第36話 山中に消える精霊の願い
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あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第36話 山中に消える精霊の願い
本文
ナナside
「きゃああああっ!」
澪の悲鳴で、アタシは目を覚ました。
何事かと思って見ると、澪がセラの浴衣に手を掛けていた。
セラは寝ぼけた様子で、浴衣がかなり乱れている。
「朝からお盛んだな?」
「ち、違っ! セラちゃんの浴衣が乱れてたから直そうと……きゃ」
その瞬間、セラの腕が伸びて澪の手を掴み、そのまま引き込んで抱きしめた。
「朝から積極的ね?」
「セラちゃん起きてたんですか⁉︎」
「今起きたところよ」
セラがにっこり笑う。澪は更に顔を赤くして、しかし体格差かその腕からは抜け出せない。
「まったく、朝から騒がしいな」
※アタシは呆れながら欠伸をした。
(※ちなみにスルナはまだ気持ちよさそうに眠っている。
コイツは仮にも夢魔の一種なのに早寝遅起きだ)
◇◇◇◇◇
朝食を済ませ、私服に着替えて、アタシたちは山の調査へと向かった。
「スルナちゃん、まだ精霊の気配は感じますか?」
「はい、ご主人様。確かに精霊は居ます。でも、やはり正確な場所までは……」
「それで十分です。ありがとうございます」
「じゃ、とりあえず山を登りながら探しましょう」
「はい」
◇◇◇◇◇
山道は思ったより険しかった。澪は運動不足が祟りすぐに息を切らし始めた。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫? 澪」
「だ、大丈夫です……」
「無理しないで。ほら、私に掴まりなさい」
セラが澪の腰に手を回して支える。
澪は恥ずかしそうにしながらも、セラに身を預けた。
※流石に小中高大と文化部だった澪と現役の軍人のセラでは身体の作りが違う。
(※ちなみに小中は習字。高大では漫研だったらしい。
ここまで来ると本当に漫画やアニメの類いは何処に隠しているのやら。
言動の節々から、それらから離れた様子も無いしな)
「ありがとうございます……」
「どういたしまして。頑張りましょう」
山を登るにつれて、異変がはっきりと見えてきた。
川の水が濁っている。本来なら澄んでいるはずの山の水が、僅かにではあるがその輝きを失っている。
「ひどいですね……」
澪が眉をひそめる。
さらに進むと、植物が枯れかけている場所があった。
本来なら青々としているはずの木々が、葉を落とし、幹が黒ずんでいる。
「精霊がいなくなると、こうなるのね……」
「自然の魔力循環が崩れているんです。このままでは、山全体が死んでしまいます」
「これも上層部から外れた奴の仕業かしら?」
「上層部が日本という国を重く見ているのか、国民を重く見ているのかによりますね。
山が死んでも、ヒヒイロカネの武力を使えば幾らでも有利な条件で食料や木材を輸入出来ると考えているなら……上層部が主導している可能性もあります」
「国民第一過ぎてどこまでが許容範囲か絞り辛いのよね……」
昼を過ぎた頃、アタシたちはようやく精霊の気配を捉えた。
「あそこ……!」
スルナが指差した先に、微かに光る存在があった。
風の精霊だ。だが、その光は今にも消えそうなほど弱々しかった。
「大丈夫ですか!?」
澪が駆け寄る。精霊は辛うじて意識を保っていた。
『助けて……』
「何があったんですか?」
『ある施設に……囚われていた……仲間たちが……まだ……』
「施設?」
『どうにか……逃げ出したけれど……もう、魔力が……』
「待ってください! 今、魔力を……」
『もう遅い……お願い、仲間たちを……助け……』
そう言い残して、精霊は光の粒子となって消えた。
抱き抱えていた澪の手が縋るように粒子を掴んで……指の間にからすり抜けた。
「そんな……」
「澪……調査を続けるわよ」
「はい……必ず、助けなければ」
「ん?」
「ナナちゃん?」
空が茜色に染まり始めた頃、違和感に気づいた。
「ここ……何かおかしい」
周囲を見回す。一見すると普通の森だが、何かが引っかかる。
「幻術魔法だ。しかも大規模で精密な……」
「幻術……?」
「ああ。この辺り一帯に張られてる。アタシじゃなきゃ気付けなかっただろうな」
「ということは、この辺りに施設があるのね」
セラが地図を広げて、丸で囲む。
「間違いない」
「行きましょう!」
「待って、澪。今から突入するのは無茶よ」
「ですが……」
「見なさい、もう日が暮れかけてる。それに澪も疲れてるでしょう?」
確かに、澪の顔には疲労の色が濃い。スルナも魔力探知で消耗している。
「一旦戻りましょう。宿に戻って身体を休めて……改めて作戦開始よ」
「……わかりました」
セラの言葉に澪は不本意そうに頷いた。
だがそれでも反対はしない。
体力も準備も足りない事は澪も良く分かってるからな。
◇◇◇◇◇
旅館に戻ると、女将が心配そうに出迎えた。山を見に行くとだけ伝えたからな。
「お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫です」
挨拶とそこそこに夕食を済ませ、澪とセラは再び温泉へ向かった。
※アタシとスルナも強制連行。
(※山を歩いたから、と【命令】してまで連れていきやがった)
「隣良い?」
「もう座ってますけど……」
「ふふ」
澪の疑問を笑って誤魔化すセラ。
「澪、無理してない?」
「……悔しいです。精霊を助けられなかった。仲間たちもまだ囚われている。なのに、私は……」
「私も同じよ。撤退するのは私も辛い。
でも、ちゃんと準備して臨まなきゃ、精霊たちを助けられない」
「……はい」
「だから、今日はゆっくり休みましょう。明日、必ず助けるから」
セラの言葉に、澪は少しだけ表情を緩めた。
「はい。ありがとうございます、セラちゃん」
「どういたしまして」
セラが澪の頭を優しく撫でる。澪は心地よさそうに目を細め、その温もりに身を委ねた。
「セラちゃんは……いつも私を支えてくれますね」
「当然よ。澪が大切だもの」
「大切……そ、そういうことは……」
「事実だもの」
セラが澪の額にキスをした。
「ひゃっ……!」
「可愛いわね、澪」
「せ、セラちゃん……!」
澪は真っ赤になって湯に沈み、セラは満足そうに微笑んでいた。
風呂から上がり、部屋に戻ると、澪とセラは同じ布団に入った。
「せ、セラちゃん、別々の布団で……」
「一緒がいいの」
「でも……」
「いいから、おやすみ」
セラがそう言うと、すぐに寝息を立て始めた。澪は諦めたように溜息をついた。
翌朝。
「ひゃ……ぁ……」
か細い悲鳴が聞こえて、目を覚ます。
見ると、澪の浴衣が盛大にはだけていた。そして寝相の悪いセラが、澪にがっちりと抱きついている。
「セラちゃん……起きて……ください……」
澪が小さな声で懇願しているが、セラはぐっすり眠ったまま動かない。澪は身動きが取れず、かといって大声を出すわけにもいかず、困り果てた表情をしていた。
「な、ナナちゃん……助けて……っ」
さて、もう一眠りするか。
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