第21話 熱意と敵意
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あらすじ
王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第21話 熱意と敵意
本文
シーズンは終盤に入っていた。
順位表の上と下が完全に分かれている。
もう計算する必要もない。
残り試合数と勝率が、現実を突き付けていた。
⸻
スファード・レゾナンスのベンチは静かだった。
優勝は、無い。
その事実を誰も口にしないだけ。
魔族も、ハーフも、他の種族も。
視線は目の前の試合に向いている。
勝っても、順位は変わらない。
負けても、もう失う物は少ない。
それでも。
一打席、一球に、力が入る。
「次、行けるぞ」
誰かが言う。
「分かってる」
短い返事。
それで十分だった。
観客席はまばらだ。
けれど、拍手は消えない。
彼らを見続けてきた人達が、残っている。
⸻
コーンウォリス・ハーベスターズの空気は、もう少し重かった。
食料も、土地も、支援もある。
だからこそ、期待が大きかった。
「この成績じゃ……」
そんな声が、抑えきれない。
選手は必死だ。
ここで結果を出さなければ次は無い。
選手は静かに準備をする。
来季へ繋げるために。
勝利は喜ばれる。
敗戦はため息を生む。
それでも、手は抜かない。
⸻
一方で。
優勝争いの空気は、明確だった。
ヴァルドハイム・レガリア。
王都のチームは背負う物が多い。
勝てば称賛。
負ければ非難。
それでも、今は結果が全て。
選手が活躍すれば応援には一層熱がこもる。
「今のは、文句なしだ」
そう言う言葉が、増えた。
⸻
そして。
ルメルーナ・ブリッジズ。
バルト選手がマウンドに立つ。
その瞬間、スタジアムが静まる。
敵地でも、それは同じだった。
投げる。
抑える。
数字が全てを語る。
魔族だという事実は消えない。
でも。
勝ち続ける投手を、無視する事も出来ない。
「今日も、か」
そんな呟きが、観客席に広がる。
⸻
特別席で私は両方を見てきた。
エステル様は膝の上で手を握り、真剣な顔をしている。
「……重いのう」
「はい。優勝争いですから」
「勝てば、全てが許される。負ければ、全部が責められる……」
少し考えてから、言う。
「厳しい場所じゃ」
「でも、必要な場所です」
そう答えると、エステル様は小さく頷いた。
シーズンは、終わる。
けれど。
ここで積み上がった感情は終わらない。
優勝を争う二つのチームと、それを見送るチーム達。
それぞれの立場で同じ白球を見つめていた。
⸻
シーズン終盤。
ここまでくると順位表はほぼ固まっていた。
その事実が、静かに人の心を削っていく。
⸻
最初は小さな違和感だった。
遠征から戻った馬車の車体に引っかき傷が増えている。
スタジアムの門に汚れた紙が貼られている。
「出て行け」
「勝たせるな」
誰に向けた物か、分かりやすい。
⸻
狙われたのはやはり魔族やハーフ。
ルメルーナ・ブリッジズ。
特に、バルト選手。
リーグNo. 1のエースピッチャー。
宿舎の周囲を夜にうろつく影。
通路に放置された、割れた瓶。
誰も直接は触れない。
でも、意図は明確だった。
「見られているぞ」
と。
⸻
それでもバルト選手は投げ続けた。
試合前のブルペン。
淡々と、いつも通り。
「……問題ありません」
そう言う声は、低く、揺れない。
監督は何も言わなかった。
止める理由が、数字の上では無いからだ。
⸻
別の場所では、もっと露骨だった。
スファード・レゾナンスの若手選手が帰り道で囲まれた。
「お前が打たないからだ」
「目立つな」
手は出なかった。
でも、肩を突かれ、帽子を落とされる。
軽傷。
未遂。
翌日の練習で、その選手の動きは硬かった。
⸻
報告は全て私の所に集まる。
「危険度は?」
「今のところ、直接的な怪我はありません」
「……分かりました。警備を増やしてください」
声は平静を保つ。
でも、胸の奥が冷える。
これは暴動ではない。
騒ぎでもない。
だからこそ、難しい。
⸻
エステル様は珍しく黙っていた。
資料を読み、眉を寄せる。
「……勝つと、嫌われるのじゃな。その矛先が魔族やハーフに向かっておるのか」
「はい。負けてたらそのチームのファンに嫌われますけど」
「ふむ……どうすれば良いのじゃ?」
「時間が必要です」
簡単な解決方法なんて無い。
そう言うと、エステル様は少し考え込んだ後に頷いた。
⸻
王都でも同じ兆しがあった。
レガリアの魔族選手の自宅に脅迫状。
夜中の足音。
でも。
チームメイトは、変わらなかった。
「気にするな」
「一緒に帰るぞ」
そう言って、誰かが隣に立つ。
首脳陣も明確だった。
「うちの選手だ。守る」
サラリーキャップへの不満は、ある。
でも、人を切り捨てる理由にはならない。
そこは一貫していた。
⸻
ファンの反応も割れていた。
罵声。
沈黙。
そして、擁護。
「やり過ぎだろ」
「良い選手なのに」
声は、まだ小さい。
でも、確実に存在している。
⸻
私は現場に出た。
試合後の通路。
宿舎の前。
練習場。
とにかく見回る。
「アタシが出たらすぐ終わるんだけどね」
「虐殺事件を起こす気はない」
「はいはい」
ナオは軽い調子。
でも、視線は鋭い。
⸻
ある夜。
私は、直接魔族とハーフの志願者達と話した。
「辞めたい人は、止めません」
そう前置きした上で、続ける。
「でも、残る人は……全力で守ります」
静かな空気。
誰かが、言った。
「……信じて、良いんですか」
「はい」
即答。
その言葉が、どれだけ重いかは……分かっている。
⸻
騒ぎは収まっていない。
でも。
誰も、退かなかった。
終盤の空気は張り詰めている。
勝敗だけじゃない。
意地と、恐怖と、期待。
全部が、同じ場所に集まりつつあった。
次は、優勝争いの中心。
魔族のエースが、その全てを背負う事になる。
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