第31話:束の間の楽園と、合鍵を持つ侵入者
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第31話:束の間の楽園と、合鍵を持つ侵入者
本文
その日の午後、メリザは唐突に宣言した。
「私、ここを出て行くわ」
「えっ、本当!?」
私が思わず声を弾ませると、メリザはフンと鼻を鳴らし、スマホの画面を見せつけてきた。
「マッチングアプリで捕まえたのよ。IT社長の『パパ』をね。今日から彼のタワマンに住むことになったから」
「そ、そうなんだ……(やったぁぁぁ!!)」
「世話になったわね、貧乏カップルさん。せいぜい慎ましくお幸せに!」
メリザは嵐のように荷物をまとめ、バタン!とドアを閉めて出て行った。
部屋に残されたのは、私とケンジさん、そして久々に訪れた静寂だった。
「……行っちゃったね」
「はい……行っちゃいましたね」
私たちは顔を見合わせた。
そして、同時に肩の力を抜いて、ソファに雪崩れ込んだ。
「ふぅぅぅ……! 疲れたぁ……!」
「やっと……やっと二人きりですね、ケンジさん!」
喜びが爆発する。
この数日間、常に監視され、邪魔され、ベッドも狭かった。
でも今夜からは違う。ここは再び、愛の巣に戻ったのだ!
「リリさん」
「はいっ」
ケンジさんが、熱っぽい瞳で私を見つめてくる。
邪魔者が消え、彼の「鉄壁の理性」も少し緩んでいるようだ。
「久しぶりに……ゆっくり、愛し合おうか」
「……はい♡」
言葉はいらなかった。
私たちは求め合うように唇を重ねた。
チュッ、と甘い音が響く。
ケンジさんの手が私の腰を引き寄せ、そのままベッドへと押し倒す。
「んっ……ケンジさん……♡」
久しぶりの独占状態。
彼から流れ込んでくる精気は、開放感も相まって格別の味がした。
服に手が伸びる。
もう誰にも邪魔されない。今夜こそ、朝までたっぷりと――。
ガチャリ。
玄関の方で、無機質な金属音がした。
鍵が開く音だ。
「……え?」
私とケンジさんは動きを止めた。
鍵はかけたはずだ。
もしかして泥棒? それとも大家さん?
ガチャ。キィィィ……。
ドアが開き、ハイヒールの足音がカツカツと近づいてくる。
「ただいまー。あーあ、最悪だったわ」
リビングに現れたのは、数時間前に出て行ったはずのメリザだった。
「メ、メリザさん!? どうして!?」
「な、なんで入れたの!?」
私たちがベッドの上で重なり合ったまま叫ぶと、メリザは「あ」と気まずそうな(でもない)顔をした。
「あら、ごめんなさい。盛り上がってる最中だった?」
「そうよ! じゃなくて、なんで鍵が開いたのよ!」
「ああ、これ?」
彼女は悪びれもせず、指先でキラキラした鍵を回してみせた。
「近所の鍵屋で作っといたのよ。合鍵」
「はぁぁぁぁ!? いつの間に!?」
「念のためよ、念のため。……で、そのIT社長なんだけどさぁ、会ってみたら写真と全然違ってハゲてたのよ! しかも『お手当は後払いで』とか言い出すし、セコすぎて無理!」
彼女はドサッとバッグを放り投げ、いつもの定位置(ソファ)に座り込んだ。
「だから帰ってきたわ。……ねえ、お腹空いた。リリム、何か作って」
「ふ、ふざけないでよぉぉぉ!!」
私はベッドから飛び起きた。
「出て行ったんでしょ!? ここは貴方の家じゃないのよ! しかも合鍵って……犯罪よ!?」
「固いこと言わないでよぉ。行く当てがないんだから仕方ないでしょ? それに……」
メリザはニヤリと笑い、固まっているケンジさんに視線を向けた。
「お兄さんは優しいから、追い出したりしないわよねぇ?」
「くっ……(痛いところを……!)」
ケンジさんは頭を抱えた。
彼の性格上、行き場のない(しかも変な男に騙されかけた)女性を、夜の街に放り出すことなんてできない。
メリザはそれを完全に見抜いているのだ。
「……はぁ。分かりました。……おかえりなさい、メリザさん」
「やった♡ さっすが家主!」
「でも!! 合鍵は没収です! それと、ノックくらいしてください!!」
ケンジさんの悲痛な叫びも、メリザには馬の耳に念仏。
こうして、私たちの「束の間の楽園」はわずか数時間で崩壊し、再び泥沼の同居生活が再開されたのだった。
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