第15話 向き合う
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第15話 向き合う
本文
王都の掲示板、新聞、各球団への同時通達。
文章は簡潔に。
「私は、魔族・ハーフの参加を理由に何かを変えるつもりはありません。
ただし、彼らが”野球をする権利”を奪う行為は、私の権限で止めます。評価はグラウンドの中だけで行います。それ以上でも、それ以下でもありません」
署名。GM イオリ・ユキタニ
さて、どうなるか……
向かったのは王都でもなく、コナでもなく。
スファード。
人間と距離を置きたい者たちの町。魔族とハーフが最も多く流れ着く場所。
護衛はいない。
ナオだけが少し後ろを歩く。
古い倉庫。簡易的な練習場。
そこにいたのは、五人。
角の形も、肌の色も、ばらばらな魔族やハーフたち。
「……本当に、来た」
誰かが呟いた。
「選手の皆様と野球リーグを守るのが私の使命です。だから、来ました。野球をしてくれると聞いて」
沈黙。
やがて、一人が口を開いた。
「……勝ったら、憎まれる。負けたら、お前のせいだと言われる。それでも、やれと?」
「……正直に言えば、やってほしいです。続けてほしいです。
でも無理はしないでください」
彼らが困惑する。
「逃げてもいい。辞めてもいい。それでも、参加した事実は消えません。
それは、前に進んだ証です」
次に前に出てきたのは、ハーフの青年。
「……聞きたい。GMは、俺たちを”象徴”にしたいのか?」
「いいえ。私は、選択肢を増やしたいだけです。象徴になるかどうかは、あなたが決めてください。
野球選手になりたいという意志があれば、それで十分です」
青年は目を伏せた。
「……怖い。でも。やってみたい」
帰り道。
ナオが腕を組みながら言う。
「優しいね」
「離して。……そう?」
「うん。アタシだったらもっと煽るもん」
「やめなよ」
「イオリちゃんは?」
「……」
少し考えて。
「私は、逃げ場を残したい。戦う人にも、戦わない人にも」
ナオは少しだけ真顔になった。
「……それ、一番、難しいやつだよ」
王宮に戻ると。
エステル様は話を聞いて――
「うむ!」
と、頷いた。
「正しいのじゃ! ……怖くなかったか?」
「はい。エステル様付いていますから」
胸を張って、ふんすふんす。
「当然じゃ! 妾は凄いのじゃ!」
うーん、可愛い。
数日後。
机の上に、新しい封筒が増えた。
魔族。ハーフ。
数は多くない。
けれど。
ゼロではない。
私は一通一通、丁寧に目を通した。
私は力もバットも振るわない。
ただ。
前に出て、逃げずに、線を引いた。
それだけ。
それでも……世界は少しだけ――動いた。
――観客席にて
帽子を深く被り、外套の襟を立てる。
ここでは私はGMでも騎士でもない。
ただの観客。
隣に座るのは見知らぬ家族。
前列には獣人の若者たち。
少し離れた所にエルフの夫婦。
誰も私に気づいていない。
それでいい。
歓声が上がる。
――打球が、スタンド方向へ飛んだ時。
「おおお!」
「行ったか!?」
外野フライ。
捕られた瞬間、ため息。
「あー……」
誰かが言う。
「簡単にゃ入ねーな」
別の声。
「でも、飛んだだけマシだろ」
笑い。
打つことが、分かりやすい。
分かりやすいものが、まず評価される。
次の回。
内野で、二つの送球が繋がった。
ダブルプレー。
一瞬、静寂。
そして。
「……今の、上手くね?」
小さな声。
「送球速かったな」
「セカンドの奴、やるなー」
拍手は、まだまばら。
でも、罵声はない。
それだけで、胸の奥が少し緩む。
魔族の選手が守備位置に就く。
ざわり。
でも、誰かが言った。
「……あいつ、この前も落とさなかったよな」
「他の奴は何回か落とすのにな」
「派手じゃねぇけど」
肯定でも、称賛でもない。
ただの、事実確認。
それが嬉しい。
打席にハーフの選手。
前の試合で話題になったマクセルダ選手。
今日はスタメン。
「……今日は、どうだ?」
「見てから、言おうぜ」
最初から否定しない。
それだけで、空気が違う。
後ろの席。
獣人の男性が、お酒を飲みながら。
「俺の弟が同じチームなんだけどよ。『あいつ、真面目だぞ』って。
だから、ハーフってだけで否定するな、だとよ」
隣の人間が、肩をすくめる。
「まぁ……勝てば、いい」
帰り道
試合が終わって。
席を立つ。
振り返って、もう一度観客席を見る。
誰も革命的なことは言っていない。
誰も叫んでいない。
その事実が、確かにあった。
空気は一夜では変わらない。
けれど。
怒りが、観察に変わる。
拒絶が、保留に変わる。
それは。
変化の、始まりだった。
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