第16話:誤診された熱情と、押しかけナース
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第16話:誤診された熱情と、押しかけナース
本文
俺、佐藤ケンジは、自宅のワンルームで氷枕を抱えて悶絶していた。
「あぁぁぁ……やっちまった……置き去りにして逃げるとか、最低だ……」
自己嫌悪で死にそうだ。
だが、あそこで逃げなければ、俺は間違いなく彼女を押し倒していた。
駅のホームから全力ダッシュで帰宅し、冷水を浴びて、ようやく俺の「息子」も落ち着きを取り戻しつつある。
「もう嫌われるよな……。あんな奇行に走る男、ストーカー予備軍と思われても仕方ない……」
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。
こんな時間に誰だ? 宅配便か?
俺はふらふらと立ち上がり、モニターを覗き込んだ。
「――ッ!!?」
そこに映っていたのは、少し息を切らせて、頬を赤らめたリリさんだった。
手にはコンビニの袋を持っている。
なんで!? 住所バレてる!? いや、前回来たから知ってるのか!
「ケ、ケンジさん! いらっしゃるのは分かってます! 開けてください!」
ドア越しに彼女の必死な声が響く。
俺は慌ててドアに駆け寄り、チェーンをかけたまま少しだけ開けた。
「リ、リリさん!? どうしてここに……!」
「どうしてじゃないですよ! 心配したんですから!」
隙間から見える彼女の表情は、怒りではなく、純粋な「心配」に満ちていた。
「駅で急に走り出して……それに、お顔がすごく赤かったじゃないですか! 汗もすごかったですし!」
「えっ、あ、いや、あれは……」
「私、ピンと来たんです。あれは『高熱』ですよね!?」
……はい?
「風邪……いえ、インフルエンザかもしれません! 熱があるのに無理してデートに来てくれて、それで限界になって走って帰ったんですよね? 私に移さないようにって……!」
リリさんの瞳が、「なんて優しい人なんだ」という感動で潤んでいる。
違う。断じて違う。
あれは「発情」だ。ウイルスではなく、リリさんというフェロモンに侵されただけだ。
「い、いや、熱とかじゃなくて……」
「隠さないでください! 私、放っておけなくて、スポーツドリンクと冷えピタ、買ってきたんです。看病させてください!」
グイッ。
彼女が華奢な体でドアを押し開けようとする。
チェーンがピンと張る。
「リリさん、ダメだ! 俺の部屋に入っちゃダメだ!」
「どうしてですか! 病人なんですよね!?」
「そ、そうだけど(嘘だけど)! 俺の病気は……その、君にすごく悪い影響を与えるというか!」
「風邪なら移っても平気です! 私、体は丈夫ですから!」
会話が噛み合わない。
彼女の「看病したい(恩を売りつつ、あわよくば精気も吸いたい)」という熱意は、俺の「守りたい」という理性を凌駕していた。
そして何より、こんな夜更けに女の子を廊下に立たせておくわけにはいかない。
「……はぁ」
俺は観念した。
ここで「実はムラムラしてただけです」なんて言えるはずがない。
ならば、「高熱の病人」という設定に乗っかるしかない。病人なら、大人しく寝ていれば何事も起きないはずだ。
「……わかった。ありがとう、入って」
「はいっ!」
ガチャリ。
チェーンを外すと、リリさんがパッと明るい笑顔で侵入してきた。
その笑顔を見て、俺の下半身がまたピクリと反応する。
(まずい……。「高熱」という設定、あながち間違いじゃないかも……)
俺の体温は、再び危険域へと上昇し始めていた。
密室での看病イベント。
それは、弱った(ふりをした)獲物を、腹ペコのサキュバスが美味しく調理するための、最後の下準備だった。
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