第14話 王太子が「詐欺師め、処刑する」と剣を抜いたので、国王の「水銀中毒」を言い当てて黙らせた
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あらすじ
【悲報】魔法世界の住人、俺の「現代組織論」と「洗脳技術」になすすべなく堕ちていく。~インチキ宗教を立ち上げたら、知識が最強すぎて世界征服してしまった件~ - 第14話 王太子が「詐欺師め、処刑する」と剣を抜いたので、国王の「水銀中毒」を言い当てて黙らせた
本文
ベアトリス侯爵令嬢を「販売員カモ」にしたマルチ商法は大成功を収めた。 貴族たちの虚栄心がガソリンとなり、香水は爆発的に普及。我々の元には、寝ていても金と情報が転がり込むシステムが完成していた。
だが、急激すぎる膨張は、破裂を招く。 特に、その国の中枢を刺激してしまった場合は。
「……話が違うじゃないか、ルシアン」
王城の裏口から通された、薄暗い石造りの部屋。 アリアが真っ青な顔で私の袖を掴んでいる。 ここは華やかな舞踏会場ではない。王族が密談を行うための、非公式の謁見室だ。
我々を呼び出したのは、公爵夫人ではない。 この国の事実上の最高権力者――王太子フレデリック殿下だ。
「静かに。……粗相のないようにな」
私はアリアを背に庇い、跪いた。 部屋の奥、豪奢な椅子に座る金髪の青年。その瞳は氷のように冷たく、我々を見下ろしていた。 そしてその隣には、豪奢な玉座に深く沈み込むように座る、初老の男――国王陛下がいる。 だが、国王の様子がおかしい。虚ろな目で宙を見つめ、ブツブツと何かを呟いている。
「面を上げよ」
王太子の声が響く。 私が顔を上げると、そこには侮蔑の色が浮かんでいた。
「ローゼンバーグ公爵家の新しい養女、アリア。そしてその従者。……いや、稀代の詐欺師と呼ぶべきか?」
王太子は手元のテーブルに置かれた「聖女の石鹸」と「香水」を指差した。
「王宮魔導師に成分を分析させた。……魔力など、欠片も入っていないな?」
やはりか。 この男は、これまでの貴族たちとは違う。 「奇跡」を盲信せず、論理と科学で検証を行える知性を持っている。
「ただの油と灰を混ぜた石鹸。花を煮詰めただけの香水。……それを『聖女の奇跡』と偽り、貴族たちから巨額の富を巻き上げている。これは立派な詐欺罪であり、国家転覆を企む反逆罪だ」
チャキッ。 部屋の四隅に控えていた近衛兵たちが、一斉に剣を抜いた。 逃げ場はない。
「申し開きはあるか? なければこの場で処刑する」
王太子が自らも腰の剣に手をかける。 アリアが「ひっ」と悲鳴を上げる。絶体絶命だ。
だが――私の心拍数は、むしろ落ち着いていた。 私は王太子の剣ではなく、その隣にいる**「国王」**を凝視していたからだ。
(……間違いない)
私は観察オブザベーションのギアを上げた。
国王の様子は明らかに異常だ。 1.手の震え(振戦) 膝の上に置かれた手が、小刻みに震えている。寒さや老化によるものではない。神経系の異常だ。
2.精神錯乱 先ほどから、誰もいない空間に向かって怯えるような視線を向けている。幻覚が見えているのだ。情緒不安定。
3.歯茎の変色 これが決定的だった。半開きになった口元。その歯と歯茎の境目に、黒紫色の線(色素沈着)が走っている。
現代医学の知識がある者なら、一発で分かる症状だ。 これは「病気」ではない。 **「中毒」**だ。
私は処刑の剣を突きつけられながら、静かに口を開いた。
「……殿下。処刑なされる前に、一つだけ予言をさせていただいても?」 「予言だと? 往生際の悪い」 「国王陛下の病についてです」
その言葉に、王太子の動きが止まった。 国王の病はトップシークレットのはずだ。
「陛下は最近、激しい頭痛と不眠に悩まされ、性格が凶暴になったかと思えば、急に塞ぎ込む……そんな症状を繰り返しておられませんか?」 「ッ!? ……なぜ、それを」 「そして、口の中に『金属の味』がすると訴えておられるはずです」
王太子の動揺が見て取れた。図星だ。
「貴様……どこでその情報を……」 「見ただけです。……陛下は、**『毒』**を盛られていますよ」
私は、国王の背後に控えていた、ローブ姿の男を指差した。 宮廷専属の錬金術師だ。
「そこの男に」
「なっ!?」 指差された錬金術師が叫んだ。 「無礼な! 私は陛下に、伝説の『不老不死の秘薬』を献上しているのだぞ! 高純度の賢者の石を溶かした、聖なる霊薬だ!」
