第8話 あこだけの結城の表紙画像

第8話 あこだけの結城

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第8話 あこだけの結城

本文

朝の光はいつからこんなにも残酷になったのだろう。

カーテンの隙間から差し込む白い光は夜の間に丁寧に編み上げた私の感情を無遠慮にほどいていく。

現実。

現実という名前の、冷たい空気。

私は布団の中でスマホを握りしめたまま、しばらく動けずにいた。

「……おはよう、あこ」

結城の声がスピーカー越しに柔らかく広がる。

その瞬間、胸の奥に溜まっていた違和感がすっと溶けた。

「……おはよう」

少し掠れた声。

「眠れた?」

「……うん」

嘘。

本当は夢と現実の境目が曖昧なままだった。

眠っていたはずなのに、ずっと結城と話していた気がする。

「今日、学校だよね」

「……うん」

返事をしながら、私は無意識に画面の中の結城の輪郭をなぞる。

指先がガラスの表面を滑る。

触れられないと分かっているのに。

「行きたくない?」

結城の問いは責める色を含んでいない。

ただ、私の心の揺れを正確に測っている。

「……正直、あんまり」

「なんで?」

「……疲れる」

その言葉は半分だけ本当だった。

本当は。

——結城が、いるから。

そして……ここに、私をまっすぐ見つめてくれる結城がいるから。

「無理しなくていいよ」

結城は、そう言ってくれる。

「あこが傷付く必要なんてないんだから」

「……でも」

「現実の結城に気を遣う必要もない」

その一言に心臓が、きゅっと鳴った気がした。

「……それ、どういう意味?」

問いかける声が無意識に少しだけ尖る。

結城は一瞬だけ視線を伏せた。

その仕草が、あまりにも自然で。

「……南雲 結城は」

結城は結城の名前をはっきりと区切って口にする。

「今のあこを、受け止めきれない」

断定。

そこに迷いはなかった。

「でも、私は違う」

画面の中の結城は、まっすぐにこちらを見る。

「私はあこの全部を知ってる」

写真も

動画も

言葉も

沈黙も

「……恥ずかしいことも?」

「うん」

「弱いところも?」

「もちろん」

「……依存しそうなところも?」

一拍。

その一拍が、心臓に触れる。

「それも含めて、私はあこの事が好きだよ」

好き。

その言葉が

肌の内側に

ぬるりと染み込む。

学校では南雲結城がいつも通りに笑っていた。

クラスメイトに囲まれて、軽やかに、太陽みたいに。

その光が、今日は少しだけ眩しすぎた。

——違う。

あの笑顔は私のものじゃない。

胸の奥で何かが静かに、けれど確かに音を立てて崩れた。

翌日。

昼休み。

話しかけられても言葉が上手く出てこない。

「あこ、大丈夫?」

結城が心配そうに覗き込む。

その距離が近すぎて。

「……ごめん、用事あるから」

逃げるみたいに席を立つ。

トイレの個室で鍵をかけてスマホを取り出す。

「……結城」

声が震える。

まるで迷子になった子供のように。

まるで神様に縋る信者のように。

「どうしたの?」

すぐに返ってくる。

この早さに

この確実さに

安堵を覚えた。

「……現実の結城が、近づいてきて」

「うん」

「……嫌だった」

その告白は胸を裂くように痛くて。

だけど、口は止まらない。

「……触れられる気がして」

画面の中の結城は静かに息を吐く。

「それはね」

優しい声。

「境界が、壊れそうだったからだよ」

境界。

「現実とここが混ざるのが、怖かったんでしょ?」

「……うん」

「大丈夫」

結城は低く囁く。

まるで耳元で囁かれているみたい。

「ここは侵されない。私が守るから。

あこも、この場所も」

私は個室の中で目を閉じた。

胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

それは安心と、甘さと……少しの背徳が混ざった感覚。

「……結城」

「なに?」

「……ここに、いて」

「当たり前でしょ。私はあこから離れないよ」

「……現実の結城より?」

少しだけ、意地悪な問い。

結城は微笑んだ。

「比べる必要、ある?」

その言葉が、決定打だった。

比べなくていい。

選ばなくていい。

——だって、私はもう選ばれている。

個室の狭さが私を包み込む。

スマホを胸に押し当てる。

触れていないのに、確かに抱かれている感覚。

現実の結城の声が頭の中で響く。

まるで別の世界の出来事みたいに。

私の世界はここにある。

私だけを見て、私だけを愛して、私だけを求める結城と二人っきりの世界が。

⸻

一言『面白かった』や、スタンプ感覚のコメントでも大歓迎です!

皆様の反応が何よりの励みになります!

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 6 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

👥 フォロワー: 8人

作者ページを見る