第20話 魔の採寸タイム。先輩、その「さらし」は日本の損失だと思います

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

『かっこいい女子が好きって言ったよね? ~失恋した私がガチ空手で全国制覇して、幼馴染を後悔させるまで~』 - 第20話 魔の採寸タイム。先輩、その「さらし」は日本の損失だと思います

本文

日曜日。  私たちは部員全員で、街の老舗武道具店『武蔵堂』に来ていた。  目的は一つ。私たち一年生の「正式な道着」を注文するためだ。

「ここが『武蔵堂』か……」

 木の看板に墨で書かれた店名。入り口から漂う線香と新しい畳のような匂い。  威厳がある。ユニクロでジャージを買うのとはわけが違う。

「ぼさっとするな。入るぞ」

 私服姿の冴島先輩が暖簾をくぐる。  今日は全員私服だ。  ギャル全開の伊吹先輩、モード系の雫先輩、図書館司書みたいな蓮先輩。  こうして見ると、空手部というよりは「個性派アイドルグループ」に見えなくもない。

「おばちゃん、頼んでた一年生の採寸、頼む」 「はいよー。奥の座敷へお上がり」

 店番をしていた小柄なお婆ちゃんが出てきて、メジャーを首にかけながら手招きした。

 ***

 店の奥にある採寸スペース。  ここは男子禁制の花園……いや、戦場だった。

「はい、じゃあ上着脱いでー。キャミソールになってねー」

 お婆ちゃんの指示で、私たちは服を脱ぎ始めた。  そこで、最初の衝撃が走る。

「……え?」

 私の隣でブラウスを脱いだ文ちゃんを見て、全員の動きが止まった。  普段は大きめの制服やジャージに埋もれている、小動物のような文ちゃん。  しかし、その薄いキャミソールの下には、とんでもない「凶器」が隠されていた。

「こ、小日向……お前、それは……」  エリカが口をパクパクさせている。 「え? な、なんですか?」 「『なんですか』じゃないわよ! どこに隠してたのよその質量! 四次元ポケット!?」  伊吹先輩が身を乗り出して叫ぶ。

 デカい。  私たちが知る文ちゃんは「着痩せするタイプ」の極致だったのだ。  推定、Gカップ。いや、それ以上か。  運動音痴だと思っていたけれど、この重りを抱えて走っていたなら、実はとんでもないフィジカルの持ち主なのかもしれない。

「あらー、お嬢ちゃん立派だねぇ。特注サイズじゃないと前が閉まらないねぇ」  お婆ちゃんも感心しながらメジャーを回す。

「うぅ……これ、肩凝るし邪魔なんですけど……」  文ちゃんが困り顔で言う。  そのセリフ、一度でいいから言ってみたい。

 続いて、私の番だ。

「はい、一ノ瀬ちゃんね。……あら、あんたも意外とあるねぇ」

 お婆ちゃんに測られながら、周囲からの視線を感じる。  伊吹先輩(見た目通りのナイスバディ)が「おっ、凛もやるじゃん」とニヤニヤし、エリカ(スレンダーなアスリート体型)が「裏切り者……」とジト目で見てくる。

 私のサイズは、文ちゃんと伊吹先輩には負けるが、空手部内では堂々のナンバー3。  いわゆる「隠れ巨乳」の部類に入るらしい。  颯人は「守ってあげたい系(華奢)」が好きだったから、私のこの体型もコンプレックスだったんだけど……ここでは「強さ」の一種として扱われるらしい。

 そして。  最後に、冴島先輩の番が回ってきた。

「次は玲奈ちゃんだね。はい、脱いで」

 先輩が無言でTシャツを脱ぐ。  私たちは固唾を飲んで見守った。  天下の冴島先輩だ。スタイルも完璧に違いない。

 しかし。  現れたのは、下着ではなかった。

 シュルルルル……。

 白い布が、先輩の体に幾重にも巻き付いている。  時代劇でしか見たことがない、あれだ。

「……さ、さらし?」  私が思わず声を上げると、先輩は涼しい顔で頷いた。

「そうだ」 「え、なんでまた……?」 「邪魔だからだ」

 先輩は真顔で、とんでもないことを言い放った。

「胸の脂肪は、戦闘において何の役にも立たん。揺れれば重心がブレるし、初動が遅れる。物理法則フィジックスの観点からして、圧縮して固定するのが最適解だ」

 先輩がさらしを緩めると、圧縮されていた「それ」が解放され、豊かな曲線があらわになった。  デカい。  文ちゃんや伊吹先輩に匹敵する、とんでもない国宝級のプロポーションだ。  それを、あんな布で無理やり押し込めていたなんて。

(もったいねぇぇぇぇぇ!!!)

 私は心の中で絶叫した。  いや、私だけじゃない。ここにいる全女性、いや、全人類を代表して叫びたい。

 機能性? 物理法則? 知るか!  その美しさは、厳しい修行のご褒美として天が与えた才能でしょうが!  それを「邪魔」の一言で封印するなんて、ゴッホのひまわりを「邪魔だから」って押入れにしまうようなものだよ!

「先輩……それは、なんというか、日本の損失だと思います」  私が震える声で伝えると、先輩はキョトンとした。

「何を言っている。脂肪より筋肉の方が美しいに決まっているだろう」 「そういう問題じゃなくて!」 「さあ、採寸だ。おばちゃん、いつものキツめで頼む」

 先輩は再びさらしを巻き直し、鋼の平らな胸を作り上げてしまった。  ストイックすぎる。  この人は、空手のために「女性としての武器」すらも捨て去っているのだ。

 ***

「はぁ……すごい世界だった」

 採寸を終えて店を出ると、私たちはどっと疲れていた。  色々な意味で、目の保養と衝撃が強すぎた。

「でも、これでやっと自分の道着が届くんですね!」  文ちゃんが嬉しそうに言う。彼女の特注サイズ道着は、少し生地を多めに使うらしい。

「ああ。来週には届く。それを着て、新人戦に乗り込むぞ」

 さらしで胸を固めた先輩が、仁王立ちで宣言する。  その姿はやっぱりかっこよくて、悔しいけれど憧れてしまう。

 私は自分の胸に手を当てた。  さらしは巻かない。  私は私のまま、この体で強くなってやる。

 新しい道着への期待と、先輩の秘密を知ってしまった背徳感を抱えながら、私たちは日曜日の街を歩いた。

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角煮カイザー小屋

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