第16話 勝つは薬
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第16話 勝つは薬
本文
――勝利は言葉を丸くする
勝つチームは空気が柔らかい。
それは、思っていた以上にはっきりしていた。
⸻
王都――ヴァルドハイム・レガリア
王都のスタジアム。
初戦の敗戦で荒れていた観客席は、今は落ち着いている。
理由は単純だった。
勝っている。
連勝。
点が入るたびに、歓声が上がる。
「よし!」
「この調子だ!」
魔族の中継ぎがマウンドに上がった時も、ブーイングは起きなかった。
ざわめきは、ある。
でもそれは警戒に近い。
そして。
三者凡退。
「……悪くねぇな」
誰かが、そう言った。
別の声が続く。
「点差あるしな」
「今は、抑えてくれりゃいい」
評価基準が勝敗に吸い寄せられている。
私は静かに息を吐いた。
(……人は、勝ちに甘い)
それは、悪い事ばかりじゃない。
⸻
コナ――ラピッドファング
獣人の町、コナ。
ここはもっと分かりやすい。
勝っている時は、陽気。
負けている時は、不機嫌。
決定打を打ったのが、誰であろうと。
「うおおお!」
「やったぞ!」
その瞬間だけは、同じだった。
ハーフのマクセルダ選手がタイムリーを放つ。
一瞬の、間。
そして。
「……よし!」
誰かが叫ぶ。
「今のは文句ねぇ!」
獣人の若者が、拳を振り上げる。
「勝ちに来てるんだろ!」
それで、終わりだ。
この町では、勝利が正義だった。
⸻
ルメルーナ・ブリッジズ
ルメルーナは、少し違う。
前線だった街。
魔族への感情が、複雑な場所。
でも。
エース、バルト選手が投げる日は。
空気が、締まる。
「今日は、あいつか」
「……頼むぞ」
好投。
七回無失点。
三振を取るたびに、拍手が増える。
八回。
誰かが言う。
「……魔族だろうが、関係ねぇな」
別の声。
「勝たせてくれるならな」
その言葉は、冷たい。
それでも、否定ではない。
受容の、入口だった。
⸻
負けているチーム
一方。
負けが込んでいるチームでは、空気が荒れる。
エラーが出る。
「何やってんだ!」
それが、魔族やハーフなら。
「だから言ったんだ!」
声が、尖る。
でも。
同じ試合で、決勝打を放てば。
「……今のは、良かった」
不満は消えない。
だけど認める。
それが、現実だった。
⸻
私はいくつものスタジアムを回った。
顔を隠し。
ただ、聞いた。
人は、思想より先に結果を見る。
綺麗事より、勝敗を見る。
でも。
勝てば。
言葉は、丸くなる。
視線は柔らぐ。
「魔族だから」
「ハーフだから」
それは、負けている時ほど、使われる言葉だった。
逆に勝っている時は。
「うちの選手」
その一言で、括られる。
⸻
王都に戻る途中。
子供の声が聞こえた。
「なぁ、あの人さ」
「前、サヨナラ打った人だろ?」
「すげぇよな」
私は足を止める。
それは擁護でも、思想でもない。
ただの、憧れ。
私は、微笑みそうになるのを必死に堪えた。
⸻
勝利は万能じゃない。
差別を消しはしない。
でも。
続ければ、確実に薄めていく。
それを、私は確かに見た。
⸻
シーズンは確実に進んでいた。
表では、勝敗が語られ。
裏では、圧力が消えきらない。
魔族やハーフの選手への嫌がらせは、形を変えて続いている。
直接的な暴力は減ったけど、視線や噂、陰口は残ったままだ。
それでも、試合は続く。
そして。
⸻
オールスター戦の発表
王都から正式な告知が出された。
今季中盤、リーグ初となるオールスター戦を開催する。
概要は、簡潔。
• 各球団からの推薦
• ファン投票
• そして、選手間投票
三つを合わせて、出場選手を決める。
“祝祭”であり、同時に“評価の場”。
誰が、選ばれるのか。
誰が、選ばれないのか。
それだけで、街はざわついた。
⸻
酒場。
男の人が札を前に唸っている。
「……バルトか」
「成績は、文句ねぇ」
「でもなぁ……」
別の街角。
「ラピッドファングの、あのハーフ」
「マクセルダだっけか? あいつ、飛ばすよな」
「うちのチームだったらなぁ……」
票を入れる手が、止まる。
勝っている事実と、拭えない感情。
多くのファンは結局。
自分のチームの選手に票を入れた。
⸻
結果は、はっきりしていた。
バルト選手への票は、ほとんどがルメルーナ。
マクセルダ選手への票は、ほとんどがラピッドファング。
他球団ファンからの票は、ごくわずか。
否定ではない。
だが、越境もしない。
そんな、数字だった。
⸻
そして、選手間投票
空気が変わったのは、ここから。
選手達はグラウンドで全てを見ている。
球の重さ。
制球。
打球音。
言葉ではなく、プレーで判断する。
結果。
魔族の投手、バルト。
そしてハーフの強打者、マクセルダ。
二人は、選手間投票で選出された。
⸻
「……まぁ、成績だけ見りゃ、な」
そう言う者。
「選手が選ぶなら文句は言えねぇ」
と、渋々認める者。
そして。
「それでも、祭りだろ?」
と、不満を隠さない者。
否定も、賞賛も、まだ混ざっている。
だけど。
“選ばれた”という事実だけは、
誰にも否定出来なかった。
⸻
圧力は、残っている。
受容は、未完成だ。
それでも。
オールスター戦という舞台に、魔族とハーフの名が並んだ。
それは。
このリーグが、次の段階に進んだ証だった。
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