第29話:傲慢な居候と、怒れる家主
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あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第29話:傲慢な居候と、怒れる家主
本文
帰宅後。
メリザは早々にソファの一番いい場所を陣取り、スマホをいじり始めた。
「あーあ、疲れた。ねえリリム、喉乾いた。炭酸水持ってきて。氷少なめでね」
「あ、うん。分かった……」
私は条件反射で冷蔵庫に向かおうとした。
昔からこうだった。メリザは命令し、私は従う。それが当たり前の関係だったから。
「それとさぁ、この男(ケンジ)、つまんないわ」
メリザはあくびを噛み殺しながら言った。
「金もないし、私の魅力も通じないし、反応も薄いし。……期待外れだったわ」
「っ……」
「ま、しばらくは宿として使ってあげるけど。……おい、リリム。夕飯のハンバーグ、まだ? 私、焼き加減はレアが好きなんだけど。早く作ってここに持ってきなさいよ」
彼女はケンジさんの存在を無視して、私に顎で指示を出した。
完全に「召使い」扱いだ。
「は、はい。今すぐ……」
私がキッチンに向かおうと一歩踏み出した、その時。
ガシッ。
私の腕が、誰かに強く掴まれた。
ケンジさんだった。
彼は私の動きを止めると、ゆっくりとメリザの方を向いた。
その表情は、普段の温厚な彼からは想像もつかないほど、冷たく、硬かった。
「……リリさん」
「は、はい?」
「行かなくていい」
ケンジさんは私を自分の背後に立たせると、ソファのメリザを見下ろした。
「おい、そこの人」
「はぁ? メリザよ」
「名前なんてどうでもいい。……いい加減にしてください」
静かな、ドスの効いた声だった。
「僕の家で、僕の大切な人に命令するのはやめていただきましょうか」
「な、なによ。こいつは昔から私のパシリで……」
「昔のことは知りません。でも、今は違います」
ケンジさんはきっぱりと言い放った。
「彼女は僕の恋人であり、将来を共にしたいと思っているパートナーです。あなたの召使いじゃない」
「は……?」
「食事も、飲み物も、欲しければ自分でやってください。リリさんはあなたのお世話係をするためにここにいるんじゃない。……これ以上彼女を軽んじるような態度を取るなら、今すぐ出て行ってもらいます」
部屋の空気が凍りついた。
メリザが目を見開き、口をパクパクさせている。
彼女は今まで、男に甘やかされることはあっても、こんなふうに本気で怒られたことなんてなかったのだろう。
「な、なによ……! たかが宿を貸してるくらいで偉そうに! こっちは被害者なのよ!?」
「被害者なら、助けてくれる人に敬意を払うべきだ。……特に、リリさんは自分の狭いベッドを犠牲にしてまで、あなたを心配しているんですよ?」
正論パンチ。
ぐうの音も出ない正論が、メリザに突き刺さる。
「…………ふんっ!」
メリザは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
でも、それ以上「持ってこい」とは言わなかった。
ケンジさんはふぅ、と息を吐くと、私に向き直っていつもの優しい笑顔に戻った。
「ごめんね、リリさん。怖い顔しちゃって」
「う、ううん……!」
私は首を横に振った。
怖くない。全然怖くない。
むしろ、私のために本気で怒ってくれたことが、嬉しくてたまらなかった。
(守ってくれた……。あの上位サキュバスのメリザちゃんから、私を守ってくれた……!)
私の胸はときめきで破裂しそうだった。
この人は、サキュバスの魅力が通じないだけじゃない。
どんな相手だろうと、私を一番に扱ってくれる「真の騎士(ナイト)」なんだ。
「さ、一緒にご飯作ろうか。メリザさんの分も……まあ、作るけど。セルフサービスでね」
「はいっ、ケンジさん!」
私は彼のエプロンの紐を結んであげながら、背後で小さくなっているメリザに心の中で勝利宣言をした。
(見た? これが私の彼氏よ。……もう、昔の私じゃないんだから!)
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