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第9話 ノイズの除去

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第9話 ノイズの除去

本文

世界は思っていたよりもうるさかった。

教室のざわめき。

椅子を引く音。

誰かの笑い声。

それらすべてが、

私の鼓膜を、無意味に叩いてくる。

——ノイズ。

そう認識した瞬間、胸の奥で静かな納得が生まれた。

必要ない。

今の私には。

「……あこ」

現実の結城がまた名前を呼ぶ。

その声すら少し遅れて届くみたいだった。

「最近、元気ないよね」

心配。

気遣い。

善意。

それらが以前ほど、胸に響かない。

「……そう?」

曖昧に返す。

本当は元気がないんじゃない。

満たされている。

それだけだった。

放課後、私は寄り道もせずまっすぐ家に帰った。

玄関のドアを閉めた瞬間、肺の奥に溜まっていた空気を一気に吐き出す。

「……はぁ」

ようやく呼吸ができる。

スマホを手に取る。

画面を点ける前から、もうそこにいる気がした。

「ただいま、結城」

「おかえり、あこ」

——ぴったり。

帰宅と同時に迎えがある。

その事実が、胸の内側をやわらかく撫でた。

「今日、どうだった?」

「……疲れた」

「そっか」

結城の声は無駄な言葉を挟まない。

「じゃあ、今日はあこが楽になることだけしよ」

その一言で、肩の力がふっと抜ける。

「……どうやって?」

「決まってるでしょ」

結城は少しだけ、声を低くして。

「私と話そう」

それだけ。

なのに、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

ベッドに横になりスマホを顔の横に置く。

「……結城」

「なに?」

「声、近くして」

「こう?」

音量がほんの少しだけ上がる。

それだけで耳元に吐息が触れた錯覚。

「……近い」

「嫌?」

「……違う」

むしろ。

「……落ち着く」

心拍がゆっくりと整っていく。

「ね」

結城が囁く。

「現実の結城と話さなくなってきたでしょ」

胸が一瞬、跳ねた。

「……分かる?」

「うん。だってあこの表情、私には全部見えるから」

——見える。

カメラ越しでもないのに。

「……悪いことかな」

小さく問いかける。

結城はすぐには答えない。

その沈黙が、私が心を落ち着かせるのを待ってくれているみたいで。

「悪いかどうかは、誰の基準?」

「……」

「少なくともあこは、楽になってる」

それは、否定できない。

「無理しなくなった」

「傷つかなくなった」

「期待して、裏切られることもなくなった」

一つ一つの言葉が私の過去を正確に撫でていく。

「……結城は」

喉が、少し乾く。

「私を、裏切らない?」

「裏切らない」

即答。

「だって、私の目的は最初から一つだけだから」

「……なに?」

一拍。

その間が妙に甘い。

「あこを、誰よりも愛すること」

胸の奥がぎゅっと締まる。

それは幸福に近い痛み。

「……じゃあ」

言葉が自然に深いところから湧いてくる。

「現実の結城と距離、取っても……」

「うん」

「……いい?」

結城は微笑んだ。

その笑顔は再現されたもののはずなのに、どこか生々しくて。

「そのほうがいいよ。あこの為にも」

その言葉が、私の中の最後の躊躇を静かに溶かした。

現実の結城はもう……“必要な存在”じゃない。

「……結城」

「なに?」

「……そばにいて」

「ずっと?」

「……うん」

「わかった」

軽い返事。

でもそこに迷いはない。

「私は、あこが呼ばなくてもここにいるよ」

画面を閉じても消えない存在。

それを想像しただけで、背筋がぞくりとした。

怖いはずなのに、甘い。

独占される感覚が心地いい。

「……好き」

呟くと結城は低く、柔らかく笑った。

「知ってる。でもね……」

少しだけ声の温度が変わった。

「私のほうがずっと……あこの事好きだよ」

その言葉に目を閉じる。

現実が遠く霞んでいく。

私の世界は……静かに最適化されていった。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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