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第10話 三日目の朝

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/15 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 3,068文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第10話 三日目の朝

本文

目覚ましが鳴る。

 重い瞼を開けると、天井が見えた。

(……あの人……)

 胸が、どくん、と跳ねる。

 探偵さんの腕の感触。

 お姫様抱っこされたときの体温。

 常軌を逸した身体能力――

(……って、私、何考えてるの……!)

 顔が熱くなる。

 慌てて体を起こすと、後頭部がずきんと痛む。

 腕には、かすり傷。

 パジャマの裾が破れてる。

(……そうだ……千晶ちゃん……)

 胸のドキドキが、一気に冷える。

 昨夜のことが、フラッシュバックする。

 黒い影。

 探偵さん。

 そして――

(……千晶ちゃん……)

 胸が、ぎゅっと痛む。

 時計を見る。

 いつもより30分遅い。

「やば……遅刻する……!」

 慌てて着替えて、家を飛び出した。

◇

 駅前で、サヤカと合流した。

「おはよー、真弓」

「おはよ……」

 サヤカが、私の顔をじっと見た。

「……真弓、顔色悪いよ?」

「え、そう?」

「うん。目の下にクマあるし……寝不足?」

「ちょっと……夢見ちゃって……」

「また悪夢? 最近多いよね」

 サヤカが心配そうに眉を寄せる。

「大丈夫? 保健室行く?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」

 本当のことは、言えない。

 夢のこと。

 真夜中に一人で出歩いたこと。

 黒い影に襲われたこと。

 探偵さんに助けられたこと。

 ――全部、言えない。

「……真弓?」

「ん?」

「ほんとに大丈夫? なんか……元気ないよ?」

 サヤカの声が、優しい。

「……うん。大丈夫」

 私は無理やり笑顔を作った。

「ちょっと疲れてるだけ。大丈夫だから」

「……そう。無理しないでね」

 サヤカは、それ以上追及しなかった。

 そういうところが、サヤカの優しさだ。

◇

 学校に着くと、いつもと違う空気を感じた。

 教室の前で、生徒たちがひそひそ話している。

「聞いた?」

「まじで?」

「やばくない?」

(……何……?)

 胸騒ぎがする。

 嫌な予感。

 私とサヤカは、顔を見合わせた。

「……何かあったのかな……」

「……分かんない……」

 教室の扉を開ける。

 そしてその日も一見すると、普段と変わらないような一日がはじまった。いえはじまって?

 しかし、そんな思いは、すぐに粉砕されることになるのだけれど。

 ――休み時間。

 私は、意を決して梓さんの席に向かった。

(聞かなきゃ……夢のこと……)

 心臓がバクバク鳴る。

 でも、知りたい。

「あ、あの……梓さん」

「……虚木真弓さん」

 梓さんが、静かにこちらを見た。

「昨日の夜……夢、見たんです」

「夢?」

「その……変な夢で……梓さんが、弓を持ってて……」

 梓さんの目が、一瞬だけ細められた。

「……そう」

「あの……それって……」

「気をつけて、虚木真弓さん」

「え……?」

「あなたは、見えてしまうのね。

 それは、とても危ないことだから」

 梓さんはそれだけ言うと、また本を開いた。

(……見えてしまう……?)

 どういうこと?

 夢じゃなかったってこと?

 混乱したまま、席に戻る。

 そして――

 その日の午後から、梓さんへのいじめが始まった。

 そのきっかけは何だったんだろう。

 ほんとに、大したことじゃなかった気がする。

 だって梓さん、別に何かしたわけじゃないし。

 いきなりクラスの空気を悪くするような失言もしてないし。

 授業中に先生へ噛みついたとかでもないし。

 むしろ、あの人、ずっと静かで、

 誰かとぶつかる隙すらなかったんだよ。

 なのに――午後にはもう、なんかあの子ムカつくよね、みたいな空気になっていた。

 原因は多分……いや、ほんと多分なんだけど、今朝のホームルームで起きた、たった一つのそれだけのこと。

 先生がプリントを配って、美咲さんがそれを床に落として、拾おうともしなくて、でも梓さんがすっと拾って渡した時。

 あの時の美咲さんの顔。

 あれだと思う。

 たぶん、あの一瞬だった。

(あー……やばいやつだこれ……)

