第1章‐3 黒霧の森が呼ぶ声
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
弟を追って禁域〈黒霧の森〉へ踏み込んだ少女ミレイは、怪異に襲われ死の淵へ追い詰められる。 彼女を救ったのは――“深淵の影”を纏う人外のハンター、レイ。 霧は彼を避け、怪異は跪き、霊子は逆流する。 その背中は、人ではなく深淵そのもの。 それでも少女は、その背中を追う。弟を救うために。 和風スチームパンク × 霊子 × 怪異。 孤独な少女と人外のハンターが歩む、深淵の物語。
本文
黒霧の森は、灯京の外れに広がる巨大な闇だった。
昼間でさえ薄暗く、霊子の粒子が漂い、木々の影が不自然に揺れている。
森の入口に立ったミレイ・サクライは、胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われた。
霧の匂いは冷たく、湿っていて、どこか鉄のような味がした。
それは、魑魅魍魎の霊子核が発する微かな金属臭だった。
(レン……どこにいるの……?)
ミレイは震える手で弟の草履を握りしめた。
その小さな履物は、まだ温もりが残っているように感じられた。
腰の袋には、ギルドへ行く前に慌てて買い足した 第一式の霊子符が数枚だけ入っている。
本当はもっと欲しかった。
だが、手持ちの銀貨30枚では、符を大量に買う余裕などなかった。
(これだけじゃ……足りないかもしれない……でも……)
「絶対に……絶対に助けるから」
自分に言い聞かせるように呟き、ミレイは森の中へ踏み込んだ。
◆
森の中は、外から見た以上に異様だった。
霊子の粒子が空気中に漂い、青白い燐光が揺れ、木々の影はまるで生き物のように伸び縮みしている。
ミレイは霊子符を取り出し、弟の霊子反応を探った。
符の表面に刻まれた術式が淡く光り、霧の中に細い光の筋を描く。
(……こっち……?)
光は森の奥へと伸びていた。
ミレイは息を呑み、足を進めた。
しかし、森の奥へ進むほど、霧は濃くなり、空気は重くなっていく。
まるで、見えない巨大な心臓が地下で鼓動しているかのように、地面が微かに震えていた。
ミレイは不安を押し殺しながら歩き続けた
◆
一方その頃――
森のさらに奥で、レイは静かに歩いていた
肩に乗る影リス――クロハが尻尾を揺らしながら呟く。
「……嫌な気配だな。深淵の皇の影が、また何か企んでやがる」
レイは答えない。
ただ、霧の奥を見つめる。
胸の奥で霊子紋が疼く。
それは痛みではなく、呼び声のようなものだった。
(……呼んでいる)
深淵の皇の影――
自分を“欠片”と呼ぶ存在。
レイは外套を翻し、さらに奥へ進んだ。