第34話:熱に浮かぶ羽根と、共有された罪悪感
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あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第34話:熱に浮かぶ羽根と、共有された罪悪感
本文
その夜、私は突然の高熱に倒れた。
ただの風邪じゃない。これは「魔界熱」。
人間界の環境に長く居すぎたり、精気摂取のバランスが崩れたりすると発症する、サキュバス特有の知恵熱のようなものだ。
「うぅ……あつい……」
「リリさん! しっかり!」
ケンジさんが氷枕を変え、甲斐甲斐しく看病してくれる。
でも、今の私は絶体絶命のピンチだった。
熱による制御不全で、背中の羽と尻尾が勝手に飛び出してしまっているのだ。
今は布団を頭まで被って隠しているけれど、これが見つかったら終わりだ。
「汗がすごいね。着替えないと、逆に冷えちゃうよ」
「だ、ダメ……! 見ちゃダメ……!」
私は布団を強く握りしめて拒否した。
ケンジさんが困った顔をする。
普通なら、「病人が何を言ってるんだ」と無理やり着替えさせるところだ。
しかし、彼は違った。
「……分かった。僕じゃ、恥ずかしいよね」
彼は優しく微笑むと、リビングの方へ声をかけた。
「メリザさん。すみませんが、ちょっと来てもらえますか?」
「あぁ? なによ、ドラマいいところなのに」
不機嫌そうなメリザが入ってくる。
ケンジさんはタオルと着替えを彼女に渡した。
「リリさんの着替えをお願いできますか? 彼女、汗で服が張り付いてて……僕が見るのは、その、彼女も嫌がると思うので」
「はぁ? なんで私が……」
「お願いします。リリさんの尊厳を守ってあげたいんです」
ケンジさんは深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
パタン、とドアが閉まる。
部屋には、私とメリザだけが残された。
「……チッ。あいつ、どんだけお人好しなのよ」
メリザは舌打ちしながらベッドに近づき、乱暴に掛け布団をめくった。
「ほら、さっさと脱ぎなさいよ。……って、うわっ」
彼女の目が点になった。
そこには、汗まみれのパジャマを突き破って、黒いコウモリの羽がバサバサと蠢いている私の姿があったのだ。
「あんた……制御できてないじゃない。あいつが見てたら一発アウトだったわよ?」
「うぅ……メリザちゃん……」
「ほら、じっとしてなさい。羽、畳んであげるから」
メリザは文句を言いながらも、手際よく私の体を拭き、着替えさせ、飛び出した羽を魔術的なマッサージで体内に押し戻してくれた。
その手つきは意外にも優しかった。
「……ねえ、メリザちゃん」
「なによ」
「私……ケンジさんに、まだ言えてないの」
「……何を? サキュバスだってこと?」
「うん……」
私は熱い息を吐きながら、涙を流した。
「彼、私のこと『天使みたい』って信じてくれてる。……でも本当は、こんな羽が生えた悪魔なのに。騙してるのが、苦しいよ……」
弱音が溢れ出した。
彼が優しければ優しいほど、罪悪感が胸を締め付ける。
いつかバレたら、あの優しい笑顔が軽蔑に変わるんじゃないか。それが怖くてたまらない。
メリザは着替えの手を止め、呆れたように私を見下ろした。
「……バカね」
「うぅ……」
「今さら何をビビってんのよ。あんたがあの男を騙してる? 逆よ」
「え?」
「あの男が、勝手にあんたを『理想の女』として見てるだけじゃない。あんたはただ、それに合わせてるだけ。……ま、それが『騙してる』ってことになるのかもしれないけど」
メリザは新しいパジャマのボタンを留めながら、フンと鼻を鳴らした。
「言えないなら、墓場まで持ってく覚悟を決めなさいよ。あいつは、あんたの着替えすら私に頼むような男よ? あんたの『秘密』ごと守ろうとしてるのよ」
「ケンジさんが……?」
「そうよ。だから……さっさと治しなさい。あんたがウジウジしてると、見てるこっちがイライラすんのよ」
彼女は私の額に冷えピタを乱暴に貼り付けると、立ち上がった。
「着替え終わったわよー! 入っていいわよ、お人好しさん!」
「ありがとうございます、メリザさん!」
ケンジさんが飛び込んでくる。
メリザは私を一瞥もしないで部屋を出て行った。
でも、去り際に彼女が少しだけ悲しそうな、羨ましそうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。
(……ありがとう、メリザちゃん)
私は心の中で呟いた。
秘密はまだここにある。
でも、それを共有してくれる「共犯者」ができたことで、私の心は少しだけ軽くなった気がした。
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