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第25話 初詣と、神様公認の共犯関係

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/5 📚 シリーズ: 「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 📝 5,157文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 - 第25話 初詣と、神様公認の共犯関係

本文

正月三日の昼下がり、駅前は妙に人が多かった。

 家の最寄り駅からさらに二駅先。

 毎年、安藤家が初詣に行く、そこそこ有名な神社の最寄り駅だ。

 改札を出ると、すでに人の流れが一方向にできあがっていた。

 屋台の旗とのぼりが、風に揺れている。

「甘酒の匂いする」

 隣で、まいがマフラーの上から鼻をひくつかせた。

「焼きそばの匂いもする。あとベビーカステラ」

「屋台の特定早すぎない?」

「経験則」

 神社に向かう道は、一部が歩行者天国になっていた。

 参道の入口あたりから、すでに「参拝待ち」の列がぐねぐねと伸びている。

 人の頭越しに、本殿の屋根と、でかい干支の絵馬がちらっと見えた。

「今年こそ、家族全員で同じ時間に集合できたね」

 まいが、少し得意そうに言う。

「駅まではな。ここに着いた瞬間、自由行動になったけど」

 僕は、列のはるか後方を振り返る真似をした。

 父さんは「混む前に」と喫煙所へ吸い込まれ、母さんは参道の入り口付近で近所の人に捕まって話し込んでいる。

「お父さんたち、どうすんの? 並ぶのあたしたちだけだけど」

「この人混みじゃ、今から列に呼び戻すのも無理だろ。参拝終わってから、社務所の前あたりで合流でいいよ」

「だね。まあ、いつものことだし」

 安藤家の初詣は、毎度このくらいのゆるさだ。

 きっちり時間を決めて動くより、各自のペースで動いて、なんとなく最終地点で会えればいい。そういう暗黙の了解があった。

「兄ちゃん、今年は何お願いすんの?」

 参道の途中で足を止められつつ、まいが聞いてくる。

「健康と平和と赤点削減」

「欲張り三点セット来た」

「神様のリソース配分を考えた結果なんだけど」

 口ではそんなことを言いながら、内心ではもう一つだけ、別の項目が引っかかっていた。

(“目立ちませんように”だけお願いしてた中学の頃とは、少しだけ違うよな)

 クラスの真ん中ではなくてもいい。

 でも、文化祭や冬休みの駅前みたいに、「誰かの役に立つ位置」にいるのは、悪くなかった。

 それを、わざわざ願いごとにするほど希望はしていないけれど。

「まいは?」

「テストの平均点十点アップと、兄ちゃんがあんまり変なことしませんように」

「後半のやつ、祈りの矛先おかしくない?」

「日頃の行いの結果です」

 そうやってくだらない会話をしているうちに、本殿前の列が見えてきた。

◇

 参拝待ちの列は、最後の折り返しあたりで歩くスピードが一段と遅くなった。

 人と人の間隔が詰まり、境内の砂利が、足音に合わせてざくざく鳴る。

 そのときだった。

「だからさ、絶対イカ焼き一択だって」

「いや、ベビーカステラも外せないでしょ」

 前のほうから、聞き覚えしかないテンポの声が聞こえてきた。

 少し高めで、語尾が軽く跳ねる声と、それに合いの手を入れる落ち着いた声。

(この掛け合い、声だけで誰か分かるんだけど)

 人の頭の隙間から前方を覗くと、見慣れた後ろ姿が二つ、視界の端に入った。

 片方は、ポニーテールをマフラーの上に出している西村。

 もう片方は、フード付きのコートを着た、肩までの髪の桜井。

(いやいや……さすがに、初詣でクラスメイト遭遇はイベント過多では?)

 心の中でツッコミを入れたところで。

「兄ちゃん」

 先に気づいたのは、隣の妹だった。

「あれ、桜井さんじゃない?」

 まいが、前方を顎で指す。

(妹の観察力、やっぱり侮れない)

