第38話:Yシャツの香り、発覚した情欲、そして……
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あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第38話:Yシャツの香り、発覚した情欲、そして……
本文
引っ越しから数日後。
ダブルベッドが届くまで、あと1週間。
私の限界は、もうとっくに超えていた。
(お腹すいた……ケンジさん食べたい……)
平日の昼下がり。
ケンジさんは会社へ行っている。
私は新居の寝室で、洗濯カゴの中に顔を突っ込んでいた。
ターゲットは、昨日ケンジさんが着ていたYシャツだ。
「すーっ……はぁ……っ♡」
襟元に鼻を押し当て、思い切り息を吸い込む。
彼の残り香。少し汗ばんだ、男の人の匂い。
それだけで、私の脳内麻薬(ドーパミン)がドバドバと溢れ出す。
「んぅ……ケンジさん……いい匂い……好きぃ……」
私はYシャツを抱きしめ、布団の上でゴロゴロと転がった。
想像する。このシャツを着ていた彼の背中、腕、そして私を抱きしめる感触。
身体が熱い。胸の奥がキュンキュン疼く。
「はぁ……早く帰ってこないかなぁ……」
サキュバス失格だ。
ターゲットがいない間に、その抜け殻(シャツ)で空腹を紛らわせるなんて。
でも止まらない。寂しい。欲しい。満たされたい。
私はYシャツに顔を埋め、くんくんと犬のように匂いを貪りながら、ベッドの上でもだえ苦しんでいた。
「ケンジさん……ケンジさぁんっ……!」
ガチャ。
「リリさん? 忘れ物しちゃって――」
時が、止まった。
寝室のドアが開いている。
そこには、ネクタイを締め直そうとしているケンジさんが立っていた。
対する私は、ベッドの上でうつ伏せになり、彼のYシャツを顔に押し当て、恍惚の表情で匂いを嗅いでいる真っ最中。
「…………」
「…………」
永遠のような沈黙。
終わった。
清楚な地味子、完全崩壊。
「夫の不在中にシャツの匂いを嗅ぎまくる変態妻」だと思われた。嫌われた。
「あ、あ、あの……これは……その……! ち、違くて……!」
私が真っ赤になって震え出し、Yシャツを取り落とすと、彼はハッとしたように我に返った。
バタン。
ケンジさんが静かにドアを閉め、鍵をかけた。
そして、ゆっくりと私に近づいてくる。
「……リリさん」
「は、はいぃっ!(ごめんなさい!)」
「そんなに……寂しくさせちゃってたんだね」
え?
顔を上げると、彼は怒っていなかった。
むしろ、少し熱っぽい瞳で、愛おしそうに私を見下ろしていた。
耳まで赤くなっているのが分かる。
「ごめんね。僕のシャツなんかで我慢させて」
「えっ、あ、いや……私が匂いフェチなだけで……」
「そんな可愛いことされたら……僕だって、我慢できないよ」
彼はベッドサイドに膝をつくと、私の顎を優しくすくい上げた。
「シャツの残り香じゃなくて……今の僕の匂い、嗅いで?」
言うが早いか、彼の顔が近づき――唇が塞がれた。
「んっ……!? んぅ……っ♡」
いきなりの深いキス。
唇から流れ込んでくる熱と、本物の彼の匂いに、私の思考は一瞬で吹き飛んだ。
(あ、甘いっ……! すごい精気……っ!)
Yシャツとは比べ物にならない。
直接触れ合う唇から、極上のエネルギーが奔流となって注ぎ込まれる。
私はシャツを握りしめたまま、彼の首に腕を回し、夢中で舌を絡めた。
「ふぁ……っ、んちゅ、あ……っ♡」
「リリさん、可愛い……すごい熱だ……」
合間に漏れる吐息さえも甘い。
彼は私を抱きすくめると、喰らうように、けれど大切そうに何度も口づけを落としてくる。
蕩けるような愛撫のようなキスに、膝の力が抜け、私はその場にへたり込んでしまった。
「はぁ、はぁ……ケンジ、さん……腰、ぬけちゃっ……」
「……まだ、離さないよ」
とろんとした目で見つめ返すと、彼は意地悪く笑って、再び唇を重ねてきた。
その濃厚な「栄養補給」だけで、私は何度も頭の中が真っ白になるほどの快感を味わった。
***
しばらくして。
すっかり骨抜きにされ、ベッドに沈む私を撫でながら、ケンジさんは満足そうに囁いた。
「……新しい発見だったな。リリさんが『匂いフェチ』だったなんて」
「うぅ……忘れてください……」
「はは、無理かな。……でも、ベッドが届いたら覚悟しておいてね? キスだけじゃ済ませないから」
その言葉に、私は再び背筋がゾクゾクした。
サキュバスであること(食欲)はバレなかったけれど、ドスケベであること(性欲)は深まっちゃった気がする。
……でも、これはこれで、悪くないかもしれない。
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