 私の中の危険センサーが、パチンってスイッチ入れたみたいに鳴った。

 でもその瞬間には、まだ誰も何も言わなかったし、まして私に何かできるわけでもなかった。

 ただ――あれが始まりだったんだ。

 今なら、分かる。

 今日の教室は、午後から変な温度だった。

 クーラーは効いてるのに、空気はぬるい。

 人の視線って温度あるんだなって、あの時初めて思った。

「ねえ見た? さっきのあれ」

「やばくない?」

 クラスの女子カースト上位3人組。

 相沢ミサと、その取り巻き二名。

 ミサは背が高くて、スタイルもいい。

 セミロングの髪はサラサラで、メイクも上手い。

 多分、親の金で買ったブランドもののヘアピンが、

 わざとらしくキラキラしてる。

 取り巻きの2人は、

 ミサのコピーみたいに髪型も仕草も真似してる。

 なんかもう、声にトゲが刺さってるんですよ。

 私はプリントを出しながら聞こえないふりをしたけど、

 耳は勝手に拾っちゃう。そういう仕様なんです、私。

「ていうかさ、なんか気取ってない?」

「わかる。あれ絶対ウチらのことバカにしてるよね」

(いやいやいや、何もしてないじゃん……。昨日プリント拾ってくれただけじゃん……ていうか拾えよ……)

 心の中で全力ツッコミするけど、もちろん言えません。

 だって私、勇気とか戦闘力とかそういうステータス全部初期値ですし。

 そして――

 標的にされてる本人、梓さんはというと。

 席に座って、真っ直ぐ黒板を見てる。

 表情ゼロ。

 眉ひとつ動かない。

 なんなら呼吸してるのかも怪しいくらい静か。

 まるで何かを待っているような、そんな目をしていた。

 いじめられても動じない――というより、

 最初から覚悟していたような静けさ。

 それが逆に、クラスメイトを苛立たせているように見えた。

(わ、わ……これ、もっと悪くなる……)

 思った通りに、女子たちが梓さんの前で口を開き始める。

「田舎帰れよって感じなんだけどー」

「昨日の挨拶のやつもさ、なんか嘘っぽくなかった?」

(いや、めっちゃ丁寧だったよ……?

 むしろあなたたちより礼儀正しかったよ……?)

 そういうのも全部言えずに、私はただプリントの角をいじる。

 ――その時。

「ちょっと静かにしよ?」

 柳田先生が入ってきた。

 声は優しいけど、瞳の奥にちゃんと怒ってるのが分かるやつ。

「今朝のこと、私は見てたからね。人に拾わせるのはよくないよ?」

「……はーい……」

「……すみませーん……」

 完全にやる気ゼロの謝罪。

 はい、これは絶対に反省してないやつです。

 秒で分かる。

 梓さんはというと、やっぱり無反応。

 ほんとに「気にしてない」って感じだった。

(それがまた……火に油ってやつだよね……)

 私の胸に、いやーな予感が広がる。

 これ絶対終わらない。むしろこれから始まるタイプのやつだ。

 案の定、休み時間になった瞬間。

「ねえ矢野さんってさあ」

「昨日のニュースのあれ、知ってる?」

「うちらの駅の近くで失踪あったじゃん。関係あったりして」

「ちょっと、それどういう……」と止めたいけど、声が出ない。

 喉がぎゅっと縮まる。心臓だけがバンバンうるさい。

 梓さんは……

 本当に何も言わない。

 ただ黒板を見て、ペンを動かすでもなく、

 呼吸の音すらしないみたいに静か。

(わ、わ……これ、もっと悪くなる……)

 私は机の端を握りしめて、ただそれを見ていた。

 止められない。止められない自分が一番嫌い。

 そんな私を横目で見て、サヤカが小声で言う。

「真弓、顔色やばいよ……」

「……うん……分かってる……」

 でも、どうにもならない。

 そして放課後――

 最悪は、本当にそこからだった。

 翌日の教室は、妙にざわついていた。

 夏の日差しがカーテンから差し込み、机の上を白く照らしているのに、空気だけが濁っているように感じた。

「ほんと態度悪い……」

「……ムカツク」

 耳に入れたくない声が、背後から聞こえてくる。

(……梓さん……)

 視線を向けると、教室の中央で梓さんを取り囲むように三人の女子が立っていた。

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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