 十秒くらい迷った末に、僕は列の合間から声をかけた。

「……桜井?」

 振り向いた二人のうち、一人が目を丸くする。

 桜井は僕の顔を見ると、驚きよりも先に、どこかホッとしたような表情を一瞬だけ浮かべた。

「あ、安藤くん。……奇遇だね」

「マジだ、一年B組セットだ」

 隣で西村が、楽しそうに笑う。

「セットって何」

「こっちが聞きたいよ。初詣コースでクラスメイト遭遇は、なかなかのレア演出なんだけど」

 そんな会話をしているうちに、列の流れで自然と立ち位置が調整された。

 人混みをかき分けるのが得意そうな西村とまいが前列へ。

 そのエネルギーに少し押され気味の僕と桜井が、後ろに並ぶ形になる。

「二人も、ここ毎年?」

 西村が振り返りながら聞いてくる。

「うちは毎年ここだね。スーパーの福袋感覚で、初詣も同じ神社固定」

「例えが安い」

 まいが、すかさずツッコんだ。

「あとでじゃがバタ買うのが安藤家ルールです」

「じゃがバタ」

 西村が、くすっと笑う。

「うちはね、家族全員で来る予定だったんだけど」

 西村は、人混みの後ろのほうを振り返る。

「親が“あとで合流する”って言い出してさ。とりあえず女子だけ先に初詣コース」

「“屋台でイカ焼き食べるまでがセット”らしいよ」

 桜井が、苦笑混じりに補足した。

 彼女は話しながら、さりげなく僕の右側――人通りの少ない側――に立ち位置を移している。

 先日のイルミネーションの時と同じ、「壁役」としての運用だ。

「その説明いる?」

「イカ焼きへの信頼が厚い家庭なのかもしれない」

 まいが適当な相槌を打つと、ふと思い出したように付け加えた。

「うちなんて、昨日もテレビのリモコン取り合って、お父さんふて寝してたし。まとまりなさすぎでしょ」

 その言葉に、隣にいた桜井がぴくりと反応した。

 そして、僕のほうをちらりと見て、悪戯っぽく口の端を持ち上げる。

『……予言通りだ』

 声に出さず、口パクだけでそう言った。

(……この前の“安藤家の年末ルーティン”の話、覚えてたのか)

