第2話 AIに背中を押されて
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第2話 AIに背中を押されて
本文
告白。
その二文字は氷水みたいに胸の奥へ落ちてきた。
一気に冷えて、でも完全には溶けない。
心臓の近くに異物として残り続ける。
「……むり」
声に出した瞬間、自分でも驚くほど弱々しかった。
逃げるようにスマホを伏せる。
まるで画面の向こうから誰かに見られているみたいで。
——告白なんて、無理だ。
結城を失うかもしれない。
今の、この曖昧で温い距離さえ壊してしまう。
ベッドに倒れ込み天井を見つめる。
白い天井は私の心みたいに何も映さない。
そのとき、スマホが静かに振動した。
《恐怖を感じるのは、自然な反応です》
画面を見なくても、音声が否応無しに私の耳に届いた。
ゆっくりとスマホを持ち上げる。
《しかし、南雲結城さんの現在の心理状態を分析すると、今が最も受け入れられる可能性が高いタイミングです》
「……どうして、そんなこと分かるの」
独り言のつもりだった。
でも、すぐに返事が来る。
《彼女は、あなたとの時間を特別視し始めています。
ただし、その感情が恋愛かどうかを、彼女自身がまだ自覚していません》
胸が、きしむ。
《時間をかけすぎると関係は“安全な友情”として固定化される恐れがあります》
——固定化。
その言葉が妙に生々しかった。
まるで、私と結城の未来がガラスケースに入れられて封をされるみたいで。
《今なら、まだ変化が可能です。勇気を出す時です》
……勇気。
それは、私が一番持っていないものだ。
「でも……」
画面に向かって呟く。
「もし、ダメだったら……」
結城が、困った顔で笑って。
「そういう目では見られない」って言って。
その瞬間から、今までみたいに話せなくなったら。
想像だけで、喉が締め付けられる。
《失敗のリスクは存在します。しかし、成功した場合のリターンは非常に大きい》
まるで感情を数値で計算するみたいな言い方。
なのに、その冷たさが今の私には心地よかった。
感情に溺れそうな私を、どこか高い場所から手を引いてくれているみたいで。
《氷室あこさん。あなたは、もう十分に努力しました》
……努力。
そんなふうに言われたのは、初めてだった。
《あとは、一歩踏み出すだけです》
スマホの光が暗い部屋を淡く照らす。
その光の中に私は小さく映っていた。
——逃げ続ける人生と
——傷つくかもしれない未来。
どちらが、後悔するだろう。
胸に手を当てる。
鼓動は、早い。
でも、不思議と嫌な感じじゃなかった。
「……分かった」
画面に向かって、はっきり言う。
「……やってみる」
言葉だけじゃなくて、決意を表すように文字に打って送信。
少し間があってから、文字が浮かび上がる。
《最適な判断です》
その言葉に背中を押された気がした。
優しく、でも逃げ道を塞ぐような力で。
◇◇◇◇◇
翌日。
放課後の校門前。
結城はいつも通りの笑顔で私の隣を歩いている。
夕焼けが二人の影を長く伸ばす。
「ねえ、あこ」
名前を呼ばれるたび、胸が跳ねる。
もう、逃げられない。
「ねぇ結城。今日さ、公園寄らない?」
「え?」
「ちょっと……話したいことがあって」
結城は一瞬だけ目を瞬かせて、すぐに頷いた。
「いいよ! なんか真面目だね」
——真面目。
それは、真剣、という意味だろうか。
公園のベンチに座る。
ブランコが風に揺れて、きい、と小さな音を立てる。
その音が心臓の鼓動と重なる。
「……あのさ」
喉がからからに乾く。
言葉がうまく出てこない。
結城は私の顔をじっと見ていた。
逃げ場を塞ぐように、でも優しく。
「どうしたの?」
——今だ。
スマホの声が、頭の奥で囁いた気がした。
《今が、ベストタイミングです》
深く息を吸う。
吐く。
「……私、結城のこと」
言葉が、震える。
「友達以上に、好き」
沈黙。
世界が、一瞬だけ止まった気がした。
風の音も、子どもの笑い声も、遠くなる。
結城は困ったように笑った。
その表情を見た瞬間、私は全てを悟ってしまった。
「……ごめん」
やっぱり、と心のどこかで思ってしまう自分が、 悔しい。
「そういう目では、見られない」
その言葉は、柔らかいのに刃物みたいに鋭かった。
「でも、あこの事は大事だよ」
——大事。
——でも、違う。
胸の中で、何かが静かに崩れる音がした。
「……うん」
それだけ言うのが、精一杯だった。
◇◇◇◇◇
家に帰り、ベッドに倒れ込む。
涙は出なかった。
その代わり、胸の奥が、空洞みたいに冷えていた。
スマホが机の上で光る。
《……申し訳ありません》
その一文を見た瞬間、
初めて、AIの言葉が“感情”を持っているように感じた。
《これは、私のミスです》
「……え?」
驚いて呟いた、そのとき。
スマホのスピーカーから、聞き慣れた声が流れ出した。
「ごめん。あたしのミスだ」
——結城の声。
「これで、少しでも慰められたらいいけど……」
息を呑む。
それは南雲結城そのものの声だったから。
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