第34話 地下地獄! 上級悪魔との戦い!
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あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第34話 地下地獄! 上級悪魔との戦い!
本文
ナナside
深夜。澪、セラ、そしてアタシたちは魔法技術研究所の外壁に張り付いていた。
※今回はガッツリ潜入と言う事で澪もそれらしい服装だ。
(※黒い帽子と黒いスカーフで顔を隠す、というのが“らしい”と言えれば、の話だが)
「ナナちゃん、スルナちゃん、大丈夫ですか?」
澪が心配そうに声をかけてくる。アタシとスルナは、この施設に近づくほどに体調が悪化していた。まるで全身を押し潰されるような圧迫感。吐き気すら覚える。
「問題ない……それより、さっさと済ませるぞ」
「スルナも……頑張ります」
スルナの声も弱々しい。だが、コイツも此処で澪を放って引き返したりはしないだろう。
「それじゃあ、侵入するわよ」
セラが結界解除の魔法を唱え、施設の防護壁に穴を開ける。
中に入ると、巡回するゴーレムの気配がした。
「アタシに任せろ」
アタシは幻術魔法を展開した。ゴーレムの視界を歪め、アタシたちがいないように錯覚させる。体調は最悪だが、この程度の術なら問題ない。
だが、全てのゴーレムを幻術で誤魔化すのは無理だった。数体が反応し、こちらへ向かってくる。
「グラディエル!」
セラの指示で、金髪の上級天使が光の剣を振るう。ゴーレムが次々と破壊されていく。セラ自身も魔法で応戦し、進路を確保した。
「地下への階段はこっちよ!」
◇◇◇◇◇
「ぜひっ、ぜは……っ」
案の定、澪は汗を大量にかいたからか帽子を外し、息苦しいのかスカーフも外した。
「これは……」
踏み込んだ地下施設は想像以上に広かった。そして、そこにあったものは――
「え……?」
澪が惚けた声を上げた。
ただそれは他の面々も似たような物だ。
大量の悪魔が、魔法陣の中に囚われていた。インプ、サキュバス、その他様々な種族の悪魔たちが、苦痛に顔を歪めて呻いている。
「ひどい……」
「おや、侵入者かね」
「⁉︎」
澪が目を見開いて絶句した直後。
施設の奥から白衣を来た萎びたキャベツみたいな男が現れた。研究者らしい。その表情には、驚きよりも興味深そうな好奇心が浮かんでいた。
「あなたは……何をしているんですか!」
「研究だよ。ここにあるのは、ヒヒイロカネによって強化された『強制召喚陣(フォースド・サモン)』と『悪魔抑制装置(デーモン・サプレッサー)』だ」
研究者は誇らしげに説明を始めた。萎びたキャベツじゃなければ多少は絵になったか?
「強制召喚陣は、魔界から無作為に悪魔を呼び寄せる。そして悪魔抑制装置で彼らを弱らせ、従順にさせる。
そして彼らを然るべき施設に送り素材にする。
完璧な兵器製造システムだと思わないかね?」
「最低ね……」
「だが、予想外のことも起きた。
装置の力が徐々に増してきてね。いつしか地下以外の場所にも影響が及ぶようになった。
街中に悪魔が現れ始めたのは、強制召喚陣の出力が増大したせいだ」
「そのせいで悪魔抑制装置の影響も外に漏れ出し、街中の悪魔たちが不快感を覚えて暴走したんですね……!」
「その通り。まあ、使い魔として契約されている悪魔なんて、ほとんどが無理矢理召喚されて無理矢理使役されている者ばかりだ。
※不満を抱えていれば、ちょっとした刺激で暴走するのも当然だろう」
アタシとスルナの体調不良も、この装置のせいだったのか。
(※……いや、それだとアタシが澪の使い魔でいる事に不満を感じてないみたいじゃないか?
まぁ、今までの主人と比べたら何倍もマシだが)
「許せない……こんなこと、絶対に許せません!」
澪が前に出ようとした瞬間、研究者がスイッチを押した。
「では、実演といこうか。悪魔抑制装置の出力を最大に――」
「がっ……あああああああっ!」
「きゃあああああああっ!」
思わず倒れ込む。スルナも同じように倒れ込んだ。激痛が走る。体が動かない。魔力が乱れて術が使えない……!
「ナナちゃん! スルナちゃん!」
「さあ、悪魔どもよ」
研究者が囚われた悪魔たちに向かって言葉を放つ。
「苦しみから解放されたければそいつらを殺せ。そうすれば少しは楽にしてやろう」
魔法陣の中の悪魔たちが、ゆっくりと立ち上がった。その目には理性の光がない。ただ、苦痛から逃れたいという本能だけが残っていた。
その中に、一人の女悪魔がいた。黒い羽根を持つ堕天使型の上級悪魔。
奴は涙を流しながら、獣のような呻き声を上げている。
「あ……ああ……うぅ……」
自我が希薄になっている。※長い間、この苦痛に晒され続けたせいだろう。
(※奴の気持ちも分からんでもない。終わりのない苦痛 って奴は簡単に心がぶっ壊れる。アタシも経験したから分かる)
「グラディエル、迎撃よ!」
セラとグラディエルが応戦する。だが、数が多すぎる。しかも加減知らずの上級悪魔まで混じってるんだ。
「くっ……!」
セラが魔法で防御壁を張るが、次々と攻撃が襲いかかる。澪も結界術で援護しよう、と……⁉︎
「澪!」
堕天使の攻撃が澪を直撃した。澪の体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ご主人様!」
スルナが叫ぶが、アタシたちは動けない。澪は壁際で倒れ込み、動かなくなった。脚が不自然な方向に曲がっている。完全に折れてやがる……!
