第38話 加速する計画
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あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第38話 加速する計画
本文
澪side
――ゆっくりと、意識が浮上していく。
まず感じたのは、サラサラとしたシーツの感触。それから消毒液の匂い。
(ここは……病院?)
瞼を開けると、白い天井が見えた。体が鉛のように重い。
魔力を使い果たした時の、あの独特の倦怠感が全身を支配していた。
「ご主人様!」
「澪!」
スルナちゃんとナナちゃんの声が同時に聞こえた。
二人が慌ててベッドに駆け寄ってくる。
「良かった、目を覚ましてくれた……っ」
スルナちゃんが涙を浮かべている。私は安心させる為に微笑みたいけど、顔の筋肉すらうまく動かなかった。
「どのくらい……眠っていたんですか?」
「三日だ」
「そんなに……」
思ったより長い。それだけ、 魔力枯渇の代償は重かった、という事。
「あの後、どうなったんですか?」
「お前が気絶して、壁が消えちまってな。
研究員どもが逃げようとしたから、セラとグラディエルが改めて壁を作って見張ってた。
それから増援が来て、ようやくお前を病院に運べたってわけだ」
「セラちゃんは……?」
「事後処理で忙しい。一度見舞いには来たが」
うぅ、申し訳ない……セラちゃんにも心配をかけちゃったな……
「澪様の意識が無いので、魔力の受け渡しも出来なくて……点滴で少しずつ魔力を取り込ませるしかなくて……っ!」
「心配かけてごめんなさい」
「謝らないでください! ご主人様が無事ならスルナはそれで……!」
スルナちゃんが私の手を握った。その手は温かくて、生きている実感を与えてくれた。
スルナちゃんの頭を撫でながらナナちゃんに問い掛ける。
「精霊たちは?」
「無事だ。施設を破壊して、全員解放した」
「そう、良かった……」
私は目を閉じた。涙が溢れそうになるのを堪える。
守れた。今度こそ、守ることができた。
◇◇◇◇◇
数日後、どうにか退院出来た。
体調は完全には戻っていないけれど、流石にずっと寝ている訳にも行かないし。
魔力も徐々に回復してきている。流石に、魔法を使ってはいけない、とキツく言われているけど。
退院後、すぐにセラちゃんのマンションへ向かった。
セラちゃんは事件解決の功績でメディアに引っ張りだこになっていて、テレビや新聞、ネットニュースでその姿を何度も見た。
「天才魔法使い、またも大事件を解決」
「MTBの朝霧セラ、精霊拉致事件を摘発」
特に新聞の見出しは派手だったけど、私の存在は一切報道されていない。
私の事も明るみになれば、私もまた注目されて二人とも動き辛くなる。
それは心情的にも辛いし、今後の活動にも支障を来たしかねない。
そもそも本人もグラディエルさんも強いセラちゃん組と違って、私もスルナちゃんも戦闘は苦手。
ナナちゃんも中級ではあるけど、戦闘が得意なタイプじゃない。
今回もセラちゃんに守られちゃったな……
「あ……」
そんな事を考えていると、いつのまにかマンションの前に着いていた。
セラちゃんに連絡を取って開けて貰い、エレベーターに乗って彼女の部屋に向かう。
「澪……!」
「お疲れ様です、セラちゃん」
「疲れたのは私じゃないわよ。貴女の方こそ……っ」
セラちゃんが私を抱きしめた。その腕には力が込められていて、どれだけ心配していたかが伝わってきた。
「ごめんなさい……」
「謝らないで。無事でいてくれて、ありがとう」
セラちゃんの声が震えている。私も腕を回して、セラちゃんを抱きしめ返した。
リビングに集まり、お茶を貰いながら情報共有。
「研究者たちの証言を聞いたわ」
セラちゃんが資料を広げる。
「彼らは『命令に従っただけ』と主張してる。つまり……」
「分かってた事ですが……やはりヒヒイロカネ計画は国家規模なんですね」
「ええ。しかも、彼らの証言の端々から見えてくるのは、『人間にだけは危害を加えない』という姿勢よ」
「それは……」
「つまり、この精霊拉致事件は上層部主導って事。
日本が強くなれば有利な条件で輸出入できるから自然が減ろうと構わない……澪の言った通りね」
セラちゃんの言葉に言葉を失った。
人間を守るために他の存在を犠牲にする。
それは狩瀬元局長が謳っていた上層部の思想そのものだ。
「それだけじゃないわ」
セラちゃんが別の資料を取り出した。
「精霊の減少による影響が、首都以外の場所にも出始めてる。
北部の森林地帯、南部の海岸線……各地で自然環境の異常が報告されてるの」
「そんな……」
「それに悪魔の暴走事件が増えてる。あの時の悪魔抑制装置みたいなものが、他にもあるのかもしれない」
ナナちゃんが苛立たしげに舌打ちした。
「それに……先日戦ったゴーレム。あのスペックは、記録されているものよりも遥かに高かったわ。
間違いなくヒヒイロカネが使われていた。しかも、実戦に耐え得る完成度で」
「つまり……」
「ヒヒイロカネ計画は、むしろ加速してる」
セラちゃんの言葉に、私は背筋が凍る思いがした。
私たちが事件を解決しても計画は進んでいる。
まるで、私たちの行動など焼石に水だと言わんばかりに。
「このままじゃ……私たちだけでは対処しきれないわ」
「仲間が必要、ですか?」
私が口を開くと、セラちゃんは首を横に振った。
「難しいわよ。相手は上層部。しかも根底の目的は『日本のため』なんだから、
まともな仲間を集めるのは困難よ。誰が味方で誰が敵か、わからない」
「じゃあどうすれば……」
「向こうの準備が整う前に、乗り込むしかないわ」
「それ、は……」
「証拠を掴んで、告発する。それしか方法がない」
息を呑む。
上層部に真正面から敵対する。
それは、きっと想像以上に危険な行動だ。
下手をすれば、私たちが犯罪者として扱われる可能性すらある。
(でも……)
私は暴走したゴーレムを思い出した。
無理矢理呼び出された悪魔達を思い出した。
精霊達の悲鳴を思い出した。
スルナちゃんが傷ついた姿を思い出した。
このままにしてはいけない。
「わかりました。
恐れはあります。でも……このままにはしておけません」
「澪……」
「私も戦います。どんなに危険でも、共に真実を明らかにしましょう」
「〜〜〜! 益々惚れ直したわ!」
「ひゅぐっ⁉︎ せ、セラちゃん……!」
「澪は本当に素敵よ。こんなに真っ直ぐで、勇敢で……」
セラちゃんが私の頬にキスをした。顔が一気に熱くなる。
「あ、ずるいです! スルナも……!」
スルナちゃんも反対側から抱きついてきた。
更にキスのオマケ付き。
「ふ、二人とも……!」
「ご主人様、大好きです!」
「私も大好きよ、澪」
二人に挟まれて、私の顔が否応無しに熱くなる。
「モテモテだな?」
ナナちゃんがニヤニヤと笑う。
でも、その表情の裏には優しさが滲んでいて……
私は二人の温もりを感じながら、心の中で決意を新たにした。
必ず、真実を明らかにすると。
悪魔も天使も精霊も、決して使い捨ての素材なんかじゃない。
感情があって、私達と同じく言葉を話す隣人だ。
彼等の犠牲を前提とした繁栄など間違っている。
窓の外には夕陽が沈んでいた。
まるで嵐の前の静けさのように……
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