第23話 勝ったのはの表紙画像

第23話 勝ったのは

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/23 📚 シリーズ: 王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 📝 2,371文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

王女の一言から始まる、異世界野球リーグ設立奮闘記 - 第23話 勝ったのは

本文

球場は息を止めていた。

バルト選手の投げた第一球が捕手のミットに吸い込まれる。

乾いた音。

それだけで、観客席が小さく揺れた。

ストライク。

それ以上の説明は誰にも要らなかった。

⸻

試合は静かに進む。

派手な点の取り合いは無い。

一つの進塁。

一つの併殺。

一つの好捕。

それだけでどよめきが起こる。

「守備が……」

「今の取ったのはでかいぞ」

そういう声が、はっきり聞こえるようになっている。

⸻

中盤。

点は、動かない。

レガリアの打者が捉えた当たりを、ブリッジズの外野手が滑り込みで止める。

逆に、ブリッジズの鋭い打球をレガリアの内野が体ごと受け止める。

拍手はチームを選ばなかった。

⸻

エステル様が身を乗り出す。

「い、今のは……良い打球を打ったのに点が入らぬのじゃな」

「はい。だからこそ、守備が評価される場面です」

「ふむ……地味じゃが、イオリみたいで格好良いのう」

その言葉に少しだけ胸が軽くなる。

そして、嬉しさも。

⸻

終盤。

八回。

ブリッジズが先に動く。

二死一塁。

打席に立つのはケンタウロスのハールヴェント選手。

「頼むぞ」

「決めろ」

そういう声が混じる。

結果は外野フライ。

深い。

でも、届かない。

溜め息と拍手が同時に起きる。

⸻

その裏。

レガリアも同じ状況を作る。

一死二塁。

主砲が立つ。

バルト選手は間を取る。

深く、息を吸う。

投げる。

打球は鋭い。

でも、二塁手が止めた。

一歩。

半歩。

身体を伸ばして、捕る。

アウト。

スタンドが揺れる。

⸻

九回。

依然として、0対0。

「延長、だねぇ」

ナオが、楽しそうに言って。

エステル様は、両手で顔を覆う。

「もう……心臓が、もたぬのじゃ……」

⸻

延長十回。

ブリッジズの攻撃。

1アウトで打者が四球で出る。

盗塁を決めてざわめきが大きくなる。

送り。

進塁。

二死三塁。

ここで、ベンチが動いた。

代打。

ミネーラ選手。

獣人とのハーフ。

最近不調でスタメンを外されていた。

⸻

打席に立つ背中は小さいけど、大きい。

尻尾は低く揺れている。

レガリアの捕手が、サインを出す。

投球。

打球は、高い。

高く、鋭い。

有翼人の守備範囲を、越える。

フェンス際。

伸ばした手の少し先。

白球が、落ちた。

⸻

一瞬の静寂。

そして。

歓声が、爆発する。

ブリッジズの選手達が、飛び出す。

ミネーラ選手を囲み、抱き合う。

「やったぞ!」

「最高だ!」

その輪の中に種族の境目は無い。

⸻

観客席は割れる。

歓喜。

困惑。

沈黙。

それでも、拍手が確かにある。

⸻

特別席でエステル様が呟く。

「……勝ったのじゃな」

「はい」

「……すごい試合じゃった」

その声は、小さい。

でも、震えていない。

⸻

ヒーローインタビュー。

ミネーラ選手は息を整えながら言う。

「仲間が……繋いでくれたからです」

言葉は簡潔。

でも、嘘は無い。

⸻

負けた側のファンの中には、怒りもある。

視線も、厳しい。

でも。

誰もフィールドに物は投げない。

誰も乱入しない。

⸻

私はゆっくり息を吐く。

完璧じゃない。

でも。

一年前なら、あり得ない光景だ。

⸻

夜。

王都の宿舎。

エステル様はベッドに横になり、苦しそうに唸っていた。

「……うぅ、食べ過ぎたのじゃ……」

「だから、止めたんです」

「だって……お祭りじゃったのじゃ……」

私は、そっとお腹に手を当てる。

「大丈夫です。少し休めば」

「……すまぬ、イオリ」

「いいえ」

その小さな体温を感じながら、思う。

この一年は、確かに前に進んだ。

ゆっくり。

でも、確実に。

そして、まだ続く。

翌朝。

王都は静かだった。

祝勝の鐘も、怒号も無い。

ただ、人々がいつもより少し遅く起き、新聞を広げ、酒場の扉を開ける。

昨日の試合は、誰にとっても重かった。

⸻

新聞の見出しは、控えめだった。

《激戦、延長十回》

《ブリッジズ、首位に立つ》

名前は出ている。

でも、煽る言葉は無い。

社説にはこんな一文が添えられていた。

《勝敗以上に、観る者の態度が問われた一戦だった》

⸻

酒場では意見が割れる。

「負けたのは、悔しい」

「でも、良い試合だった」

レガリアの名を挙げて、舌打ちする者も居る。

ブリッジズの名を聞いて、顔をしかめる者も居る。

それでも。

「……ミネーラ、凄かったな」

その一言がぽつりと落ちる。

否定は返ってこない。

⸻

選手達はいつも通り集まる。

勝った側も負けた側も。

身体は重い。

心も、同じだ。

ブリッジズのベンチでは、バルトが静かに水を飲んでいる。

「……次は?」

誰かが聞く。

「まだ、リーグは終わってない」

それだけで、十分だった。

⸻

レガリアのロッカールーム。

悔しさは、濃い。

でも、荒れてはいない。

「次、勝とう。まだ優勝の目はある」

その言葉に皆が頷く。

ローガン選手に向けられる視線も変わらない。

「次も頼む」

それが、普通に交わされる。

⸻

私はリーグ本部で報告書に目を通していた。

警備記録。

苦情件数。

未遂。

ゼロじゃない。

でも、減っている。

数字は正直だ。

⸻

エステル様は私の机の前に座り、足をぶらぶらさせている。

「……昨日は、すごかったのじゃ」

「はい」

「勝った者も、負けた者も……皆、ちゃんと……野球をしておった」

その言い方が、少し子供っぽくて、少し誇らしげで。

思わず微笑む。

「それが、一番難しい事です」

「ふふん。妾が思い付いたのじゃからな!」

「はい。エステル様の御慧眼です」

胸を張るその姿に、少しだけ笑いが漏れる。

⸻

ナオがお菓子を齧りながら。

「で、次は?」

「最終カード」

「荒れるかな?」

「どうだろ……」

もう以前とは違う。

完全に消えた訳じゃない。

でも、形が変わった。

叫ぶ代わりに、考える者が増えた。

拒む前に、見る者が増えた。

⸻

窓の外では子供達がボールを投げている。

形は歪。

ルールも曖昧。

それでも。

「ナイスボール!」

そんな声が、普通に飛ぶ。

⸻

私は立ち上がる。

まだ終わっていない。

優勝も、ドラフトも、次のシーズンも待っている。

それでも。

この一年で、この国は確かに変わった。

ゆっくり。

不格好に。

でも、後戻りはしない。

私はそう信じている。

だから、今日も前に出る。

ジャンル・タグ

, , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 5 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

生獣(ナマ・ケモノ)

生獣(ナマ・ケモノ)

ほのぼのな百合も過激な百合も好き。

👥 フォロワー: 8人

作者ページを見る