第39話 忙しい日々と風雲急
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
内閣魔導院・魔法生活安全局、対魔法市民支援課の生真面目公務員と皮肉屋悪魔 - 第39話 忙しい日々と風雲急
本文
澪side
「ぜひっ、ひゅぅぅ……っ!
市支課は連日のように通報に追われていた。
『九重さん、南新興区(サザン・フロンティア)で悪魔の暴走です!』
「了解しました、すぐに向かいます!」
私は駆け出した。もう何度目かわからない。今週に入ってから、悪魔関連の通報が急増している。
現場に着くとインプが暴れていた。威嚇するように牙を剥き、周囲の人々を怯えさせている。
「市支課です! 下がっていてください!」
市民を避難させながら、私は結界術を展開した。インプを封じ込め、強制送還の魔法陣を描く。
「落ち着いてください。あなたを傷つけるつもりはありません」
インプは涙を流していた。怒りではなく、恐怖と混乱に満ちた瞳。
(また……負の感情に引きずられて、制御を失っている)
日本各地に設置された……と思われる『強制召喚陣(フォースド・サモン)』と『悪魔抑制装置(デーモン・サプレッサー)』によって悪魔の出現と暴走は増加している。
更には精霊現象のニュースを不安視した市民の方々からの通報も増えて、市支課はてんてこ舞いだ。
「大丈夫です。もう安全ですよ」
インプを魔界に送還し、私は市民の皆さんに声をかけた。皆、安堵の表情を浮かべている。
『九重さん、次は北高原区(ノーザ・プレインズ)で木々が枯れているので精霊の影響を調べてほしいと……』
「了解です! すぐに向かいます!」
市民の無事を確認し、私は次の現場へ向かって走る。
◇◇◇◇◇
その日の夜、ようやく仕事が終わった頃には体が鉛のように重かった。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「嘘つけ。顔色悪いぞ」
「少し疲れているだけです」
スルナちゃんに心配されて、ナナちゃんに心配されて。
確かに疲れている。
毎日、朝から晩まで現場を駆け回っている。
でも、これが私の仕事だ。市民の方々の生活を守るのが私の役目だ。
(セラちゃんはどうしてるんだろう……)
セラちゃんは最早日本の英雄で。
普段の仕事に加えて、メディア対応もしているのでここ最近は私よりもずっと忙しくしている。
……会いたい、と思うのは我儘なのだろうか。
◇◇◇◇◇
「……⁉︎ セラちゃん!」
それから数日後、久しぶりにセラちゃんから連絡があった。
『ハァイ、澪。今夜空いてる? 話したい事があるの』
その言葉に、私は胸が高鳴った。
「はい、大丈夫です!」
『じゃあ、いつものように私のマンションに来て』
「こんばんは」
「お疲れ様、澪。大変だったでしょう?」
セラちゃんのマンションに到着すると、セラちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
「セラちゃんこそ、お疲れ様です」
リビングに案内されると、セラちゃんが私をソファに座らせた。
「ちょっと待ってて」
セラちゃんが何かを取りに行き、プラスチックの容器を持ってきた。
「せ、セラちゃん……?」
「マッサージオイルよ。さ、服を脱いでうつ伏せになって」
「で、でも……」
「澪、毎日頑張ってるでしょう? 少しくらい労わらせてよ」
その優しい言葉と、巧みな脱衣術(?)私は抵抗できなかった。
「……お願いします」
上を脱いでうつ伏せになると、セラちゃんの手が私の肩に触れた。温かくて、優しい手つき。
「うん、やっぱりガチガチね」
「すみません……」
「謝らないの。ほら、力抜いて」
セラちゃんの手が肩のコリをほぐしていく。痛気持ちいい感覚に、思わず声が漏れた。
「ん……」
「可愛い声出すわね」
「せ、セラちゃん……!」
顔が熱くなる。でも、確かに気持ちいい。セラちゃんの手が背中を滑り、腰の方まで降りてくる。
