第19話:蜜月の終わりと、天敵の来訪
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第19話:蜜月の終わりと、天敵の来訪
本文
あれから数週間。
私とケンジさんの関係は、表向きは「清らかなお付き合い」、裏向きは「定期的なエネルギー補給関係」として順調に続いていた。
「リリさん、その髪飾り、似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……えへへ」
週末のショッピングモール。
私たちはクレープを食べながら歩いていた。
最近の私は、肌ツヤがすこぶる良い。
それもこれも、ケンジさんという「極上の供給源(サーバー)」から、定期的に濃厚な愛(精気)を注がれているおかげだ。
(幸せ……。このまま、地味な人間のふりをして、彼とずっと一緒にいられたら……)
私が甘い妄想に浸っていた、その時だった。
「――あらぁ? もしかして、そこにいるのは『落ちこぼれ』のリリムちゃんじゃない?」
背筋が凍った。
聞き覚えがありすぎる、甲高い声。
私が魔界の学校で、何年も聞かされ続けてきた「悪夢」の声。
恐る恐る振り返る。
そこには、周囲の視線を独り占めにする派手な美女が立っていた。
金髪の巻き髪、胸元が大胆に開いたレオパード柄のワンピース、そしてピンヒール。
露出狂スレスレのその姿は、まさにサキュバスの王道。
「メ、メリザ……ちゃん……?」
「やっぱり! うわー、久しぶり! 人間界にいるって噂は聞いてたけど、まさか本当にそんな『地味で冴えない格好』でドサ回りしてるなんてねぇw」
メリザ。私の幼馴染にして、クラスのトップに君臨していたいじめっ子サキュバス。
彼女はクスクスと笑いながら、値踏みするように私とケンジさんを交互に見た。
「リ、リリさん、知り合い?」
「は、はい……その、地元の……」
ケンジさんが不思議そうに尋ねる。
まずい。彼女は私の正体を知っている。ここでバラされたら終わりだ!
「ええ、お友達よぉ。ねえリリム、それが今の彼氏? プッ、なんかパッとしない男ねぇ。あんたにはお似合いの『残り物』って感じ?」
メリザの言葉に、カチンと来た。
私を馬鹿にするのはいい。でも、ケンジさんを馬鹿にするのは許せない。
けれど、言い返せば何をされるか分からない恐怖で、足がすくむ。
「……あの、失礼ですが」
その時、ケンジさんが一歩前に出た。
私を背に庇うように。
「彼女の友人を名乗るなら、もう少し言葉を選んでいただけませんか。リリさんは残り物なんかじゃありません」
「はぁ?」
メリザが目を丸くした。
そして次の瞬間、彼女の瞳が肉食獣のように細められた。
彼女は面白そうに唇を舐めると、スッとケンジさんに近寄った。
「あら、ごめんなさいね。……でも、お兄さん。そんな地味な子より、もっと『イイ思い』させてくれる相手、知りたくない?」
メリザは豊満な胸を、ケンジさんの腕にむぎゅっと押し付けた。
甘い香水の匂い。プロのサキュバス特有の、脳を溶かすようなフェロモン攻撃だ。
「私なら、その子じゃ絶対にできないようなコト、いーっぱい教えてあげられるわよ? ね、今から抜け出しちゃお?」
彼女の指先が、ケンジさんの胸元を這う。
ああっ、なんてこと!
これは「魅了(チャーム)」の魔術だ。
一般男性ならイチコロ。鼻の下を伸ばしてついて行ってしまう強力な誘惑。
(だ、ダメぇぇぇ! ケンジさんが取られちゃう!!)
私が悲鳴を上げようとした、その時。
バシッ。
乾いた音がした。
ケンジさんが、メリザの手を払い除けたのだ。
しかも、まるで汚いものを見るような、冷ややかな目で。
「……結構です」
「え?」
「僕は、派手で下品な女性は苦手なんです。香水の匂いもきつすぎます」
ケンジさんは無慈悲に言い放った。
魅了が効いていない!? いや、効くどころか、逆効果になっている!
「それに、リリさんと比べないでください。彼女の控えめで清純な美しさは、あなたのような方には理解できないでしょうから」
「は……はぁぁぁぁ!!?」
メリザが素っ頓狂な声を上げて固まった。
サキュバスのプライドを、真正面からへし折られた顔だ。
ケンジさんは私の手をギュッと握ると、彼女を一瞥もせずに背を向けた。
「行こう、リリさん。あんな人の話、聞く必要ないよ」
「は、はいっ……!」
私たちは呆然とするメリザを置き去りにして、その場を離れた。
繋がれた手から伝わってくるのは、怒りよりも「リリさんを守れた」という誇らしさと愛情。
(す、すごい……! あのメリザちゃんの誘惑を跳ね除けるなんて!)
私は胸がキュンキュンしすぎて爆発しそうだった。
やっぱりこの人は最高だ。
私の地味さが、彼にとっての最強の防御壁(シールド)になっている!
――だが、私たちは知らなかった。
背後でメリザが、鬼のような形相で震えていることを。
「……ふざけんじゃないわよ。この私が、あんな芋女に負けた……? ありえない……絶対にありえない!」
彼女のプライドに火がついた。
「許さない……あの男、絶対に落としてやる。私の足元にひざまずかせて、リリムの前でボロ雑巾にしてやるんだからぁっ!!」
魔界のいじめっ子が、本気のストーカー(兼ライバル)へと変貌した瞬間だった。
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