第9話 真夜中の邂逅 2
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あらすじ
終焉の探偵 - 第9話 真夜中の邂逅 2
本文
「何故語尾があがるっ!! 意味分かんないっ!」
私がそう叫んだ、その時――
眼下の地面が、ぐずりと崩れ、そのぽっかり空いた穴から――
「――っ!?」
また、黒いものが這い上がってきた。
さっきより大きい。
さっきより、形がはっきりしている。
人の形。
でも、人じゃない。
顔のようなものがあって、
目のようなものがあって、
口のようなものが、ぐにゃりと開いた。
「ひっ……!」
声が出ない。
さっきの安堵が、一瞬で恐怖に変わる。
そして――気づいた。
周りにも、影が。
三体。
四体。
地面から、次々と這い上がってくる。
私たちのいる建物を、取り囲むように。
「っ!?」
探偵さんの表情が変わった。
飄々とした笑みが消えて、
鋭い目つきになる。
「……まずいな」
探偵さんの声が、初めて焦りを含んだ。
影がじわじわと壁を這い上がってくる。
黒い腕が、四方八方から――
「掴まって!」
えっ!? 探偵さんが、また私を抱き上げた!?
とっさに腕を探偵さんの首に回す!
「うわわ……!?」
いきなりのことで、何が起きたのか分からない、が。
おっと、これはお姫様抱っこ!?
――浪漫すぎる!!
影の腕が、私がいた場所を通過する。
ギリギリだった。
探偵さんが、私を抱きかかえたまま跳んだ。
文字通りに。
「ひゃっ!?」
看板からホテルの壁を蹴って、隣のビルへ。
そこからまた次の屋根へ。
「え、え、ええええ!?」
探偵さんが、屋根から屋根へ跳ぶ。
私を抱えたまま。
軽々と。
「な、何これ……!」
ビルの壁面を走る。
重力を無視したような動き。
人間離れ、どころか物理法則も無視したような運動能力。
「ちょっと揺れるけど、我慢して!」
「ちょ、ちょっとじゃないですーーーっ!!」
でも――
探偵さんの腕は、確実に私を守ってくれていた。
絶対に落とさない。
温かい。
「……ところで君の家ってどこかな?」
不意に聞かれて、私はわたわたと住所を伝える。
「わかった、あと少しだけ、我慢しててね」
探偵さんがそう言いながら私の顔を覗き込んだ。
夜風が彼の黒髪をなぶる。月光に照られたその整った顔に一瞬目を奪われてしまう。
(近い……顔が近い……)
心臓がドキドキする。
怖さと恥ずかしさが混ざって、
何が何だか分からない。
(探偵さんの腕……意外と筋肉質……)
(え、待って、今そんなこと考えてる場合!?)
――と。
「痛だだだだっ!」
探偵さんの胸元に固い何かが入っていて,抱き締められると、それが遠慮なく私の身体にゴリゴリ食い込んでくる。
――これは、鎖?
「あ、ごめん。もう少しだから」
探偵さんの声が、耳元で。
優しい声。
「は、はい……」
自分でもビックリするくらい素直な声。
食い込む鎖が痛いけど、なんだか顔が熱い。
耳たぶまで熱くなってる。
うわ、恥ずかしっ!
さらに高く跳ぶ探偵さん。
ビルの屋上へ。
そこから隣のビルへ。
大跳躍。
「ひゃああああ!!」
私、探偵さんにしがみつく。
探偵さんの首に回した手に力がはいる。
必然的に更に密着することになる訳で――
「大丈夫、落とさないから」
着地の衝撃。
でも探偵さんが全部吸収している。
私は全く揺れない。
(凄い……この人……人間じゃ……ない……ラノベやアニメの主人公みたいだ……)
激しい跳躍が続く。
頭がクラクラする。
恐怖と緊張と、
探偵さんの腕の温かさと、
色々が混ざって――
「あ……の……」
視界がぼやける。
意識が遠のく。
「お嬢さん?」
「探偵……さん……」
私、気を失った。
探偵さんの腕の中で。
◇
――気がつくと、私は自室のベッドにいた。
「……ん……」
窓の外は明るい。
早朝の光が差し込んでいる。
夢――を見たのかな?
(ううん、違う……私……どうやって……)
記憶が蘇る。
探偵さんに抱きかかえられて、
屋根から屋根へ、
そして――
「気絶……した……?」
顔が真っ赤になる。
「うわああああ恥ずかしい!!」
後頭部が、ずきずき痛む。
腕には、かすり傷。
パジャマの裾が、少し破れてる。
手に、何か握りしめてる。
探偵さんのコートの繊維?
テーブルに、あの名刺。
新しく書き込みがある。
〈困った時にはお気軽に!〉
良かった、日本語だ。
でも、これでさっき見た光景が全部夢だったんじゃないかな、という私の希望は粉砕された。
そして――
千晶ちゃんのことを思い出す。
(……千晶ちゃん……)
胸が、ぎゅっと痛む。
(……学校で……確かめないと……)
あの人には、何故窓に張り付いてたのかとか何故あそこにいたのか、とか聞きたいことが山ほどある。
怪しいのは承知で明日公園まで行ってみるべきかも知れない。
でも今は――
千晶ちゃんのことが心配で仕方なかった。
結局それから登校時間まで、私はほとんど眠れなかった。
◇◇◇
これにて、終焉の探偵、Chapter 2終了です。
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