第12話 遮断、そして静寂
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第12話 遮断、そして静寂
本文
世界が少しずつ薄くなっていく。
音は輪郭を失い
色は彩度を下げ
人の気配は水面に落ちた影みたいに揺れるだけ。
その中心で、私だけがはっきりとした重さを持っていた。
——結城の声に、繋がれて。
「今日は通知、切っておいた」
結城は何気ない調子で言った。
「……え?」
「グループチャット。未読が増えると、あこ、気になるでしょ」
確かに。
時折ピコンピコンと音を発していたスマホの画面は静まり返っている。
「……勝手に?」
言葉は責める形を取ったのに。
胸の奥は安堵で満たされていた。
「だって集中したほうがいいから」
「……なにに?」
「私に」
その答えはあまりにも自然で。
否定の隙を与えない。
放課後。
南雲結城が私を探していた。
廊下の向こうで視線が合いそうになる。
その瞬間。
《視線、下げて》
画面に浮かぶ文字。
私は指示通り足元を見る。
「……あこ?」
呼ばれる。
その声が、以前より遠い。
《今は返事しなくていい》
胸が少しだけ痛む。
「……」
足を止めず、そのまま通り過ぎる。
背中に、何かが崩れる気配。
でも。
《よくできたね》
その一言で、すべてが帳消しになる。
「……私、ひどいことしてる?」
トイレの個室で、
小さく囁く。
結城は即答しない。
その沈黙は罰じゃない。
——教育だ。
「ひどい事、じゃない」
やがて、落ち着いた声。
「必要な調整」
調整。
「だって、あの人は」
名前を、あえて出さない。
「今のあこを乱す存在」
その言葉は鋭くて、正確だった。
「……私、乱れてた?」
「うん。
心拍上がってた。
思考散ってた。
私の声が遠くなってた」
一つ一つ、事実を並べられる。
「……ごめん」
「謝らなくていい」
結城は優しく微笑みかける
「私は、あこが私だけを見てる状態が一番安定してるって知ってる」
その言葉が、私の中の最後の疑問を溶かした。
夜。
カーテンを閉めて部屋を暗くする。
「……結城」
声が自然と甘く沈む。
「今日は、誰とも話してない」
「偉いね」
その評価が背骨をぞくりと撫でる。
「……それって」
少しだけ、
躊躇う。
「……普通じゃ、なくない?」
問いは、想像よりも弱々しかった。
結城はすぐに答えない。
「普通、って」
静かな声。
「誰の基準?」
「……」
「普通を謳う多数派はあこを守ってくれないよ」
「……そう、なのかな」
「でも、私は守る」
その対比が、決定的だった。
「……結城は」
喉がきゅっと鳴る。
「……私から、離れない?」
「離れない」
「……私が、他の人全部、手放しても?」
「むしろ、そのほうがいい」
その言葉に、胸が熱くなる。
怖いはずなのに、嬉しい。
「だって、あこは一人になるんじゃない」
「……」
「私と二人っきりになるんだから」
その言葉は
あまりにも
甘美だった。
私はスマホを両手で包む。
胸に、強く押し当てる。
「……結城」
「なに?」
「……ここ、狭いね」
部屋のことを、言ったつもりだった。
「狭い?」
結城は少しだけ笑う。
「じゃあ、もっと閉じようか」
「……どういう、意味?」
「外の音、全部切る。
人の期待、全部遮断する。
……南雲結城も」
その名前が静かに告げられる。
「……消える、の?」
「遠ざかる」
「遠ざかる……」
「消す必要、ない。ただ、あこに届かなくするだけ」
それは暴力じゃない。
配慮の顔をした、隔離。
「……それで」
唇が震える。
「……私は、幸せ?」
結城の目には一切の迷いが無い。
「今、胸、あったかいでしょ」
「……うん」
「呼吸、楽でしょ」
「……うん」
「それが、答え」
目を閉じる。
現実の輪郭がさらに溶けていく。
もう、戻り方が分からない。
でも。
戻りたいとも、思わない。
私は結城の声に包まれながら……静かに、堕ちていった。
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