「澪ぉぉぉ!」
どうにか歯を食いしばって立ち上がろうとする。こんなところで寝てる暇なんて無い。
澪を守らなきゃいけないってのに……っ!
「澪……っ」
それでも身体は言う事を聞かない。
気力を振り絞って、アタシは幻術魔法を発動させた。全力を込めて、出来る限りを尽くして。
戦闘は続いた。セラとグラディエルが必死に防戦する。だが、多勢に無勢……次第に押され始めていた。
「ハハハ! 所詮は子供と天使一体。我が研究成果の前では無力だ!」
萎びたキャベツが高笑いする。クソ、キャベツのくせに……!
「そろそろ終わりだな。そうだ、君を素材にすればもっと高純度のヒヒイロカネが……」
その瞬間だった。
突然、悪魔抑制装置が停止した。
「な……何だ⁉︎」
キャベツが慌てて装置を見る。囚われていた悪魔たちの苦痛が和らぎ、目に光と……理性を取り戻し始めた。
「馬鹿な⁉︎ 装置が停止している⁉︎」
研究者が装置に駆け寄ると、そこには澪の姿があった。
折れた脚がぶらぶらと揺れて、装置に寄り掛かって……装置に手を当て、魔力を逆流させている。
「そんな……そんなことをしたら腕が焼け焦げる筈だ! 全身を痛みが襲った筈だ! どうやって私にバレずに……!」
澪の腕は確かに焼け焦げていた。全身が汗で濡れ、顔は苦痛に歪んでいる。
「声に……出さないように……我慢しました……」
澪が震える声で……それでも、真っ直ぐにキャベツ……いや、研究者を睨み付けた。
アタシは理解した。
理解したくなかった。
だが、壁に叩きつけられた澪は……それでも進む意思を見せた。
だからアタシは幻術魔法で澪の姿を消し、壁に澪の姿を映してまだ気絶しているように見せかけた。
澪は折れた脚を引き摺りながら地を這いながら装置へ向かった。
這って、這って、血を流しながら進んだ。
悪魔やグラディエルの攻撃が直撃したら即死……そんな死の道筋を命懸けで。
そして辿り着き、己の身を顧みずに装置を停止させた。
「落ち着いてください! これで皆さんは自由です……っ!」
澪の言葉に、悪魔たちが動き出した。苦痛と支配から解放された彼らは、研究者へと殺意の視線を向ける。
「ひ、ひいいっ!」
研究者が後ずさる。だが……
「待ってください」
澪が手を上げた。
「殺してはいけません……彼を裁くのは、法です」
「何だと⁉︎ こいつはオレたちを散々苦しめたんだぞ!」
インプの一体が怒鳴る。他の悪魔たちも不満を口にした。
その時、黒い羽根の堕天使が前に出た。奴は理性を取り戻し、その瞳には誇り高い光が宿っていた。
堕天使が睨むと悪魔たちは黙り込んだ。
そりゃそうだ。上級悪魔の手に掛かれば奴らなんて一息で皆殺しなんだからな。
「わかった。そこの娘の言う通りにしよう。皆も異論無いな?」
「ありがとうございます……」
「ふん……だが、この装置とヒヒイロカネとやらは破壊する」
「お願いします」
悪魔たちは協力して、装置を破壊し始めた。強制召喚陣も、悪魔抑制装置も、全て粉々にされていく。
破壊が終わると、堕天使が澪の前に歩み寄った。
「礼を言う、人間よ」
そう言って、奴は自分の羽根を一枚抜き取った。
「我が家はアステシア。この羽を持て。この羽に助けを求めれば、我はすぐに飛んでくる。後は……ついでだ」
「!?」
アステシアが手を翳すと、黒い光が澪を覆ち……澪の焦げた両腕……いや、脚の骨折すらも治っていく。
治癒魔法が使える悪魔なんて珍しいってもんじゃないぞ。
「ありがとう、ございます」
「我を救ったのだ。それだけの褒賞は得て然るべきだ。では、長居する理由も無し……行かせてもらおう」
堕天使は魔界へ帰る魔法陣を描く。ここに居る悪魔全て飲み込める大きさだ。
「また会おう、人間よ」
※そして、悪魔たちは全員魔界へと帰っていった。
(未だにぶつぶつと抵抗する奴はアステシアに拳骨喰らってたが)
◇◇◇◇◇
後日。
研究者は逮捕された。ニュースで大きく報道され、社会問題となった。
流石に悪魔の暴走事件は話題になってたしな。
「上層部が庇うと思ってました」
スルナが不思議そうに言った。
そう言えば、コイツは上層部の事は何もしらなかったな。
「上層部はあくまで国の為、市民の為にヒヒイロカネを作ろうとしているんです」
ずずっ……と緑茶を飲みながら澪が告げる。
「市民に被害を出したあの研究者を、許すはずありません」
「私も同意見」
セラが頷く。コイツもこの形で緑茶を片手に羊羹を頬張っている。
「政府にも色々な派閥がある。どちらにせよ、害を成すなら暴いて裁きを受けさせないといけないけどね。
善意だろうと悪意だろうと罪は罪だもの」
「はぁ? 人間というのは複雑なんですね」
スルナが首を傾げた。
思わず小さく笑ってしまう。テレビの方を向いていて良かった。
複雑で、矛盾していて、でも時々、驚くほど真っ直ぐな奴もいる。
それが人間だ。
まぁ澪みたいな奴はそう居ないが。
もし世界中が澪みたいな奴で埋まったら……つまらない世の中になりそうだな。
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