第19話 ドラフト戦略
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第19話 ドラフト戦略
本文
紅白戦は一度きりでは終わらなかった。
定期的に行われるようになり、回を重ねるごとに動きが変わっていく。
声が出る。
連携が生まれる。
そして――
名前が、残る。
⸻
最初に話題になったのはリザードマンの青年だった。
左利き。
投げ下ろす角度が独特で、湿った日でも制球が崩れない。
「雨の日でも同じところに来るな」
誰かが、そう言った。
次は獣人の少女。
外野守備。
一歩目が速い。
打球音がした瞬間、もう走り出している。
「……取れる前提で動いてる」
評価は静かだった。
でも、確実だった。
⸻
そして――
一人誰もが口をつぐむ存在が居た。
ハーフ。
オークの血を引く大柄な少年。
粗い。
振りは大きいし三振も多い。
それでも。
当たった時の音が違う。
「あれは、見ていてスカッとするな!」
誰が言ったのか分からない。
でも、誰も否定しなかった。
⸻
その報告をまとめる。
「候補はもう出始めてます」
エステル様が目を輝かせる。
「ほ、本当か!?」
「はい。まだ荒削りですけど、確かに芽はあります」
ナオがにやりと笑う。
何度見ても腹の立つにやけ顔だ。
「揉めるねぇ?」
「うん。だからこそ先に説明しないと」
⸻
王都。
各チームの代表が集まる。
議題は、一つ。
ドラフト制度。
資料を机に置く。
「このリーグでは完全ウェーバー制を採用します」
ざわめき。
「つまり前季成績の下位から指名権を持ちます。戦力均衡の為です」
誰かが腕を組む。
「……つまり、強いチームはドラフトでは不利になる」
「はい。これは国が運営するリーグです。
勝ち続けるチームを作る為ではなく、長く続くリーグを作る為の制度です」
ラピッドファングの代表が肩をすくめる。
「納得はする。勝ってる側まで良い奴を独占しちゃあ、な」
ルメルーナの代表は静かに頷いた。
「ドラフト以前の振り分けでバルトが来た以上、文句は言えないな」
王都側は少し苦い顔。
それでも。
「……説明は、筋が通っている」
完全な賛成ではない。
でも、拒否も無い。
⸻
会議が終わる。
ふぅ、と一息つく。
ドラフトはまだ先だ。
でも。
もう、目は向けられている。
名も無いアマチュア達が名を呼ばれる日へ。
物語は次の段階に入った。
⸻
各球団の執務室では、同じような光景が広がっていた。
紙の束。
簡易な成績表。
走り書きの評価。
「即戦力は要らん。将来性だ」
そう言うのは、勝っているチームの代表だ。
戦力に余裕があるからこそ、数年後を見据えられる。
一方で、下位に沈む球団は違う。
「一年目から使える選手が欲しい」
「客を呼べる顔だ」
勝てない時間が長いほど、焦りは強い。
けれど、完全ウェーバー制は変わらない。
その事実が、思惑をより露骨にした。
⸻
選手達は静かだった。
誰もが自分の名前が呼ばれるかどうかを考えている。
リザードマンの青年はグラブを磨いていた。
左腕は、評価されている。
それは分かっている。
でも。
「……都会に行くのか」
小さく、呟く。
故郷を離れる不安が、胸をよぎる。
⸻
獣人の少女は黙々と走っていた。
呼ばれたら、離れる。
呼ばれなければ、ここに残る。
どちらでも良い……そう思おうとして、
出来なかった。
⸻
オークの血を引く少年は夜遅くまで素振りを続けていた。
三振の数も
囁かれる評価も
全部、知っている。
それでも。
「……当たれば、全部ひっくり返る」
自分に言い聞かせるように、振る。
⸻
コーンウォリスの外れ。
畑を耕す手が、少しだけ止まる。
「行く事になったら……止めはしない」
そう言う親も居れば。
「危ない所じゃないのか?」
不安を、隠せない家族も居る。
特に魔族やハーフの家庭では。
指名される事は誇りであり。
同時に、晒される事でもある。
⸻
エルフの長老は静観している。
評価されるなら、それで良い。
ただし、数字だけで測られる事には未だ、距離があった。
獣人達は実力主義。
「勝てるなら、誰でも良い」
それが本音。
オークの集落では期待の方が大きい。
「あの子が行くなら胸を張れる」
⸻
資料を閉じる。
このドラフトは誰かの人生を変える。
救う事もあれば、迷わせる事もある。
それでも。
やらなければ、
前には進まない。
「……選ぶんじゃない。繋ぐんだ」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
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