(そんなこと、できるわけがない。あんな天使のような子を、俺の性欲の捌け口にするなんて!)
ケンジはガバッと顔を上げた。
その目は血走っていた。
「リリさん……ごめん!」
「へ?」
「イタリアン、行けそうにない。……今日は、ここで解散しよう」
リリが目を丸くした。
当然だ。デートの途中で、しかも何もない駅で置き去りにされようとしているのだから。
「ど、どうしてですか? 私、何か気に障ることでも……」
「違う! 君は悪くない! 悪いのは全部、俺なんだ!」
ケンジは叫んだ。
周囲の視線が集まるが、構っていられない。
彼は前かがみ(※物理的な理由で直立できない)のまま、後ずさる。
「これ以上、君と一緒にいたら……俺は、我慢できない」
「えっ……」
「君を傷つけたくないんだ。だから……ごめんっ!!」
言い捨てると同時に、ケンジは回れ右をした。
そして。
ダダダダダッ!!
「えっ、あ、ちょっ、ケンジさん!?」
彼は脱兎のごとく走り出した。
反対側のホームへ向かう階段を、前傾姿勢のまま駆け上がっていく。
その背中は、まるで何かから必死に逃げる逃亡者のようであり、同時に自らの罪(性欲)を封印しようとする殉教者のようでもあった。
――シーン。
ホームには、リリ一人だけが取り残された。
夜風が冷たい。
呆然と立ち尽くす彼女の脳裏に、彼が最後に残した言葉がリフレインする。
『これ以上いたら、我慢できない』
「…………」
リリは自分の下腹部、さっきまで彼のアレが当たっていた場所に手を当てた。
そして、ようやく事態を飲み込んだ。
「……あ」
嫌われたわけじゃない。
怒らせたわけでもない。
彼は、「ムラムラしすぎて爆発しそうだから、私の身を案じて逃げた」のだ。
「……ふ、ふふっ」
リリの口から、笑みがこぼれた。
置き去りにされたのに、怒りは湧いてこない。
むしろ、サキュバスとしての自信がメキメキと回復していくのを感じた。
「なんだぁ。私の魅力、ちゃんと通じてたんじゃない」
あの鉄壁のケンジさんが、逃げ出すほど追い詰められていた。
あと一歩だったのだ。
いや、むしろ「逃げた」ということは、彼は今、理性のタガが外れかけた無防備な状態にあるということ。
「……逃がさないわよ、ケンジさん」
リリはスマホを取り出した。
地図アプリを開く。
彼の家の場所は、前回の「家宅捜索」でバッチリ記憶している。
「ご飯を前にして逃げるなんて、マナー違反です。……責任取って、最後まで食べさせて(食べて)もらいますからね!」
ホームに残された地味な少女の瞳が、妖艶なピンク色に怪しく輝いた。
サキュバスの逆襲――お宅訪問(夜這い)の時間が始まろうとしていた。
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