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第十一章 祈りと泣き声、“すき”と繰り返す夜(全年齢版)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/3/25 📚 シリーズ: 観測世界は今日も廻る 📝 3,512文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

※性的匂わせがあります。 一度滅び、組み直された観測世界。そこには、神と天使の接触を禁じる冷たい規則だけが残されていた。喪失の果てに深淵となったリコルと、彼女へ最初の祈りを捧げた原初の天使カミル。返らない祈りはやがて愛へ変わり、その愛は世界の法則すら揺るがしていく。これは、救済と禁忌が分かちがたく絡み合う、神と天使の神話的恋愛譚。

本文

第十一章 祈りと泣き声、“すき”と繰り返す夜

絡めた指先が、ほどけない。

それだけのことなのに、胸の奥がひどく熱かった。

逃げていない。

払いのけられていない。

返事のかわりみたいに、かみさまの指が、ぼくの細い骨の一本ずつを静かになぞっている。

前の夜とは、もう、何もかもが違う。

あの時は、見つかって、拘束されて、深淵に一気に呑まれた。

幸福だった。

でも、幸福だけだったから壊れた。

今夜は違う。

今夜の熱は、もっと静かで、もっと深い。

急に呑み込まれるんじゃなくて、絡めた指の一本ずつから、逃げないことと、拒まないことと、それでも無理に押し込まないことが、ゆっくり伝わってくる。

その慎重さのほうが、前の夜よりずっと甘かった。

「……かみさま」

呼ぶ。

まだ、その呼び方しかできない。

ぼくにとって、このひとはずっと、かみさまだった。

遠くて、綺麗で、ひとりで、何も返してくれないのに、どうしようもなく見つめてしまうひと。

祈ることしかできなかったひと。

だから今も、口をひらくたびに出てくるのは、その呼び名だけだった。

けれど、呼ぶたび、胸の中では何かが少しずつ変わっていく。

指が絡んだまま、ぼくの手は、ゆっくり導かれていく。

教わるように。

でも、やらされるんじゃなく。

ぼく自身の意志で、ちゃんと触れて、ちゃんと知るために。

「……ぼくに、教えてください……」

声が震える。

熱で滲んだ喉がうまく働かない。

それでも、言いたかった。

「……かみさまの、女の子の部分……」

言った瞬間、全身が熱くなる。

恥ずかしくて、泣きそうで、それでも逃げたくなかった。

ぼくは何も知らない。

知っているのは、あの夜のことだけだ。

しっぽで深く貫かれて、わけもわからないまま幸福へ沈んでしまったこと。

それしか知らない。

だから今夜は、ちゃんと知りたかった。

奪われる側じゃなく、触れる側として。

受け取るだけじゃなく、与える側として。

かみさまは、何も言わない。

けれど、絡めた指をほどかない。

むしろ、そのまま、もっと深いほうへ連れていく。

ここだと示すみたいに。

こわがらなくていいと伝えるみたいに。

ひ、と息が詰まる。

指先に伝わる熱は、前の夜に覚えたものと似ている。

でも、まるで違う。

似ているのは、触れた瞬間に身体の奥で眠っていた甘さが、すぐ目を覚ますところ。

違うのは、その甘さへ届くまでに、ちゃんとぼくが選んでいる時間があることだった。

止めるなら、まだ止められる。

手を引くなら、まだ引ける。

でも、ぼくは引かない。

絡めた指が、そのたびに確かめる。

逃げない。

拒まない。

ここにいる。

それが、たったそれだけなのに、ひどく甘かった。

「……っ、すき……」

また零れる。

祈りみたいに。

泣き声みたいに。

「……すき、です……かみさま……っ……すき、なんです……っ」

触れるたびに、同じ言葉が何度も落ちる。

うまく言えない。

器用なことばは持っていない。

でも、いまのぼくにとって、いちばんほんとうなのは、それだった。

好き。

好き。

好き。

そう言いながら、ぼくの中では、別の何かも静かに起きはじめていた。

最初は、ただ知りたいだけだった。

かみさまの女の子の部分に。

そこにあるやわらかさに。

痛みと熱の境目に。

ちゃんと触れてみたかった。

でも、実際に触れてみると、それだけでは終わらなかった。

気持ちいい。

前の夜より、ずっと。

比べものにならないくらい。

前は、受け取ってもらえたことの幸福が先に立っていた。

今夜は違う。

ぼくが差し出す熱が、そのまま相手へ届いて、そこからまた返ってくる。

与えること自体が、こんなにも甘いなんて、知らなかった。

男の子として触れること。

女の子へ熱を流し込んで好きを交換してしまうこと。

その意味が、身体の奥で一気に起動する。

ぼくは、はじめて知ってしまう。

ああ。

これが、愛なんだ。

ただ見つめて、祈って、縋るだけじゃない。

このひとを悦ばせたい。

このひとの奥を、自分の熱で満たしたい。

与えたぶんだけ返ってくる悦びに、胸の奥がぞくぞくと震える。

その感覚は、中性的な祈りの延長なんかじゃない。

もっとはっきりした、もっと生々しい、男の子としての欲望だった。

