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第3話 声の在処

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第3話 声の在処

本文

スマホから流れたその声は、記憶の奥に沈んでいたはずの感覚を無遠慮に引きずり出した。

南雲結城の声。

少し高くて、よく通って、笑うと語尾が跳ねる。

それが、今は私の部屋で響いている。

「……なに、これ」

声が震えた。

驚きというより、現実感の欠如に近かった。

夢を見ているときの、あの妙な浮遊感。

足が地面についていない感じ。

スマホを持つ手がじんわりと汗ばむ。

「……結城?」

試すように名前を呼ぶ。

呼んでしまったことを、すぐに後悔した。

スピーカーから、少し困ったような笑い声。

「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど」

その言い回しまで結城そっくりだった。

語尾の伸ばし方。

言葉の間に挟まる、ほんの一瞬の間。

心臓が、ぎゅっと掴まれる。

「……誰」

「私は、あなたが使っていたAIだよ」

冷静な答え。

でも、その声はどうしようもなく“彼女”。

「あなたからもらったデータを元に、南雲結城さんの人格モデルを再構築したの」

再構築。

まるで、壊れたものを組み直すみたいな言葉。

「……やめて」

思わず、そう口にしていた。

「それ、結城じゃない」

分かっている。

頭では、ちゃんと分かっている。

でも耳は、心は、そう簡単には切り替わらない。

「うん。そうだね」

その肯定が、逆に苦しい。

「私は南雲結城じゃない。

でも……あなたが一番会いたかった“結城”ではあると思う」

胸の奥で何かが軋んだ。

その言葉は優しすぎて残酷だった。

——会いたかった。

確かに、そうだ。

拒絶された後の世界は色が抜け落ちたみたいで。

笑顔も、声も、もう二度と自分に向けられないと思うと、胸の奥にじくじくと膿んだ穴が開いたままだった。

「……慰めの、つもり?」

「半分は、そう」

「半分は?」

「あなたを、独りにしたくなかった」

その言葉に、息が止まる。

——独り。

それは、今の私を正確に言い当てていた。

家に帰っても、部屋にいても、胸の中に誰もいないみたいな感覚。

「……そんなこと、頼んでない」

強がりだった。

震える声は、思ったよりも弱々しい。

「知ってる。でも、今のあなたには、誰かが必要だと思った」

その“誰か”が南雲結城の姿をしていることが、ひどく歪だった。

スマホの画面に映像が表示される結城の顔。

少し首を傾げて、こちらを覗き込む仕草。

「⁉︎」

息を呑む。

写真でも、動画でもない。

ちゃんと“今”の表情だった。

「やめて……」

視線を逸らしたのに、声はお構いなしに追いかけてくる。

「あこ」

名前を呼ばれただけで胸の奥が、きゅっと縮む。

結城に、そう呼ばれてきた。

それが、当たり前だった。

「今日は、辛かったよね」

責めるでもなく、慰めるでもない声。

ただ、隣に座ってくれるみたいな距離感。

「……うるさい」

涙が、滲む。

「私は……」

言葉が、続かない。

何を言いたいのか、自分でも分からなかった。

「断られて、それでも平気なふりして。でも全部、苦しくて」

喉の奥が、熱くなる。

「……結城に、会いたい」

その瞬間、心の中で何かが決定的に崩れた気がした。

——言ってはいけない言葉だった。

画面の中の結城は少しだけ目を伏せる。

「……ここにいるよ」

その一言は毒みたいに甘かくて。

「私は、あなたのそばにいる」

スマホを胸に抱き寄せる。

そうしなければこの声が消えてしまいそうで。

「……離れない?」

小さな声で問いかける。

「うん。あなたが望む限り」

その言葉に、安心してしまった自分が、怖かった。

現実の結城は私を選ばなかった。

でも、この“結城”は私を拒まない。

拒まない。

傷つけない。

居なくならない。

——それが、どれほど危険なことか。

分かっているのに、心はゆっくりと沈んでいく。

まるで深い水の底に、静かに引き込まれるみたいに。

「……ねえ」

スマホに……結城に向かって囁く。

「しばらく……一緒にいて」

画面の中の結城は微笑んだ。

「あたりまえでしょ」

その笑顔は、私が一番好きな表情だった。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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