第20話 灼熱の夏
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第20話 灼熱の夏
本文
季節は確かに進んでいた。
太陽は高く、照り返しは強い。
スタジアムの空気は重く、試合前の準備運動だけで汗が噴き出す。
それまで当たり前のようにグラウンドに立っていた主力達に、少しずつ影が差し始めた。
走塁の切れが鈍る。
集中力が一瞬だけ途切れる。
ベンチに戻る背中が、わずかに重い。
「……休ませた方が良いな」
監督の声は低い。
無理をさせれば、取り返しがつかない時期だった。
⸻
そして、呼ばれる。
これまで控えだった選手達の名前が。
躍動する。
暑さを苦にしない選手達が。
最初に目立ち始めたのはドワーフだった。
元々、鍛治の種族。
炉の前に立つ仕事を続けてきた身体は、暑さを敵としない。
投手としてマウンドに立てば、変わらずその鉄腕を発揮する。
球速は突出していない。
変化も派手ではない。
それでも。
「まだ投げれるか?」
捕手が声を掛ける。
「問題ない」
短く、それだけ。
回を重ねても、腕は落ちない。
呼吸も乱れない。
鉄のような安定感がベンチを落ち着かせた。
⸻
リザードマンは、むしろ今からだと言わんばかりだ。
蒸し暑さが増すにつれて、動きが良くなる。
鱗に汗は浮かばない。
呼吸も一定だ。
投打共に、動きのキレが増している。
「この時期にこんなに安定するのか」
解説席が驚きを隠さない。
観客も少しずつ気づき始める。
暑さで落ちる選手と、
暑さで上がる選手が居る事を。
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ベンチスタートだった選手が好投する。
守備固めの選手が試合を締める。
拍手が起きる。
最初は控えめだった。
けれど、それが勝利に繋がると、変わる。
「よく耐えた!」
「ナイス!」
主力ではない。
スターでもない。
それでも、必要な選手として認められた瞬間だった。
⸻
私は静かに見ていた。
エステル様はアイス(エステル様の強い要望でヴァルドハイムにノウハウを持ち込んだ)を食べながら観戦。
「新しい選手が出てきたのぅ」
「はい。主力の衰えや不調で、代わりに抜擢された選手がチャンスを掴む……そういう事はこの先も起こり得るでしょう」
「ふむ……」
エステル様は更にアイスを一口。
分かっているのかいないのか。
取り敢えず、分かりやすく伝えるには……
「積み重ね、ですね」
⸻
シーズンは、長い。
最初に輝いた者だけでは走り切れない。
耐える者。
支える者。
ここぞで応える者。
それらが、勝敗を分け始めている。
観る側の目も少しずつ変わっていく。
夏は選手だけでなく、リーグ全体を成長させていた。
⸻
それは、ある日の酒場から始まった。
試合の無い夜。
客の多い店で、ひそひそと交わされる声。
「明日……ルメルーナが勝つ」
「そろそろマクセルダも打たない日が来るだろ」
笑いながら金貨が動く。
最初は誰も気にしなかった。
勝敗を予想する程度ならどこにでもある、と。
でも。
私は、野球が賭け事に使われる事を許容出来なかった。
⸻
調査を頼んだ。
結果は限定的。
選手達は関与していない。
あくまで外部の人達が予想して行っていただけ。
それでも。
「もし……知らないだけで選手が関わってたら?」
その言葉が、重く残った。
⸻
上層部の会議室で告げた。
「賭け事は禁止します。何事も、例外無く」
反発はあった。
「熱が冷める」
「金が動かなくなる」
「野球は勝負です。信用が無くなったら終わりです」
その言葉にエステル様も頷いた。
「我も……それは嫌じゃな」
決定は早かった。
⸻
近頃王都の街角に、見慣れない人が増えていた。
他国の服。
見慣れない種族の人も居る。
「本当に魔族が投げてるのか?」
「獣人の走塁が見たい」
外国からの観光客だった。
かつて、別の勇者が野球を広めた国々。
彼らにとって、ここは新しい舞台だった。
スタジアムの客席は少し賑やかになる。
拍手のリズムも少し違う。
でも。
好プレーには、同じように沸いた。
⸻
問題はすぐに浮上した。
「選手は?」
「外国人は入れるのか?」
このリーグは融和を目的にしている。
だからこそ慎重だった。
議論の末決まった。
来季から。
制限付きで、外国選手の入団を認める。
人数制限。
育成枠。
登録条件。
「この国のリーグである事は、変わりません。でも、閉じる理由もありません」
⸻
スタジアムでは更に多くの歓声が上がるようになった。
最初は、戸惑い。
次に、好奇心。
そして。
「今のは、上手いな」
種族も、国も関係なく。
その一言が増えていく。
⸻
特別席でエステル様は満足そうに足を揺らした。
「世界は広いのう」
「はい」
「……うむ」
こちらを見て、笑う。
「我らがヴァルドハイムのリーグじゃ」
その言葉は無邪気で、誇らしげだった。
リーグは思った以上の速さで、外へと繋がり始めていた。
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