第21話︰解かれた三つ編みと、否定された真実
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第21話︰解かれた三つ編みと、否定された真実
本文
メリザの捨て台詞が、図書館の静寂にいつまでも残響していた。
『こいつの姿も、全部変装なんだから!』
ケンジさんは「信じない」と言ってくれた。
けれど、私の心臓は早鐘を打っていた。
バレたかもしれない。いや、いつかバレる。
メリザは本気だ。彼女がその気になれば、もっと決定的な証拠(例えば、私の魔界の学生証とか)を持ってくるかもしれない。
(……もう、潮時だわ)
私は震える手で、膝の上で拳を握りしめた。
これ以上、大好きなケンジさんを騙し続けるのは苦しい。
彼が私のことを「信じる」と言ってくれている今だからこそ、私の口から本当のことを言わなきゃ。
たとえ、嫌われることになったとしても。
「……ケンジさん」
「ん? どうしたの、リリさん」
私は意を決して、顔に手をやった。
まず、分厚い瓶底メガネを外す。
視界がクリアになる。
次に、きっちりと編み込んだ三つ編みのゴムを解き、指を通して髪をほどく。
ファサッ……。
長く艶やかな銀髪が、波打つように広がり、私の肩や背中を覆った。
地味な文学少女から、本来の「サキュバス・リリム」の容姿へ。
これが、私の本当の姿。
「あ……」
ケンジさんが息を呑む音が聞こえた。
彼は目を見開き、変貌した私を凝視している。
幻滅しただろうか。詐欺だと怒るだろうか。
「ごめんなさい、ケンジさん。……メリザちゃんの言う通りなんです」
私は涙目で、彼に頭を下げた。
「私は、貴方が思っているような『地味で真面目な子』じゃありません。本当は、こんな派手な見た目で……今まで、嘘をついてました」
言った。言ってしまった。
もう後戻りはできない。
サキュバスであることまでは言えなかったけれど、変装していた事実は認めた。
さあ、罵倒して。軽蔑して。
しかし。
いつまで経っても、怒号は飛んでこなかった。
「……すごい」
聞こえてきたのは、感嘆の溜息だった。
「リリさん……君は、眼鏡を外して髪を下ろすと、そんなに……いや、言葉が出ないほど綺麗だったんだね」
顔を上げると、ケンジさんは顔を真っ赤にして、私に見惚れていた。
怒っていない?
「い、いや、びっくりしたよ。雰囲気がガラッと変わるから。まるで映画のヒロインみたいだ」
「えっ、あ、あの……怒らないんですか? 騙してたのに……」
「騙す? 何を?」
ケンジさんはキョトンとした。
そして、優しく笑って首を横に振った。
「ああ、さっきのあの人の言葉を気にしてるの? 『サキュバス』だっけ?」
その単語に、私の肩がビクッと跳ねる。
「そ、そうです! 私が、その……男の人を誘惑する、サキュバスだとしたら……」
「はははっ! ありえないよ!」
ケンジさんは爽やかに、そして即座に否定した。
「だって、リリさん。思い出してごらん? 僕たちが初めてホテルに行った時のことを」
「えっ?」
「君は震えてた。怖くて、泣きそうになってたじゃないか」
彼は懐かしむように遠くを見た。
「それに……この前の夜。君は初めてで、僕を受け入れる時も、痛がって、怖がってた」
「うっ……(そ、それはサイズが規格外だったから……!)」
「サキュバスっていうのは、男を骨抜きにする手練れの悪魔のことだろう? あんなに純粋で、ウブで、処女だった君が、サキュバスなわけがないじゃないか」
ケンジさんの論理は完璧だった。
完璧すぎて、反論の余地がなかった。
「見た目が少し派手に見えても、中身があんなに清らかなんだ。君がサキュバスだなんて、天地がひっくり返ってもありえないよ」
彼は私の手を取り、愛おしそうに握りしめた。
「だから、そんな変な嘘をついて自分を卑下しなくていいんだよ。どんな姿でも、リリさんは僕の大切な『天使』なんだから」
(…………詰んだ)
私は心の中で崩れ落ちた。
私の「サキュバスとしての無能さ(処女・ビビり)」が、鉄壁のアリバイになってしまったのだ。
ここで「いえ、実は落ちこぼれのサキュバスなんです」なんて言えるわけがない。
言ったら、「天使」という幻想を壊すだけでなく、彼のこの純粋な信頼を裏切ることになる。
「……はい。ありがとうございます、ケンジさん……」
私は引きつった笑顔で頷くしかなかった。
正体を明かすチャンスは、永遠に失われた。
私はこれからも、「サキュバスではないと信じ込まれているサキュバス」として、彼を騙し続けなければならないのだ。
ケンジさんは、美少女化した私を見て、さらにデレデレになっている。
ああ、神様(魔王様)。
私の嘘は、いつまで通用するのでしょうか……。
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