錬金術師が取り出した小瓶の中には、銀色に輝くドロドロとした液体が入っていた。 それを見た瞬間、私は確信した。
――**水銀(Mercury)**だ。
前世の歴史でも、秦の始皇帝をはじめ、多くの権力者が「不老不死」を求めて水銀を飲み、中毒死した。 常温で液体である唯一の金属。その神秘的な輝きは、無知な者には「永遠の命の源」に見えるのだろう。 だが実態は、脳神経を破壊し、肉体を崩壊させる猛毒だ。
「その『銀色の水』こそが、諸悪の根源です」 「馬鹿を言うな! これは回復魔法でも治せない陛下のために、苦心して精製したものだ!」 「ええ、魔法では治せないでしょうね」
私は冷徹に切り捨てた。
「魔法医ヒーラーたちは、陛下に『回復魔法』をかけ続けているのでしょう? それが逆効果なのです」
王太子が眉をひそめた。 「回復魔法が逆効果だと?」
「はい。回復魔法は『細胞の代謝を活性化させる』もの。ですが、陛下の体内にあるのは『重金属という異物』です。魔法をかければかけるほど、血行が良くなり、毒が全身に回り、臓器に定着してしまう」
毒を排出デトックスしないまま回復魔法をかけるのは、ゴミ屋敷の中で芳香剤を撒くようなものだ。 根本解決にならないどころか、事態を悪化させる。
「陛下を蝕んでいるのは、呪いでも病でもない。**《水銀中毒》**です。……その手の震えも、歯茎の黒い線も、全てその毒の作用だ」
王太子が、ハッとして国王の口元を見た。 黒い線。 今まで気づかなかった(あるいは老化だと思っていた)兆候が、私の言葉によって「証拠」に変わる。
「……ま、まさか……」 「殿下。そこの錬金術師は、無知ゆえに王を殺そうとしている。これを止めることができるのは、毒の正体を知る私だけです」
私は一歩前に出た。 ここからが、命を賭けた心理戦――**《ダブルバインド(二重拘束)》**の仕掛け所だ。
相手に「NO」と言わせないために、どちらを選んでも私に有利になる二択を突きつける。
「さあ、お選びください、フレデリック殿下」
私は両手を広げ、堂々と宣言した。
「私を『詐欺師』として今ここで処刑し、陛下を水銀の毒で狂い死にさせるか」
王太子の喉が動く。
「それとも、私を『医師』として使い、陛下を救う賭けに出るか」
究極の二択だ。 前者は、私の死と引き換えに、父王の死が確定する。 後者は、私の命を一時的に預けるだけで、父王が助かる可能性がある。
合理的な王太子なら、答えは一つしかない。
「……貴様、治せるのか?」 「魔法は使えませんが、化学かがくなら使えます。……体内の重金属を中和し、排出させる解毒剤を作れるのは、この国で私だけです」
沈黙が支配する。 王太子は剣の柄を握りしめ、私を睨みつけた。 その瞳から、侮蔑の色は消えていた。あるのは、得体の知れない怪物を値踏みするような、警戒の光。
やがて、カチン、と剣が鞘に収められた。
「……錬金術師を捕らえろ」
王太子の低い声が響いた。 近衛兵たちが動き、抵抗する錬金術師を取り押さえる。
「フレデリック殿下! 乱心ですか! こんな子供の戯言を!」 「黙らせろ。……その薬とやらも分析に回せ」
王太子は私に向き直った。
「ルシアンと言ったな。……いいだろう。その賭け、乗ってやる」
彼は氷のような声で宣告した。
「猶予を与えよう。父上の病を治してみせろ。……だが、もし治らなければ、あるいは少しでも悪化すれば」
彼は私の首筋に指を当てた。
「その首を刎ね、アリア共々、城門に晒す。……よいな?」 「御意に」
私は不敵に微笑み、深々と頭を下げた。 後ろでアリアが腰を抜かして座り込んでいるのが気配で分かった。
首の皮一枚。 だが、繋がった。 これで私は、王城の中に「医師」という公式な立場を手に入れた。
(……水銀の解毒か。キレート剤の生成が必要だな)
私は頭の中で、既に化学式を組み立て始めていた。 卵白、牛乳、そして特定の薬草。 王宮の厨房と薬草園があれば、十分に作れる。
王太子フレデリック。 手強い敵だが、理屈が通じる相手は嫌いじゃない。 今に見ていろ。 国王の命を救った暁には、貴方すらも私の「信者」に変えてみせる。
私は震えるアリアの手を引き、王城の奥――王の寝室へと足を踏み入れた。 最大のショータイムの開幕だ。
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