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第28話 バレンタインの翌日と、追い焚き

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/6 📚 シリーズ: 「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 📝 1,659文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「隅っこのこと、教えてよ」——クラスの有名人に観察係を任された僕の青春記録 - 第28話 バレンタインの翌日と、追い焚き

本文

二月十五日。バレンタインの翌日。

 教室の空気は、魔法が解けたみたいに嘘のように静かだった。

 黒板の隅の「バレンタイン」の文字は消されていて、代わりに「学年末テスト二週間前」という無慈悲な現実が書き込まれている。

 男子たちも昨日の浮き足立った様子が嘘みたいに、参考書や単語帳を広げていた。

(……まあ、これが日常だよな)

 僕も席に座って、次の授業の準備をする。

 でも、ブレザーのポケットに手を入れると、指先に昨夜の余韻みたいなものが触れた気がした。

 そこには、小さく折り畳まれた一枚のメモが入っている。

 今朝、家を出る前に一つだけ食べた、クリーム色の箱のチョコ。

 甘すぎない、カカオの香りが強いビター寄り。

 口に入れた瞬間に思った。

(これ、僕が好きなやつだ)

 自販機で無意識に選ぶ缶コーヒーの好みに近い。

 甘いのに、甘ったるくない。

 その箱が入っていた、小さな手提げ袋の底。

 箱を取り出したあとに、この紙がひっそりと残っているのを今朝見つけたのだ。

『感想は三行まで』

『長文禁止。観察係の得意分野なので』

 見慣れた字だった。

 プリントの隅に走ってる、あの字。

(……朝から心臓に悪い)

 僕はポケットの中の紙を、指先で確かめるように強くなぞった。

 チョコの箱ごと持ってくるのは無理だけど、このメモだけなら、誰にもバレずに持ち歩ける。

 平静を装って教科書を開いた、そのタイミングで。

「安藤く〜ん?」

 横から、ひょいと顔を覗き込まれた。

 西村だった。

「……なに、西村さん」

「いや〜? なんか今日、お肌のツヤがいいな〜と思って」

 西村は隠す気ゼロのニヤニヤで僕を見る。

「昨日の“個別対応”、どうでした?」

「……っ」

 思わず声が詰まる。

 昨夜の公園の件は、当然ながら極秘事項のはずだ。

「なんで知って……」

「え、だってすみれ、昨日の帰り道にあんなに不機嫌だったのにさ。『邪魔が入った』って――」

「千夏、ストップ」

 鋭い声が飛んできた。

 振り返ると、いつの間にか後ろに立っていた桜井が、西村の口を手元のノートで塞いでいた。

「守秘義務。……ばらしたら契約、解除するよ」

「むぐぐ……解除って……目がガチなんだけど……」

 桜井はいつもの涼しい顔を崩していない。

 でも、ノートを押さえる指先にだけ、ほんの少し力が入っているように見えた。

「安藤くんも」

 桜井が僕のほうを見て、短く言う。

「感想、今日中」

「……了解。三行で済ませる」

「よろしい」

 その返事だけで、胸の奥が変に落ち着く。

 暗号みたいなやり取り。昨日の続き。

 桜井は西村の襟元をつまむみたいにして、自分の席へ引き戻そうとした。

 そのとき、桜井のノートの間から紙が一枚ひらっと落ちた。

 拾って渡そうとして、僕の指がその紙に触れる。

 同時に、桜井の指も伸びてきて、一瞬だけぶつかった。

 昨日ほどじゃない。カイロほどでもない。

 なのに、記憶だけがやたらと正確に引っ張られる。

(……やめろ、思い出すな)

「……落ちた」

 僕が言うと、桜井は紙を受け取って素早くノートに挟み直した。

「ありがとう。回収完了」

 相変わらずの言い回し。

 なのに、ほんの一瞬だけ、視線が泳いだように見えた。

(気のせいだ。僕の目が都合よく見てるだけ)

 桜井が背中を向けて歩き出す。

 そのまま行くと思ったのに、二歩だけで止まって、振り返らずに言った。

「待ってる間、寒かったでしょ」

「……え」

 反射で固まる僕の隙をついて、桜井は畳みかける。

「風邪ひかれたら困るから」

「次から手袋してきて」

 言い終わる前に、桜井は歩き出した。

 西村の「はいはい出たよ管理側〜」という茶化す声が追いかける。

 僕は机に戻って、教科書を開くふりをする。

 ポケットの中の小さなメモが、やけに存在感を主張してくる。

(感想は三行まで)

(長文禁止)

 提出物としては最高にくだらない。

 なのに、最高にありがたい。

 僕はノートの端に、三行だけ書き始めた。

『ビター寄りで食べやすい』

『香りが強いのにくどくない』

『手袋、用意しとく』

 最後の一行を書いた瞬間、自分で自分に笑いそうになる。

(……なんだこれ)

 でも消さなかった。

 テスト前の憂鬱な教室が、昨日より少しだけ明るく見えた。

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もりぞー

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