「ちょ、ちょっと……そこは……」
「大丈夫よ、変なことしないから」
セラちゃんがくすくす笑う。私は恥ずかしさで枕に顔を埋めた。
マッサージが終わって服を着て。
ソファに座ってセラちゃんから貰った紅茶を飲んでいると、セラちゃんが隣に座った。
「毎日大変だったでしょ? もう少し待ってて」
「もう少し……?」
「もうすぐで何か掴めるかもしれないの」
「何かあるんですか?」
「明日から、“とある重要施設”の護衛任務に入るの。
詳しくは言えないけど……少し普通じゃない任務だと思う」
「それは……」
胸騒ぎがした。嫌な予感が、背筋を這い上がってくる。
「大丈夫よ。私、強いもの。心配しないで」
「でも……」
「それより、今日は一緒に寝ましょう。久しぶりだし」
セラちゃんが笑顔で話題を変えた。
自信満々だし、私自身セラちゃんが負ける想像は付かないけど……
胸に渦巻く不安を押し殺して、頷いた。
ベッドに入ると、セラちゃんがすぐ隣に寄ってきた。
「せ、セラちゃん、近いです……っ」
「いいじゃない。私と澪の仲なんだから」
「もう……」
「ふふ。おやすみ、澪」
セラちゃんがそう言うと、すぐに寝息を立て始めた。
私も天井を見つめながら、不安を抱えたまま目を閉じる
「澪。もし私に何かあったら、澪じゃ対処出来ない。その時は……私の事は忘れて平穏に暮らして」
「セラ、ちゃん……?」
私は返事をしようと思った。
だけどセラちゃんはもう深い眠りについていて……
(何を言っているの、セラちゃん……)
不安が胸を締め付ける。でも、疲労が勝って、セラちゃんが温かくて。
その誘惑に耐え切れず、私も眠りに落ちていった。
◇◇◇◇◇
その日からセラちゃんからの連絡がぴたりと途絶えた。
最初は「任務で忙しいんだろう」と思っていた。MTBなら、連絡が取れないこともあるだろう。
最近は特にトラブルも多いし。
でも、二日経っても、三日経っても、連絡はなかった。
大丈夫。セラちゃんは強いんだから……と私は自分に言い聞かせた。きっと大丈夫。
けれど、不安は日に日に増していった。
◇◇◇◇◇
五日目の夜。
私が自宅でナナちゃんとスルナちゃんと夕食を食べていた時、突然、空間が歪んだ。
「な、何……⁉︎」
光が収束し、そこから現れたのは……金髪の天使、グラディエルさんだった。
でも、その姿は悲惨そのもの。羽が裂け、全身が傷だらけで、魔力がほぼ尽きかけている。
「グラディエルさん!」
私は駆け寄った。グラディエルさんは床に倒れ込み、掠れた声で告げた。
「……澪様……セラ様、が……囚われ……」
背筋が凍った。
「セラちゃんが、囚われた……?」
世界が揺れた気がした。心臓が激しく打ち、息が苦しい。
「どこですか……! どこにセラちゃんが……!」
グラディエルさんは震える手で、何かを書き始めた。床に、血で文字を刻む。
施設の内部構造。そして、「最深部」という文字。
「セラ様……最深部……拘束……」
「待ってください、グラディエルさん! 気を確かに……っ」
でも、グラディエルさんは力尽きて意識を失ってしまった。
「グラディエルさん……!」
私は震える手でグラディエルさんを抱きかかえた。涙が溢れてくる。
「セラちゃん、どうして……どうしてこんなことに……っ」
「澪、落ち着け」
「ナナちゃん……」
「澪はどうしたいんだ?」
「セラちゃんを助けたいです……っ!」
「分かった。ならその施設に行こう」
「スルナも一緒に行きます!」
「ナナちゃん、スルナちゃん……ありがとうございます」
(セラちゃん……必ず、助けます)
グラディエルさんが刻んだ情報を頼りに、私たちは準備を始めた。
時間がない。一刻も早く、セラちゃんを救い出さなければ。
私の手は震えていた。だけど怖いからじゃない。
怒りと、決意で。
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