 僕も苦笑して、小さく頷き返す。

 前を歩く西村とまいには分からない、二人だけの答え合わせ。

 ただそれだけのことが、妙に心地よかった。

◇

 参拝を終えたあと、僕らは本殿脇のおみくじコーナーに流れ込んだ。

 さっきまでのぎゅうぎゅう詰めよりは、少しだけ空間に余裕がある。

「はい、おみくじ行こう、おみくじ」

 西村が、テンション高めに宣言した。

「賛成です。ここで運を数値化しておかないと」

「運を数値化って言い方やめろ」

「じゃ、せっかくだし四人で引く?」

 桜井が、箱の前でちらっとこちらを見る。

「……まあ、ここまで来て一人だけスルーするのも変だしね」

 僕らは、それぞれ一本ずつ、おみくじを引いた。

「じゃあ、せーので開ける?」

「そのノリは嫌な予感しかしない」

 文句を言いつつも、紙を開くタイミングはなんとなく揃った。

「……中吉」

 僕の紙には、その二文字が印刷されていた。

 横のほうには、「焦らず、今の歩幅で進め」と、それっぽい言葉が並んでいる。

「私は小吉だ」

 桜井が、自分の紙を見ながら言う。

 そして、ある一行を見つけて、僕にだけ見えるように紙を傾けてきた。

「見て。“思いがけぬ協力者あり”だって」

「……へえ」

「神様も公認みたいだね。私の“共犯者”」

 桜井は、誰にも聞こえないような小声で囁くと、満足げに目を細めた。

 その言い方が、おみくじの結果よりも確かな「契約書」みたいに聞こえる。

「うわ、出た。大吉」

 西村の声で、僕らは現実に引き戻された。

「“人の輪を大切にせよ”“調整役でうまくいく”……だって。これは今年もクラス運営を頑張れという神の圧」

「安定してるなあ」

「はい、末吉」

 まいが、自分の紙を差し出してくる。

「“出過ぎなければ吉”“口は災いのもと”」

「心当たりがあるようなないような?」

「ある側だろ、それは」

「兄ちゃんが言う?」

 軽くにらまれた。

「でもさ、末吉って、一番伸びしろありそうじゃない?」

「ポジティブ解釈の天才かよ」

 西村が笑いながら、まいの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

 おみくじの紙片がひととおり読み上げられたところで、西村がふと思い出したように言う。

「せっかくだし、“今年の目標”一個ずつ宣言してかない?」

「本殿の前でお願いしたやつを、ここで口に出させるスタイル?」

「全部じゃなくていいからさ。“人に言えるやつ”だけ」

「ハードル設定が妙に現実的なんだよな」

「じゃあ、まいちゃんから」

「指名制なんだ……」

 まいは、少しだけ考えてから口を開いた。

「私は……ちゃんと勉強して、ちゃんと兄ちゃんを見張る」

「後半のやつ、絶対余計なんだけど」

「後半がないと、前半のモチベが出ないの」

 理屈になっているような、いないようなことを言う。

「でも、兄妹でお互いの生活見てる感じはするね」

 桜井が、くすっと笑った。

「じゃ、次うちね」

 西村は、自分のおみくじをひらひらさせながら言う。

「今年は、“ちゃんと人の話を最後まで聞く”かな」

「聞く?」

「なんかさ、つい途中で“あ、それ分かる!”ってかぶせちゃうじゃん、わたし」

「自覚はあるんだ」

「あるよ? だから今年は、もうちょっと“最後まで聞いてからしゃべる側”の練習したい」

 しゃべる側に回ること自体は苦じゃないけれど、

 それだけだと空回りも増える──そういう自戒みたいなものが、僕にはその目標に混ざって聞こえた。

「しゃべるほうは、多分放っといても減らないしね」

「そこは安心と信頼の西村クオリティ」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「じゃあ、次は?」

 西村が、今度はわざとらしく周りを見回す。

「ここはやっぱり、“もう一人の中心側”でしょ」

「誰が“中心側”なの、それ」

「決まってるじゃん。店長さん」

「だからその呼び方やめてってば」

 口では否定しつつも、語尾はどこか丸かった。

 自然と、僕とまいの視線も、桜井のほうに集まる。

「……わたし?」

 視線を向けられて、桜井が少しだけ視線を逸らす。

 それから、僕を一瞬だけ見て、ゆっくりと言葉を選んだ。

「“ちゃんと最後まで見届ける”かな」

「何を?」

「いろいろ」

 桜井は、参道の向こう側を見るように目線を上げる。

「クラスのこととか、自分で始めたこととか。……あとは、協力してくれる人もいるし」

 最後の付け足しは、明らかに僕に向けられたものだった。

(途中で投げたくない、って言い方が一番近い気がした)

 そう思ったが、あえて口には出さない。

「じゃ、ラスト安藤くん」

「プレッシャーの順番」

 おみくじの紙を握り直してから、口を開く。

「僕は……“あんまり波風立てずに、それでもちょっとは役に立つ一年で”」

「相変わらず、モブ志望なんだか便利屋なんだか分かんない」

 まいが、即座にツッコミを入れてきた。

「でもさ」

 西村が、少し真面目な顔をする。

「安藤くんが“ちょっとは役に立つ”方向に動くと、だいたい周りが助かるからね」

「そうそう。文化祭のときとか、まさにそれだったし」

 桜井は、何も付け足さず、ほんの少しだけ笑った。

 その笑い方だけで、十分すぎる補足になっていた。

◇

 参道を戻る途中、屋台ゾーンの前で足が止まる。

「イカ焼き行く? それともベビーカステラ?」

 西村が、屋台の列を見比べながら言った。

「じゃがバタ優先です」

 まいが、迷いなく答えた。

「完全に胃袋優先の意思決定」

「お腹は正直なんだよ」

「じゃ、ここでいったん解散かな」

 桜井が、屋台の並びを見回しながら言う。

「うちはこのあと、ここで家族と合流コースだから」

「了解」

 僕が頷く。

「まいちゃん、お家でお兄ちゃんの監査よろしく」

「任されました」

「そういう連携プレーやめて」

 抗議は、あっさりスルーされた。

 西村とまいが屋台の方へ歩き出すと、一瞬だけ、僕と桜井のあいだに隙間ができた。

「……じゃあ、またあとで連絡する」

 桜井が、他の二人には聞こえない声で言った。

「連絡?」

「冬休みの取材の件。神様公認の協力者なんでしょ?」

 桜井は、少しだけ笑ってこちらを見る。

 その笑顔は、さっきまでのクラスメイトに向けるものより、少しだけ力が抜けているように見えた。

「じゃあ、良い一年にしましょう、的な感じで」

 戻ってきた西村が、手をひらひら振った。

 僕らもそれに軽く手を上げて応える。

 人混みの中で、四人のグループはゆるやかにばらけていった。

(学校の中だけじゃなくて)

(こうやって神社の帰り道で、クラスメイトと妹の会話が混ざってるの、妙に不思議だ)

(大人数の“クラス全体”じゃなくて、四人くらいの半径でなら……この距離感、悪くない)

 そう思いながら、僕はじゃがバタの列に並ぶ妹の後ろ姿を追いかけた。

◇

 家に帰るバスの中で、窓の外の街並みをぼんやり眺めながら思う。

 ポケットの中には、さっき引いた中吉のおみくじ。

(たぶん、今日みたいなのも)

(どこかのタイミングで、桜井のエッセイのどこかに混ざるんだろうな)

 「一年のはじまりと、願いごとの話」とか、

 それっぽいタイトルをつけて。

 おみくじの紙片を握りしめてた四人組が、

 どこかの段落の端っこに、ちょっとだけ顔を出す。

 その完成した文章を、僕が実際に読むことはない。

 タイトルも、投稿日も、あえて知らないままにしておく。

(それはそれで、ちょうどいい距離感なんだろうな)

 ネタの種だけ渡して、どんな花が咲いたかは知らないふりをする。

 それが、「観察係」としての僕らの契約で、守るべきラインだ。

 そう自分に言い聞かせながら、窓の外を流れていく街の明かりをもう一度だけ見送った。

 新しい一年が、静かに始まっていく気がした。

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もりぞー

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