第30話:泡だらけの贖罪と、真夜中のドラマ鑑賞会
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あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第30話:泡だらけの贖罪と、真夜中のドラマ鑑賞会
本文
気まずい夕食が終わった。
ケンジさんに叱られたショックか、メリザは珍しく大人しくハンバーグ(リリ特製・豆腐入り節約仕様)を完食していた。
「……ごちそうさま」
メリザはフォークを置くと、不貞腐れたように、でもどこか殊勝な態度で立ち上がった。
「ねえ、リリム。皿、貸しなさいよ」
「えっ?」
「いつまでも『タダ飯食らい』扱いされるのは癪なのよ。……皿洗いくらい、私がやるわ」
「ええっ!? メリザちゃんが!?」
驚愕だ。実家では召使いに靴まで履かせてもらっていたあのお嬢様が、自らスポンジを握るなんて!
ケンジさんは「いいですよ、僕がやりますから」と言ったが、メリザは「いいから座ってて!」とキッチンへ入っていった。
そして、数分後。
「きゃあぁぁぁっ!?」
キッチンから悲鳴が上がった。
私とケンジさんが慌てて駆けつけると、そこは「泡の国」になっていた。
「な、なによこれぇぇぇ! 泡が止まらないぃぃぃ!」
「メ、メリザちゃん!? 洗剤どれくらい入れたの!?」
「『汚れがひどい時は多めに』って書いてあったから、ボトル半分くらい入れたわよ!」
「入れすぎ!! しかもそれ、濃縮タイプ!!」
シンクから溢れ出した泡が、床へと雪崩れ込んでいる。
メリザは泡まみれになりながら、「ヌルヌルして皿が掴めないぃぃ!」とパニック状態だ。
「ぷっ……あははは!」
それを見たケンジさんが、吹き出した。
さっきまでの怒った顔はどこへやら、お腹を抱えて笑っている。
「すごいね、映画のセットみたいだ。……大丈夫ですか、メリザさん」
「わ、笑い事じゃないわよ! 服がベタベタ……!」
「はい、タオル。床は僕が拭くから、リリさんはメリザさんを洗面所へ」
結局、三人掛かりで大掃除をする羽目になった。
でも、みんなで床を拭いているうちに、さっきまでの険悪な空気は、いつの間にか泡と一緒に消えていた。
***
掃除を終え、くたくたになった三人はリビングのソファに並んで座った。
テレビをつけると、ちょうど人気の恋愛ドラマが放送されていた。
『俺は……君より仕事が大事なんだ!』
『嘘つき! あの女と歩いてたじゃない!』
画面の中で、イケメン俳優がヒロインを振っている。
それを見た瞬間、メリザのスイッチが入った。
「はぁぁぁ!? なによコイツ! サイテー!!」
彼女はクッションを抱きしめ、画面に向かって吠えた。
「『仕事が大事』とかいう男に限って、大した仕事してないのよ! アランもそうだったわ! 『明日は撮影が早い』とか言って、実は他の女と合コンしてたんだからぁっ!」
「あ、あの、メリザちゃん……落ち着いて……」
「落ち着けるわけないでしょ! 見てよこの顔、アランにそっくり! ムカつくぅぅぅ!!」
メリザの罵詈雑言が止まらない。
どうやら、ドラマのクズ男に元カレを重ねているらしい。
ケンジさんは苦笑いしながら、新しい麦茶を彼女の前に置いた。
「まあ、飲みなよ。……そのアランって人、本当に見る目がないね」
「えっ?」
「だって、メリザさんみたいに……その、個性的で綺麗な人を振るなんて。もったいないことするよ」
ケンジさんの天然のキラーパス。
メリザがピタリと止まり、またしても顔を赤くした。
「ふ、ふんっ! 当たり前よ! 後悔させてやるんだから!」
彼女はそう強がったが、その表情はさっきまでの般若のような顔ではなく、どこか救われたような顔をしていた。
「……ねえ、リリム」
「ん?」
「あんたの彼氏、ちょっと変わってるけど……まあ、悪い男じゃないかもね」
ボソッと呟かれたその言葉。
私は嬉しくなって、隣のケンジさんの腕にギュッとくっついた。
「でしょ? 私の自慢の彼氏だもん!」
「はいはい、ごちそうさま。……あーあ、私も次はこういう『中身』のある男、探そうかなぁ」
テレビの明かりに照らされた三人の横顔。
サキュバス二人と、人間一人。
奇妙な共同生活の夜は、騒がしくも穏やかに更けていった。
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