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第11話 いじめ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/16 📚 シリーズ: 終焉の探偵 📝 2,452文字 ✅ 全年齢

あらすじ

終焉の探偵 - 第11話 いじめ

本文

梓さんは無表情。

 さっきと同じ、ひとつも揺れない静けさ。

 手には文庫本の小説を開いて目を落としている。

 随分と古そうな文庫本だ。

 三人の女子はクラスでも目立っている、いっちゃえばカースト上位女子たち。

 相沢ミサ。

 取り巻きの藤崎アヤカ、森下リエ。

 女子グループの中心人物でいいところのお嬢さんみたいだ。

 ミサが腕を組んで、梓さんを見下ろす。

「ねえさあ、転校早々なんだけどさあ」

「なんなの、あんた? 田舎者のくせにさ、態度だけでかくて」

「そうそう。戻って来れて嬉しいです、とか言ってる割に、全然馴染もうとしないし」

「人の目も見ないし、気味悪いんだけど?」

(いやいやいや、今それ言う??)

 胸がつまる。

 昨日の、梓さんの目。

 世界とずれているような、あの静かな目。

 それを理解できるわけもない三人が、

 そのまま恐怖にすり替えているのが分かった。

 でも梓さんは、やっぱり黙っている。

 強いて言えば、見ていた本を閉じて彼女たちの方に目を向けた、それだけ。

 怒らず、反論せず、俯きもせず、ただ――静か。

(なんで……そんなに静かでいられるの……?)

 私には分からない。

 怖いし、腹も立つ。

 でも口を開けない。

 梓さんは、彼女たちから視線を外す。

 そして、また本を開いて読み始めた。

 その様子に鼻白んだように、三人は梓さんから離れていった。

 聞こえるように陰口をたたきながら。

(待って梓さん強っ……いや強いとかそういう話じゃなくて)

◇

 放課後。

「真弓、帰ろー」

「今日の文芸部ミーティング、早くしよ……って、あれ?」

 サヤカが気づく。

 教室の奥に、人影が残っていた。

 梓さんだ。

 鞄も開けたまま、席に座ったまま。

 周りには――さっきの三人。

 私は廊下から、足を止めた。

「ねえさあ……今日の授業中の態度、マジでさあ」

「先生のこと、バカにしてたよね」

「怪しいんだよ、ほんとに」

 ミサが机を叩く。

 軽い音なのに、梓さんは微動だにしない。

「ねえ、失踪事件のこと、知ってるでしょ?」

「昨日もその前も、女子ばっか消えてるんだよ?」

「タイミング的に、あんたじゃん?」

 綾香の声が鋭い。

 理沙は唇を噛んで下を向いたまま。

(やめてよ……!)

 喉が塞がったように声が出ない。

 足が床に縫い付けられたみたいで、動けなかった。

「ね? 書けばいいんじゃない? すみませんでした って」

「ほら、紙とペン」

 ミサが無理やり紙を押しつける。

 梓さんは、ゆっくりそれを受け取った。

 そして――

 穏やかな顔のまま、さらさらとペンを走らせる。

 抵抗しない。

 怒らない。

 悲しまない。

(……なんで……なんで書くの……あなた、何もしてないのに……)

 気がつけば、私は廊下で泣きそうになっていた。

「私……何もできない……」

 情けなさで胸が押しつぶされる。

 先生を呼ばなきゃ。

 そう思って職員室へ走った。

◇

「先生っ……! 矢野さんが……!」

 職員室の扉を開けると、柳田先生は机に向かって座っていた。

 書類を整理している手が、ぴたりと止まる。

 私は息を切らしながら事情を説明した。

 梓さんが囲まれていること。

 三人が無理やり謝罪文を書かせていること。

 このままじゃ、もっとひどいことになるかもしれないこと。

 柳田先生は、ゆっくりと顔を上げた。

 その表情は――穏やかだった。

 驚きも、焦りも、怒りもない。

 ただ、静かに私を見つめている。

「真弓さん……」

 深くため息をついて、柳田先生は書類から目を離した。

「あなたは優しい子ね」

 その言葉が、妙に冷たく聞こえた。

「でもね、先生には先生の見える範囲があるの」

 ――見える範囲。

 その言い方が引っかかった。

 まるで、見えないものがあるみたいな。

 見ようとしていないみたいな。

「彼女たちは反省したって言ってるの。それを信じるしか……」

「嘘です……! あの子たち、やってます……っ!」

 掴みかかりたい衝動を押し殺しながら訴える。

 でも柳田先生は、椅子から立ち上がらない。

 扉から出てこない。

 その目が、一瞬だけ――冷たく見えた。

 気のせいだと思いたかった。

「職員室を飛び出すのはよくないわ。真弓さん、落ち着いて」

(落ち着けるわけ……ない……)

 私は泣きながら教室へ戻った。

(お願いだから何も起きないで……)

◇

 教室の扉を開けた瞬間、

 息が止まった。

 床に、梓さんが倒れていた。

「梓さん……!」

 駆け寄る。

 顔には大きな痣。内出血しているのかも知れない。

 腕に真新しい傷が何本も走っている。

 制服の袖が裂けて、血がにじんでいた。

「ひど……い……」

 三人の姿はない。

 机も倒れている。

 明らかに、ここで何かがあった。

 私は震える手で梓さんの肩に触れた。

「梓さん……! 救急車……呼ばなきゃ……!」

 その時。

 梓さんのまぶたがゆっくりと開いた。

「…………ん……」

 何事もなかったように、

 すっと身体を起こす。

 傷だらけの腕を持ち上げて、

 梓さんが自分を見る。

 そして――

 傷が、見る間に塞がっていった。

 大きな痣も見る見るうちに消えてゆく。

「…………っ……?」

 ぞくり、と背筋が凍る。

 裂けた皮膚が寄り、滲んだ血がふっと消え、さっきまであった傷跡すら残らない。

 まるで、最初から何もなかったみたいに。

「……見られちゃったか」

梓さんは小さくため息をついて、

淡々と制服の袖を直し始めた。

「虚木真弓さん。あなたなら……分かってくれると思うんだけど」

(え……何が……?)

「私たちは同じ。虚木の血を引いてる。

 だから、こういうこと――起きるの」

 意味が分からない。

 虚木? 血? 何の話?

「見なかったことにして。お願い」

 梓さんは、まるで当然のことのように言った。

 まるで、私が全部知ってて当たり前みたいに。

(私……何も知らない……)

 私は呼吸が止まり、

 頭が真っ白になった。

「……梓さん……あなた……なんなの……?」

 梓さんは、こちらを見ない。

 ただ静かに立ち上がり、周囲を一度ゆっくり見渡した。

 淡々とした動作。

 怪我人のものじゃない。

 人間のものでも、ない。

 私は叫びそうになった喉を押さえる。

(怖い……梓さんも……化け物……)

(千晶ちゃんを連れて行った影も……)

(私の周りは……全部……)

 助けて、誰か……。

 悲鳴のような想いを抱えて、私は安全地帯に逃げ出したのだった。

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作者について

カクナ・ノゾム

カクナ・ノゾム

カクナノゾムと申します。 趣味の小説を細々と書いてます。 面白いことは間違いないので是非是非ご一読くださいませ。

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