第17話 オールスター
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あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第17話 オールスター
本文
オールスター当日
――同じベンチ、違う鼓動
王都のスタジアムは朝から騒がしかった。
普段の試合とは明らかに違う。
旗。
飾り。
仮設の屋台。
肉の焼ける匂いと、甘い菓子の香りが混ざり合い、通路を満たしている。
祭りだ。
誰もがそれを否定出来ない。
だけど。
空気は、どこか張りつめていた。
⸻
観客は多い。
いつもの試合より、明らかに多い。
ただし。
歓声は、まだ控えめだった。
誰かが拍手をすると、周囲が様子を見る。
誰かが声を上げると、少し遅れて続く。
探り合い。
この祝祭を、どう受け取ればいいのか。
誰もが、測っている。
⸻
選手達は、二つのオールスターチームに分かれている。
三対三。
球団も、種族も、混ざった編成。
魔族投手のバルト選手は、一方のベンチ。
ケンタウロスとのハーフ、マクセルダ選手は反対側。
同じユニフォーム。
同じ帽子。
それだけで、違和感がある。
客席では短い会話が交わされていた。
「……初めてだな、こんな並び」
「だな」
ぎこちない。
でも、露骨な拒絶は無い。
マクセルダ選手が、水を飲みながら楽しげに笑っていた。
⸻
特別席。
エステル様は既にご満悦だった。
「見よイオリ! この串焼き美味しいのじゃ!」
「エステル様、さっきも食べたばかりですよ」
「祭りなのじゃ! 今日くらい良いではないか!」
そう言いながら、手には甘い菓子、もう片方には肉。
「お腹を壊しますから、少し控えてください」
「むぅ……イオリは心配性じゃのう」
頬を膨らませるエステル様。
可愛い。
可愛い、けど。
「……後でジェラルド様に言いますよ?」
「それはやめよ! あやつは怒ると怖いのじゃ!」
慌てる姿に、少しだけ緊張が解けた。
⸻
スタンドの一角。
ルメルーナの旗が揺れる。
「バルト!」
声援が、確かにある。
別の方向。
コナの色。
「マクセルダ、頼むぞ!」
その声は少し戸惑いを含んでいる。
どちらも完全ではない。
でも。
確かに、存在している。
⸻
この日は、勝敗の為の試合ではない。
評価の為の試合でもない。
同じ場所に立てるかどうかを、確かめる為の一日だ。
同じベンチ。
同じ空。
同じ歓声。
異様な空気の中で、
選手達は、確かに肩を並べていた。
試合が始まると、
客席は一層、静かになった。
誰もが様子を見ている。
この試合を、どう見ればいいのか。
⸻
バルト選手がマウンドに立つ。
普段なら、相手チームのファンが多い席。
でも、今日は違う。
同じユニフォーム。
同じ帽子。
「……抑えろよ」
小さな声。
次の瞬間、三振。
「おお……」
拍手が、起きる。
最初は遠慮がちだった。
けれど。
「今の、良い球だな」
「コントロール良いなぁ」
球団名は、呼ばれない。
ただ、今のプレーが語られる。
⸻
次はマクセルダ選手。
打席に立つとざわめきが走る。
普段なら、敵だ。
でも今日は。
「……頼むぞ」
誰かが、そう言った。
打球が、外野の頭を越える。
長打。
スタンドが、沸く。
「よし!」
「行け!」
声が、混ざる。
どこのファンか、分からない。
ただ、同じチームの声援。
マクセルダ選手が塁上で手を上げて。
それに、拍手が返る。
⸻
誰かが笑って言った。
「不思議だな」
「敵じゃないとこんなに見やすい」
別の声。
「……悪くない」
普段は言わない言葉。
今日だから、出てきた。
⸻
好守。
好投。
好打。
一つ一つに、拍手が増える。
まだ、完全な受容ではない。
でも。
拒絶は、この場には無かった。
⸻
静かに息を吐く。
横を見ると、エステル様が身を乗り出している。
「凄いのじゃ!」
「エステル様、身を乗り出し過ぎです」
「むぅ、だって楽しいのじゃ!」
頬を緩めるその顔を見て、
私は、少しだけ笑った。
⸻
夜――寝室
夜。
エステル様はベッドの上でうんうんと唸っている。
「うぅ……」
「だから、食べ過ぎです」
「祭りだったのじゃ……」
小さな声。
私はそっとお腹に手を置く。
撫でるように。
「大丈夫ですよ。少し休めば」
「……イオリ」
「はい」
「今日は……楽しかったのじゃ」
「そうですね」
ゆっくりと、呼吸が落ち着いていく。
異なる者が、同じ色で応援された一日。
その余韻が、静かに夜に溶けていった。
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