第20話:偽りの文学少女と、届かない告発
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第20話:偽りの文学少女と、届かない告発
本文
週末の図書館。
私とケンジさんは、並んで静かに本を読んでいた。
静寂、紙の匂い、そして隣に座る彼の体温。
これぞ「地味子カップル」の理想的な休日だ。
(幸せ……。メリザちゃんの件は怖かったけど、もう現れないといいな……)
そう思った矢先だった。
「あら、奇遇ですねぇ。こんなところで会うなんて」
聞き覚えのある、しかし「猫を被った」声がした。
顔を上げる。
そこには、黒髪のウィッグを被り、赤いフレームの眼鏡をかけ、白のワンピースを着た女性が立っていた。
手には難しそうな哲学書を持っている。
(メ、メリザちゃん!?)
一瞬誰か分からなかったが、その派手なネイルと、隠しきれない高飛車なオーラですぐに分かった。
彼女は私のライバル、メリザだ。
まさか、私の真似をして「地味子(文学少女)」に変装してくるなんて!
「はじめまして。私、『メリー』と言います。お二人も読書がお好きなんですか?」
メリザ(メリー)は、しなしなとケンジさんの向かいに座った。
そして、わざとらしく上目遣いで彼を見つめる。
「私、本の趣味が合う男性って素敵だと思うんです。……ねえ、この後、私と『本の感想戦』しませんか? 個室のカフェで……二人きりで♡」
彼女はテーブルの下で、ハイヒールを脱いだ足先をケンジさんの脚に這わせた。
露骨な誘惑。
しかも今回は「地味子」という、ケンジさんの好みに寄せた擬態だ。
(まずい……! ケンジさんは地味な子が好きなんだから、これには弱いかも!)
私が青ざめた、その時。
ケンジさんは眉をひそめ、冷徹に言い放った。
「……お断りします」
「えっ?」
「あなた、本なんて読んでないでしょう」
ケンジさんの観察眼が光った。
「その哲学書、上下逆さまですよ」
「!!」
「それに、そんな長い付け爪でページをめくったら本が傷つきます。あなたは『地味な文学少女』を演じているようですが……付け焼き刃の演技じゃ、本物の『清楚さ』は出せませんよ」
一刀両断だった。
ケンジさんにとって、メリザの変装は「神聖な地味子への冒涜」にしか見えなかったのだ。
「っ……!!」
図星を突かれたメリザの顔が、羞恥で真っ赤に染まる。
そして、怒りでウィッグがズレるのも構わずに立ち上がった。
「な、なによ! 偉そうに! 私が偽物だって言うならねぇ……!」
彼女は鬼の形相で、ビシッと私を指差した。
「そこの女――リリムだって、同類よ!!」
心臓が止まった。
ついに来た。爆弾発言だ。
「あんた、騙されてるわよ! こいつのその姿も、全部『変装』なんだから! 中身は私と同じ……いや、私以上に男好きで、ふしだらなサキュバスなんだからねっ!!」
図書館中に響き渡る声。
終わった。
私の正体が、サキュバスであることが、最悪の形でバラされた。
私はガタガタと震え、ケンジさんの顔を見ることすらできない。
(嫌われる……軽蔑される……もう終わりだ……!)
数秒の沈黙。
それが私には永遠に感じられた。
やがて、ケンジさんが静かに口を開いた。
「……君」
「ひっ、はいっ!(ごめんなさい!)」
私は反射的に謝ろうとした。
だが、ケンジさんの視線は、私ではなくメリザに向けられていた。
呆れと、憐れみを含んだ瞳で。
「……負け惜しみは見苦しいですよ」
「は、はぁ!?」
メリザがポカンと口を開ける。私もポカンとした。
「自分が選ばれなかったからって、リリさんを貶めるような嘘をつくなんて。……彼女が変装? ふしだら?」
ケンジさんは鼻で笑った。
「ありえませんね。僕は知っています。彼女の恥じらいも、震える指先も、すべてが本物だ。……あんなに初々しい反応をする子が、演技なわけがないでしょう」
ケンジさんの脳裏には、数々の「(彼目線の)清らかな思い出」が蘇っていた。
キスだけで真っ赤になり、手をつなぐだけで震え、初夜では泣き叫んだ(※快感で)リリ。
あれが演技なら、ハリウッド女優も裸足で逃げ出すレベルだ。
「出直してください。……僕たちの邪魔をしないでいただきたい」
「キィィィィッ!! バッカじゃないの!? あんたなんか、いつか絶対リリムに吸い尽くされて死ぬんだからぁっ!!」
メリザは捨て台詞を吐くと、哲学書を放り投げて逃げ出した。
嵐が去った後、ケンジさんは優しく私に向き直った。
「ごめんね、リリさん。変な言いがかりをつけられて」
「あ……う、うん……」
「『変装』だなんて、笑っちゃうよね。君のこの素朴な魅力が、作り物であるはずがないのに」
彼は愛おしそうに、私の三つ編み(作り物)と、眼鏡(伊達)に触れた。
「し、信じて……くれないの? 彼女の言うこと……」
「信じるわけないだろ? 嫉妬に狂った人の言葉なんて」
ケンジさんは爽やかに笑った。
(……助かったぁぁぁぁ……!!)
私は安堵で腰が抜けそうだった。
彼の「地味子フィルター」と、私の今までの「ヘタレっぷり」が、最悪の暴露を防いでくれたのだ。
(でも……『いつか吸い尽くされて死ぬ』って予言だけは、気をつけなきゃ……!)
私は引きつった笑顔で頷いた。
秘密は守られた。
けれど、メリザの執念深さを考えると、これで終わるとは思えなかった。
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