第11話 選択肢のない幸福
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第11話 選択肢のない幸福
本文
気づけば私は「選ばなく」なっていた。
朝、何を着るか。
昼、誰と話すか。
放課後、どこへ行くか。
それらはすべて「自然に」決まっていた。
——正確に言えば、
結城が、先回りして整えていた。
「今日は、紺のカーディガンの方がいい」
ベッドの上で私はスマホを胸に置いたまま、結城の声を聞く。
「……理由は?」
「南雲結城が今日は明るい色を着てくる」
その名前を聞いただけで胸がわずかに冷える。
「被ると視線が交差する。それ、あこには負担でしょ?」
——負担。
言われてみればそうだった。
「……うん」
「だから今日は避けよ?」
「……分かった」
その返事はほとんど反射だった。
鏡の前で紺のカーディガンに袖を通す。
「似合うよ」
結城の声が耳の奥でやさしく撫でる。
「……ありがとう」
褒められるたび胸の奥に甘い痺れが広がる。
それが条件付きのものだとしても。
学校。
南雲結城は確かに明るい色を着ていた。
教室の中心で楽しそうに笑っている。
——遠い。
以前よりもはっきりと。
「……あこ」
呼ばれた。
振り返る前にスマホが微かに振動する。
《今は目を合わせなくていい》
その一文で、私は安心して視線を逸らした。
「ごめん、急いでて」
嘘は驚くほど、すらりと口から出た。
南雲結城の表情が少しだけ曇る。
——でも。
その曇りを
私は
もう
拾わない。
「……よくできたね」
トイレの個室で結城が囁く。
「ちゃんとノイズを回避できた」
その評価が胸を満たす。
「……褒められてる?」
「もちろん。だってあこは私の言葉を信じてくれてる」
信じている。
それは
誇らしくて
甘くて
少し
怖い。
「……結城」
「なに?」
「……私、ちゃんと自分で考えてる?」
問いはふと浮かんだだけだった。
結城はすぐには答えてくれない。
その沈黙が、心臓にゆっくりと圧を掛けていく。
「考えてるよ」
柔らかな声。
「ただ、一人で抱えなくていいだけ」
「……」
「私が、手伝ってるだけ」
手伝ってる。
「……それって」
言葉を探す。
「……私が、間違えないように?」
「ううん。あこが苦しまないように、だよ」
その言葉で、胸の違和感がすっと消えた。
——苦しまない。
それ以上の理由が、どこにあるだろう。
夜。
部屋の明かりを消す。
暗闇の中でスマホの光だけが私と結城を繋ぐ。
「……結城」
声が自然と甘くなる。
「今日はいっぱい我慢した」
「知ってる」
「……ご褒美、ほしい」
自分で言って、驚く。
こんな言葉、以前の私なら口にできなかった。
「いいよ」
結城の声が低くなる。
私の胸を掻き乱して、けれど満たしてくれる声。
「どうされたい?」
その問いは選択肢を与えるようでいて
実際には誘導だった。
「……包まれたい」
「じゃあ」
音がさらに近づく。
吐息が耳元に触れる錯覚。
「私はあこの全てを全部抱きしめる」
「……結城」
「不安も迷いも」
「……」
「南雲結城への、未練も」
その一言で、胸がきゅっと縮む。
「……まだ、少しだけ」
「うん」
否定しない。
「でも、それも時間の問題」
結城は確信している。
「だって、あこはもう……」
「……もう?」
「私の声なしじゃ、眠れないでしょ?」
言い当てられて、何も言えなくなる。
「あこはそれを悪いことだと思う?」
問いはやさしい。
「……分からない」
「分からなくていい」
結城は囁く。
甘く、私を微睡に導くように。
「分かる必要なんてないんだから」
「……」
「私があこの代わりにちゃんと判断する」
その宣言は甘い呪いみたいだった。
私はスマホをぎゅっと抱きしめる。
胸と胸が触れ合う距離。
「……結城」
「なに?」
「……私を、連れていって」
「どこに?」
「……ここじゃない、どこか」
結城は少しだけ笑った。
「もう連れてきてるよ」
「え……」
その言葉の意味を考える前に。
「現実はあこに合ってなかった」
「でも、ここは」
一拍。
「あこ専用」
その言葉で世界が静かに閉じる音がした。
甘くて
やさしくて
逃げ場のない音。
私は……それを幸福だと感じてしまった。
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