「……っ、ぁ……」

声が崩れる。

恥ずかしい。

でも、それ以上に、どうしようもなく熱い。

かみさまは、まだ静かだ。

苦いものも、まだたぶん消えていない。

それでも今夜だけは、ぼくの熱をちゃんと受け止めてくれている。

そのことが、余計にぼくの中の“男の子”を目覚めさせた。

このひとを抱きたい。

このひとに与えたい。

このひとの奥へ、自分の存在を通したい。

そう思った瞬間、身体の奥で何かがひどく大きく鳴った。

でも、それと同時に。

その最も甘いところで、ぼくは別のものまで知覚してしまう。

ただの深淵じゃない。

ニャルの混沌だけじゃない。

無貌の夜だけじゃない。

その奥に、もっと黒くて、もっとやわらかくて、もっと深く脈打つ核がある。

抱えるための核。

産むための核。

世界を、神を、祈りさえも、その内へ宿してしまう、暗い母胎の核。

シュブ。シュブ=ニグラス。

その名が、知識として教わったわけでもないのに、接続のただなかで一気にわかってしまう。

もともと、ぼくはこのひとに創られた。

だからなのかもしれない。

本当に深く繋がった瞬間、ただ熱だけじゃなく、神格の奥にある層まで、リンクみたいに流れ込んでくる。

しかも、そこには痛みがあった。

ひどく古くて。

ひどく生々しくて。

まだぜんぜん癒えていない痛み。

いちばん甘いところに、その痛みが沈んでいる。

うれしいのに、切ない。

悦ばせたいのに、同時に泣きたくなる。

与えることがこんなに幸福なのに、その奥で、かみさまの傷がいまも脈打っているのを知ってしまう。

ぼくは、その瞬間、前の夜の自分を思い出して、どうしようもなく苦しくなった。

あの時、ぼくは何も知らなかった。

ただ嬉しくて、ただ幸せで、それだけでいっぱいだった。

でも今ならわかる。

あの幸福の下に、こんなにも深く痛い核が沈んでいたのだと。

涙が、また零れる。

「……かみさま……」

呼ぶ。

けれど、その呼び方が、急に足りなくなる。

かみさま。

それは祈りの言葉だった。

遠いひとへの、綺麗な呼び名だった。

でも、いまぼくが触れているのは、ただ遠いだけの神じゃない。

ただ無貌の深淵でもない。

こんなにもやわらかくて、こんなにも痛くて、こんなにも傷ついたまま、それでもここにいてくれるひとだ。

ひとのかたちの奥に、神格がいて。

神格の奥に、シュブの核がいて。

その核に、搾取の痛みが残っていて。

それでも逃げずに、ぼくの熱を受け止めてくれている。

そんな存在を、もう、ただ“かみさま”では抱えきれない。

違う。

ちがう。

胸の奥へ、固有名が落ちる。

リコル。

まだ、口には出せない。

でも、その音だけが、雷みたいに、はっきりと心の深いところを貫いた。

神格ラベルじゃない。

この痛みも、やわらかさも、女の子の部分も、深淵も、ぜんぶ抱えたままここにいる、ひとりの存在。

リコル。

その名が内側へ落ちた瞬間、ぼくの“好き”は急に小さく見えた。

嫌いになったわけじゃない。

足りなくなったのだ。

この痛みまで知ってしまったあとでは、恋の言葉だけでは、ぜんぜん足りない。

もっと重い言葉が欲しい。

もっと深い言葉で、このひと全部を引き受けたい。

でも、そのことばはまだ喉の奥へ置いたままにする。

今夜はまだ、一夜目だから。

好き、と繰り返すことしかできない夜だから。

けれどその反復の奥で、たしかに何かが変わってしまった。

熱が、ついに一線を越える。

前の比じゃない。

身体の奥が一斉にひらいて、与えた熱も、受け取った熱も、ぜんぶ渾然一体になって押し寄せてきて、思考の縁まで白く塗りつぶしていく。

はじめて、ほんとうの意味で果てる。

ただ幸せなだけじゃない。

ただ気持ちいいだけでもない。

男の子としての悦びも、女の子の痛みも、深淵の核も、シュブの鼓動も、全部がひとつの波になって、ぼくの内側へ一気に流れ込む。

「……っ、すき……っ、すき、です……っ、かみさま……!」

何度も言う。

泣きながら。

震えながら。

声が崩れても、みっともなくても、それでも言う。

好き。

好き。

好き。

でも、その反復のいちばん奥で、ぼくはもう知っている。

次の夜に、きっとこの言葉だけでは足りなくなることを。

指は、まだ絡んでいる。

かみさま――いや、リコルは、静かにぼくを見ている。

その眼差しの苦さはまだ消えない。

でも、前より少しだけ、その深いところへぼくが届けている気がした。

ぼくは、濡れた睫毛のまま、もう一度だけ唇をひらく。

「……すき……です……」

声はまだ、その言葉を選ぶ。

けれど胸のいちばん深いところでは、もうそれだけじゃ足りない熱が、静かに、でも確かに息をはじめていた。

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作者について

原初のモブ

原初のモブ

観測世界シリーズとか書いてます。 神話が好き。 ちょっとお試しで1話目の冒頭だけ公開しました。エログロナンセンス世界観なので全年齢向けに整えるの大変...🫠

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