第18話 祭りの後
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第18話 祭りの後
本文
――街に残ったもの
新聞
翌朝。
王都の新聞売り場はいつもより人が多かった。
見出しは大きい。
《星たちの競演――歴史的オールスター開催》
《敵も味方もない一日》
小さな文字で、こうも書かれている。
《魔族投手バルト、堂々の好投》
《ケンタウロス・ハーフの怪力打者マクセルダ、観客を沸かす》
記事の調子は抑えめだ。
称賛し過ぎない。
否定もしない。
けれど、事実は淡々と並んでいる。
それだけで、十分だった。
⸻
夜。
酒場では、昨夜の話題で持ち切りだった。
「正直、どうかと思ってたがな」
「でも、あれは凄かった」
「敵じゃないと素直に見られるもんだな」
別の卓。
「……まだ、全部許せる訳じゃねえ」
「それでもよ」
「上手いもんは、上手い」
ジョッキが、鳴る。
怒鳴り声は、無い。
議論は、ある。
それだけで、少し前よりずっと静かだった。
⸻
街角。
木の棒をバット代わりに、布を丸めたボールを投げ合う子供達。
「次、バルトな!」
「じゃあオレは、マクセルダ!」
種族は関係ない。
ただ、知っている名前を呼んでいるだけだ。
大人達が足を止めて見る。
誰も、咎めない。
⸻
数日後。
掲示板に、新しい告知が貼られた。
《アマチュア野球チーム発足について》
内容は、こうだ。
・コーンウォリスにアマチュアチームを設立
・年齢、種族不問
・将来的なドラフト候補の育成を目的とする
理由も、添えられていた。
《これまで、六球団で選手数は限界に近く》
《アマチュアレベルでの混成チームには》
《参加希望者が集まりにくい状況が続いていました》
正直な文面。
⸻
コーンウォリス
――まだ名もないチームの紅白戦
コーンウォリスは国の台所だった。
肥沃な平原。
穀物倉庫。
余剰があり、受け入れる余地がある。
だからこそ、最初のアマチュア野球はここに置かれた。
⸻
正式な球場ではない。
畑を転用した簡易のグラウンド。
外野は少し歪だ。
それでも。
人は、集まっていた。
⸻
人間。
獣人。
ドワーフ。
リザードマン。
そして、少数だけど魔族とハーフ。
数は、ぎりぎりだった。
各都市に分けるほどの余裕はない。
機関車の移動にも、金が掛かる。
だから、ここに集める。
それが、現実的な判断だった。
⸻
「じゃあ、紅組と白組に分かれようか」
監督が声を掛けると、
一瞬、間が空く。
種族で分けない。
実力でもない。
ただ、番号順。
それだけで、空気が少し緩む。
⸻
試合はぎこちない
送球は逸れる。
走塁は、噛み合わない。
ケンタウロスは減速が間に合わず、ベースを大きく回り過ぎる。
ドワーフは息は切れないが、一塁が遠い。
それでも。
「ナイスボール!」
「今の球、良かった!」
声は、出る。
⸻
魔族の少年が恐る恐る、投げる。
ボールは少し高い。
だけど、回転は悪くない。
「……もう一球、いい?」
誰も、拒まない。
ハーフの少女がバットを握る。
観客はいない。
評価もない。
ただ、目の前の試合。
打球が、転がる。
「セーフ!」
声が、被る。
誰の声か、もう分からない。
⸻
私は少し離れた場所で見ていた。
エステル様は隣に腰掛けている。
「上手い下手より、楽しそうじゃな!」
「はい。最初は、それで十分です」
ナオは腕を組んで、眺めていた。
「……意外と、普通だね。普通に、野球してるし。
アタシが居た戦場よりずっと静か」
「ナオが高笑いしてたからうるさかったんじゃない?」
「失礼な。相手の悲鳴もうるさかったよ」
とりあえず肩パンしておく。
喜ばれた。
⸻
紅白戦が終わる頃。
汗だくの選手達が、同じ水桶に集まる。
種族はもう関係ない。
「次、いつやるんだ?」
その一言が、すべてだった。
⸻
コーンウォリスの風
風が穀物を揺らす。
ここなら、育つ。
ゆっくりと。
確実に。
私は、そう思った。
プロの舞台ではない。
未来へ続く場所。
コーンウォリスは、その最初の畑になった。
⸻
私はその報告書を机に置いた。
まだ、圧力はある。
反発も消えていない。
それでも。
一度、同じチームになった。
その記憶は、確かに残っている。
「……次は、現場だ」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
物語はゆっくりと、しかし確実に次へ進んでいる。
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