聖徳太子2.0 第二章
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あらすじ
父・聖太、母・徳子。名前を組み合わせたら「聖徳太子」!名前を理由にいじられ続けた徳太は、祖父特製のAI傾聴システムで本物の聖徳太子を目指す。千人の声を聞き、学校を変える痛快学園コメディ。技術と心で紡ぐ、現代の傾聴物語。
本文
聖徳太子2.0 第二章
六月。
生徒会室は、改革プロジェクトの拠点となった。
ホワイトボードには、徳太の集めた要望リストがびっしり書かれている。
「学食のメニュー改善、図書館の開館時間延長、エアコンの温度調整……」
心陽がマーカーで印をつけていく。
「まずは実現可能なものから手をつけましょう」
「待って」
悠斗が電卓を叩いている。
「エアコンの温度を教室ごとに変えると、電気代が月に約三万円増える。年間三十六万円だ」
「うわ、けっこう高い」
「でも、冷暖房効率を改善すれば、逆に削減できる可能性もある」
悠斗は資料を広げた。
「窓の断熱フィルム、カーテンの見直し、扇風機の併用――これらを組み合わせれば、むしろコスト削減になる」
「さすが悠斗!」
心陽が拍手する。
「じゃあ、その案で教頭先生に提案してみよう!」
しかし、獅子丸は別のことを考えていた。
「太子?」
「何?」
「学食の唐揚げ定食、週三回に増やせませんかね」
「個人的な要望じゃん!」
「いや、でも需要は確実にあります」
獅子丸は真顔で言った。
「俺の試算では、週三回にすれば売上が二倍になります」
「どういう試算だよ」
「俺が一回に三人前食べるので」
「それ試算じゃなくてお前の食欲じゃん!」
そんなやり取りを繰り返しながら、彼らは少しずつ学校を変えていった。
教頭との交渉も、意外とスムーズだった。
最初は渋っていた教頭だが、徳太が分析した膨大なデータと、悠斗の論理的な説明に押され、徐々に態度を軟化させていった。
「確かに……生徒の満足度が上がれば、退学率も減るかもしれんな」
「それに」
心陽の営業トークが決まる。
「こういう取り組みは、学校説明会でもアピールできますよ。『生徒の声を聞く学校』って」
「む……それは……」
教頭の目が輝いた。学校の評判アップは、管理職の最大の関心事だ。 「わかった。試験的に、いくつか承認しよう」
[newline=center]◆ ◆ ◆[/newline]
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七月。
生徒会の最初の成果が出始めた。
学食のメニューが増え、図書館の開館時間が延長された。エアコンの温度調整も柔軟になった。そして何より――黄金唐揚げ定食が、週三回に増えた。
「太子! やりました! 月・水・金、全て買えるチャンスが!」
「そんなに食べて大丈夫なの?」
「柔道の稽古で消費するので問題ないです!」
獅子丸は満面の笑みだった。
生徒たちの反応も上々だった。
「なんか最近、学校が楽しくなってきた」
「生徒会、マジで仕事してるよな」
「太子のおかげじゃね?」
「太子って誰?」
「ほら、あの聖徳太子コスプレしてる奴」
「してないから!」
徳太のツッコミは、もはや日常の一部になっていた。
しかし、問題はここからだった。
ある日、一年生の女子生徒が生徒会室を訪ねてきた。
小谷優香という名前の、小柄で大人しそうな生徒だ。
「あの……相談があるんです」
彼女は震える声で言った。
「私、クラスで、いじめられてるんです……」
心陽が優しく椅子を勧め、徳太も隣に座った。
「具体的に、どんなことをされてるの?」
「無視されたり、持ち物を隠されたり……SNSでも、悪口を書かれて」
優香の目に涙が浮かぶ。
「先生に相談しても、『気にしすぎだ』って……誰も助けてくれなくて」
徳太は獅子丸と顔を見合わせた。
これは、唐揚げ定食とはレベルが違う。
「わかった。少し時間をもらえる? 生徒会で対応を考えさせて」
心陽が優しく言った。
「必ず、力になるから」
優香が帰った後、生徒会室に重い空気が流れた。
「先生が動いてくれないなら、俺たちが動くしかない」
獅子丸が拳を握りしめる。
「でも、証拠がないと……」
悠斗が腕を組んだ。
「いじめって、見えないところで行われるから厄介なんだ。優香さんの証言だけじゃ、『言った言わない』の水掛け論になる」
「……俺が、確認してくるよ」
徳太が静かに言った。
「確認?」
「俺のAIデバイスで、優香さんのクラスの様子を聞き取ってみる。実際にいじめが起きているのか、どんな言葉が飛び交っているのか」
心陽が頷いた。
「わかった。お願い」
◆
翌日、徳太は優香のクラスがある校舎の廊下に立った。
