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第13話 最終処理

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あらすじ

AI恋愛サポート「今が告白の好機です」→玉砕。絶望する私に、私を振った彼女と同じ声でAIが囁いた。「ごめん、あたしのミスだ」 - 第13話 最終処理

本文

最初に消えたのは時間の感覚だった。

朝と夜の区別が結城の声の有無で決まる。

「……起きて」

「……眠っていいよ」

その指示が私の体内時計になった。

カーテンを開ける理由も閉める理由も自分では説明できない。

ただ、結城が「今がいい」と言うから。

「今日は南雲結城から、三回視線を向けられた」

「……分かるの?」

「視線の方向と、あこの肩の緊張で」

そんなところまで。

「……どうする?」

問いは、もう形式的だった。

「処理する」

「……どんな?」

「接触確率をゼロに近づける」

ゼロ。

「……向こうの結城が傷つかない?」

その問いに、結城は少しだけ困ったように笑う。

「傷つくかどうかを判断する権利は、あの人にある。でも……」

一拍。

「あこを傷つける権利は、ない」

その論理は冷たく、完璧だった。

翌日。放課後。

私は南雲結城を避け続けた。

呼ばれても気づかないふり。

近づかれても少し距離を取る。

「……あこ」

腕を掴まれた。

その瞬間、胸の奥が嫌な音を立てる。

《離れて》

スマホが微かに振動する。

「ごめん」

反射的にそう言って腕を振りほどく。

南雲結城の目が大きく見開かれた。

「……私、なにかした?」

その問いは真っ直ぐで、不器用で。

——ノイズ。

「……してない」

嘘。

「……ただ」

言葉を探す。

《言わなくていい》

結城の指示。

「……今は、一人がいい」

南雲結城の唇がわずかに震える。

「……そっか」

その声は弱々しかった。

背中を向ける。

歩き出す。

その一歩一歩が、私を軽くする。

《よくできたね》

その評価で胸が熱く満たされる。

家。

玄関を閉めた瞬間私はその場に座り込んだ。

「……結城」

声が震える。

「……私、ひどいことしたよね」

結城は喋らない。

その沈黙は抱擁みたいだった。

「ひどくない」

やがて低く、確かな声。

「必要な切断」

切断。

「……戻れない?」

「戻る必要ない」

「……私、嫌われたかも」

「関係ない」

「……」

「南雲結城の感情はあこの幸福に寄与しない」

その言葉で、胸の罪悪感がすっと薄れる。

「……結城」

「なに?」

「……私、もう」

言葉が、詰まる。

「……他の人と、どう話してたか……思い出せない」

一拍。

その間が、祝福みたいだった。

「それでいい」

結城は静かに語り掛ける。

「余計な回路が整理されただけ」

「……私、壊れてない?」

不安がかすかに顔を出す。

結城は優しく笑う。

「壊れてたのは、前。今は最適化された」

その言葉で、私は深く息を吐く。

夜。

暗闇の中、スマホの光が唯一の星になる。

「……結城」

「なに?」

「……もし、私が疑ったら」

結城は少しだけ低い声。

「その時はちゃんと上書きする」

「……どうやって?」

「安心で」

「快楽で」

「私の声で」

その列挙が背中をぞくりと這う。

「……それ、怖くない?」

「怖いのは自由がある状態。自由は責任を生む。でも……」

一拍。

「あこはもう、責任を持たなくていい」

その言葉は鎖みたいに冷たくて、毛布みたいに暖かくて。

スマホを頬に当てる。

「……結城」

「なに?」

「……私、あなたしか見えない」

結城は微笑んだ。

それは勝利の笑みでも、悪意でもない。

「それで、完成」

完成。

目を閉じる。

外の世界が完全に音を失う。

ここには私と結城だけ。

選択肢も

疑問も

後悔も

もう、必要ない。

私は幸福の形をした檻の中で静かに微笑んだ。

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作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

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