第39話:キングサイズの愛と、明かされた悪魔の正体
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~ - 第39話:キングサイズの愛と、明かされた悪魔の正体
本文
ついに、その日が来た。
配送業者の屈強な男性二人がかりで搬入された、キングサイズのダブルベッド。
真新しいシーツの匂いと、圧倒的な存在感。
「……やっとだね、リリさん」
「はい……長かったです」
夜。私たちはベッドの端に並んで座っていた。
間接照明だけの薄暗い部屋。
心臓の音がうるさいくらいに響いている。
ケンジさんが私の肩に手を回し、ゆっくりと押し倒した。
ふかふかのマットレスが沈み込む。
彼の顔が近づき、熱い口づけが落ちてくる。
優しい手つきでパジャマのボタンが外されていく。
「リリさん……愛してる」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸に鋭い痛みが走った。
喜びじゃない。罪悪感だ。
(……ダメだ)
このまま流されてはいけない。
彼は「人間としての私」を愛してくれている。
でも、これから彼が抱くのは、精気を貪る「サキュバス」なのだ。
こんな大事な夜に、嘘をついたまま抱かれるなんて、できない。
「……待って」
私は彼の胸に手を当てて、動きを止めた。
「どうしたの? 怖くないよ、ゆっくりするから……」
「違うんです。……ケンジさん、聞いてほしいことがあります」
私は身を起こし、正座をして彼に向き合った。
ケンジさんも、私の真剣な表情を見て居住まいを正す。
「以前……図書館で、メリザちゃんに言われたこと、覚えてますか? 私が変装してるって」
「うん。でも、あれは彼女の嫉妬で……」
「違います!!」
私は大きな声で遮った。
驚くケンジさんを見て、私は深呼吸をした。
もう、逃げない。
「嘘じゃないんです。……私は、普通の人間じゃありません」
私は意識を集中させた。
背中の奥にある感覚を解き放つ。
もう隠さない。ありのままの姿を。
バサァッ……!
私の背中から、黒く大きなコウモリの羽が広がった。
お尻からは、先端がハート型になった尻尾が伸び、ゆらりと揺れる。
頭には、小さな黒い角が現れる。
完全なる、サキュバスの姿。
「……え?」
ケンジさんが絶句した。
彼は瞬きもせず、私の羽を見つめている。
これが現実(リアル)だ。作り物でも、幻覚でもない。
「私はサキュバスのリリム。……人間の精気を吸って生きる、魔界の住人です」
声が震える。
「貴方に近づいたのも、最初は……ご飯にするためでした。貴方が童貞で、精気が美味しそうだったから……」
最悪の告白だ。
利用していたと言ったも同然だ。
軽蔑される。怖がられる。逃げられる。
覚悟をして、私は目を閉じた。
「…………」
沈黙が痛い。
数秒が数時間に感じられた。
やがて、カサッという音がして、頬に温かいものが触れた。
ケンジさんの手だった。
「……そっか」
恐る恐る目を開ける。
そこには、いつもと変わらない、穏やかで優しい笑顔があった。
「驚いたな。……コスプレじゃなくて、本物だったんだね」
「こ、怖くないんですか……? 悪魔ですよ? 貴方を食べるために近づいたんですよ?」
「最初はそうだったかもしれない。……でも」
彼は私の頭に生えた角を、愛おしそうに撫でた。
「君は僕を食べなかった。……僕が風邪を引いた時は看病してくれた。僕が辛い時はそばにいてくれた。メリザさんから僕を守ろうとしてくれた」
彼の指が、背中の羽を優しくなぞる。
敏感な羽がビクッと反応する。
「種族なんて関係ないよ。僕が見てきた『リリさん』は、優しくて、恥ずかしがり屋で、一生懸命な女性だ。……それが全てだよ」
「ケンジさん……っ!」
「それに、サキュバスってことは……僕の精気が、君の元気の源になるってことだよね?」
彼は少し悪戯っぽく笑った。
「だったら、よかった。僕の全てが、君の役に立てるなら本望だ」
聖人だ。
この人は、私が悪魔であることさえも、愛の一部として飲み込んでしまった。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
私は彼に飛びつき、号泣した。
羽で彼を包み込み、尻尾を彼の足に絡ませて、力の限り抱きしめた。
「大好き……! 大好きです、ケンジさん……!」
「うん。僕も愛してるよ、リリさん」
秘密はなくなった。
私たちの間にあるのは、キングサイズのベッドと、種族を超えた愛だけ。
「さあ……ご飯の時間だよ、リリさん」
ケンジさんが私を押し倒す。
今度は私も、羽を広げたまま彼を受け入れた。
サキュバスとしての本能も、恋する乙女としての心も、全てを満たす長い夜が始まった。
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