耳元の装置に触れ、AIシステムを起動する。スマホの画面に、教室内の会話が次々と文字化されて流れ込んでくる。
『小谷、マジうざい』
『あいつ、なんでいるの?』
『消えればいいのに』
徳太の表情が曇った。
これは――間違いなく、いじめだ。
彼は記録を続け、一週間分のデータを収集した。AIシステムは、発言者の声の特徴から人数を識別。発言の頻度や内容を自動で分析してくれた。
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放課後、生徒会室。
徳太はスマホの画面を三人に見せた。
「一週間の記録がこれ。AIが分析した結果、主な加害者は三名。発言回数は計四十二回、内容は全て悪口や嫌がらせに分類されている」
「……ひどい」
心陽が眉をひそめる。
「こんなに頻繁に……」
悠斗が画面を凝視した。
「許せねえ……」
獅子丸が震える声で言った。
「これを証拠に、教頭に提出すれば――」
徳太がそう言いかけたとき、悠斗が口を挟んだ。
「待って。それ、プライバシーの問題にならないか?」
「え……?」
「徳太のAIは本当に便利だけど、本人の許可なく会話を記録してる。それを証拠として使うのは……」
悠斗は眼鏡を外して、目頭を押さえた。
「法的にグレーゾーンだ。最悪『盗聴』と言われるかもしれない。こっちが訴えられる可能性だってある」
生徒会室が沈黙に包まれた。
獅子丸が叫んだ。
「でも、このままじゃ優香ちゃんが!」
「わかってる! わかってるけど……」
悠斗も歯噛みする。
「俺だって助けたい。でも、間違った方法で助けたら、徳太が責任を問われる可能性がある」
徳太は――考えた。
そして、ある結論に達した。
「優香さんに、同意をもらおう」
「同意?」
「生徒会として、優香さんのクラスの状況を調査したこと。そこで得た情報を、解決のために使うことに同意してもらう」
「本人の同意があれば……」
悠斗が考え込む。
「でも、それだけじゃ不十分だ。加害者側のプライバシーも……」
「だから、直接的な証拠としては使わない」
徳太は立ち上がった。
「カウンセラーの先生を呼んで、優香さんから正式に被害を報告してもらう。俺のデータは、あくまで『いじめの実態を示す参考資料』として、匿名の通報という形で学校側に提出する」
「なるほど……」
心陽が頷いた。
「直接の証拠じゃなくて、状況証拠として使うのね」
「そう。それなら、プライバシーの問題もクリアできるはず」
獅子丸が勢いよく立ち上がった。
「さすが太子!」
「いや、これ普通の解決法だから……」
「やっぱり太子は天才!」
「だから天才じゃ……」
「太子の御託宣は絶対!」
「御託宣じゃないから!」
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翌日、優香を再び生徒会室に呼んだ。
「小谷さん、実は生徒会で独自に調査をして――」
徳太は慎重に言葉を選んだ。
「君のクラスで、実際にいじめが起きていることを確認できた」
「本当ですか……?」
優香の目に希望の光が灯る。
「ただ、その情報を使って学校側に働きかけるには、君の同意が必要なんだ。生徒会が調査したことと、その結果を使うことに、同意してもらえる?」
「……はい」
優香は涙を浮かべながら頷いた。
「お願いします。助けてください」
[newline=center]◆ ◆ ◆[/newline]
結局、その件は慎重に進められた。
まず、徳太のAIが分析した詳細データ――加害者の人数、発言内容のパターン、いじめの頻度と時間帯――を整理し、『匿名の情報提供』として教頭に提出した。
同時に、優香の同意を得て、カウンセラーを交えた面談を設定。優香から正式に被害を報告してもらった。
「匿名通報」と「被害者の証言」、二つが揃ったことで、学校側も動かざるを得なくなった。
さらに生徒会は、AIの分析データを活用し、『いじめ防止週間』を企画。
「いじめは見えないところで起きている」
「悪口は、言われた本人が一番傷つく」
具体的な数字とデータを示しながら、全校で啓発活動を行った。
[pagebreak]
数週間後、優香が生徒会室を訪ねてきた。
「あの……ありがとうございました」
彼女は深々と頭を下げた。
「皆さんのおかげで……最近、悪口を言われることが減ってきたんです。無視されることも、少なくなって」
優香の目には、まだ不安も残っているが、確かに希望の光が灯っていた。
「完全になくなったわけじゃないんですけど……でも、前よりずっと、学校に来るのが怖くなくなりました」
「良かった」
心陽が微笑む。
「まだ時間はかかるかもしれないけど、何かあったら、いつでも相談してね」
「はい!」
優香が帰った後、獅子丸が言った。
「太子、やっぱりすごいっすよ」
「別に、俺一人でやったわけじゃない」
「いや、でも太子がいなかったら、優香ちゃんを助けられなかった」
獅子丸は真剣な顔で続けた。
「俺、わかりました。太子についていく理由が」
「今さら?」
「最初は唐揚げ定食のお礼だったけど」
獅子丸は拳を握った。
「でも今は違う。太子は、本当に人を救える人だ。そういう人の力になりたいんです」
徳太は少し照れくさそうに笑った。
「獅子丸……」
「だから! これからも太子の第一の弟子として……」
「やっぱり弟子なんだ!?」
「当たり前じゃないですか!」
悠斗が呆れた顔で言った。
「お前ら、いつまでやってるんだ」
「えー、でも悠斗先輩も楽しんでるでしょ?」
「別に楽しんでないから」
悠斗は眼鏡を光らせた。
「ただ、徳太の力が生徒会にとって有益だと判断しているだけだ」
「素直じゃないなあ」
「うるさい」
心陽がクスクス笑った。
「みんな仲良しね」
◆
八月の終わり、夏休み最終日。
徳太は祖父の研究室を訪ねていた。大学の工学部の一角にある、機材だらけの部屋だ。
「じいちゃん、この装置って……本当に正しい使い方なのかな」
祖父は穏やかに笑った。白髪の優しい老人で、元はAI研究の第一人者だった。
「何か、気になることがあったのか?」
「うん。七月に、いじめの相談があってさ」
徳太は窓の外を見た。
「その時、俺はAIで相手の会話を記録して、証拠として使おうとしたんだ。でも生徒会の副会長に『それって盗聴じゃないか』って言われて」
「ほう」
「結局、被害者の同意を得て、状況証拠として使った。プライバシーの問題はクリアできたと思う。でも……」
徳太は装置に触れた。
「それから、ずっと考えてるんだ。俺が必要だと判断したときに記録するのは、本当に正しいのかって」
「ほう」
祖父は興味深そうに眉を上げた。
「徳太、お前、成長したな」
「いや、褒められてる場合じゃないでしょ」
「褒めてるんだよ。技術の便利さに溺れず、倫理的な問題に気づいて、さらにその先まで考えられたんだから」
祖父は古ぼけた本を一冊、棚から取り出した。
「お前は、聖徳太子の伝説を知っているか?」
「十人の声を同時に聞き分けたって話?」
「その通り。でもな、徳太」
祖父は本のページをめくった。
「あれは物理的な能力の話じゃないんだ」
「え?」
「考えてみろ。本当に十人が同時に喋ったら、それはもう騒音だ。聞き分けるどころじゃない」
「あ……」
「聖徳太子の伝説は、『人々の声に真摯に耳を傾ける理想の為政者』という象徴なんだよ」
祖父は徳太の肩に手を置いた。
「十人の声というのは、多様な意見を尊重し、一人一人を大切にする姿勢のことだ」
「つまり……」
「技術は手段に過ぎない。大切なのは、その技術をどんな心で使うかだ」
徳太は深く頷いた。そして、ふと思った。
「じいちゃん、じゃあなんでこんな装置作ったの?」
「ん?」
「だって、使い方次第で盗聴器になっちゃうじゃん、これ」
「……」
祖父は少し困った顔をした。
「いや、それは……もともと聴覚支援技術の研究だったんだ。複数の音声を分離して聞き取りやすくする、っていう」
「へえ」
「でも、お前が中学で愚痴ってたのを聞いて、『これ、徳太に使えるんじゃないか』って思ってな」
「泣いてないよ! ちょっと愚痴っただけ!」
「でも、けっこう深刻な顔してたぞ」
「そりゃ中学三年間いじられ続ければ……」
徳太は頭を掻いた。
「まあ、いいや。おかげで学校が楽しくなったし」
「それは良かった」
祖父は微笑んだ。
「で、これからどうするんだ?」
「うーん……」
徳太は考えた。
「AIの使い方、変えようと思う」
「ほう」
「俺が必要だと思ったときに記録するんじゃなくて、相談システムに特化させる。困ってる人が自分から声を出せる仕組みにしたい」
「なるほど」
祖父は満足げに頷いた。
「それがいい。技術を押し付けるんじゃなく、必要な人が使えるように」
「うん」
「ただし」
祖父は真顔になった。
「一つだけ、気をつけろ」
「何?」
「AIには限界がある」
祖父は窓の外を見た。
「AIは便利だけどな、人間の『なんとなく察する』っていう能力には敵わない。表情、声のトーン、言葉にならない間……そういうものを理解するのは、まだ人間にしかできないんだ」
「……」
「最後は、人間が人間の話を聞かないといけないんだ」
徳太は深く頷いた。
「わかった。AIと人間、両方の良いところを使う」
「そうだ」
祖父は笑った。
「それが、本当の聖徳太子だ」
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