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政敵宰相と入れ替わったら、私が妹王女を推しまくって大混乱です! でもその宰相、敵国のスパイかもしれません

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/23 📚 シリーズ: 異世界恋愛ショートドラマ 📝 3,865文字 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界恋愛ショートドラマ - 政敵宰相と入れ替わったら、私が妹王女を推しまくって大混乱です! でもその宰相、敵国のスパイかもしれません

本文

鏡の中にいたのは、見知らぬ男だった。

 いや、見知らぬは嘘だ。

 見覚えはある。毎日ある。むしろ見たくない時ほど見る。

 黒髪。切れ長の目。愛想のない口元。やたら整った顔。腹立たしいくらい落ち着いた雰囲気。

 王国宰相クロード・ルヴェル。

 問題は、その男が私の動きに合わせて、同じように口をぱくぱくさせていたことだ。

「……やだぁぁぁ!?」

 低っっっっ!

 私、セラフィーナ・アルヴェイン二十四歳、第一王女。

 さきほどまで可憐な女だったはずなのに、今の悲鳴は見事に成人男性だった。終わった。

 鏡から飛び退く。肩が重い。足が長い。視点が高い。手が大きい。

 信じたくない。信じたくないのに、何もかもが「はいそうです」と主張してくる。

 どうしてこんなことに!?

 そのとき、背後で、聞き慣れた自分の声がした。

「騒がないでください、殿下」

 ゆっくり振り向く。

 そこにいたのは――私だった。

 私の顔。私の髪。私の姿。

 でも中身は違う。分かる。あんな仏頂面で立つセラフィーナがいてたまるか。

 気が付く。

 あの鏡の前で、あの男と口論したときからだ——。

     ▼

 三十分前。

 私はクロードを、王城の古い応接間へ呼び出していた。

 理由は簡単。

 明日の継承会議で、彼が本当に私を推すつもりなのか確かめるためだ。

 それは困る。非常に困る。

 女王なんて面倒くさい。朝から晩まで書類、会議、署名、謁見、笑顔、たまに戦争。ろくなものではない。

 私はもっと、もう少し、こう、風通しのいい離宮で昼寝とかしたい。

「確認するわ」

 私は扉が閉まるなり言った。

「明日、あなたは私を推すつもりなのね」

「ええ」

「やめて」

「却下です」

「即答!?」

 人の人生の分かれ道に、そんな気軽な却下がある?

「ルイーゼでいいでしょう。あの子可愛いし」

「可愛いだけです」

「失礼ね!」

「褒めています」

「どこが!?」

 クロードは眉ひとつ動かさない。悔しい。

「妹には無理です」

「決めつけないで」

「予算書を開いて五分で寝ました」

「睡眠は大事よ」

「先月の外交文書にうさぎの落書きをしました」

「芸術性が高いのよ」

「先々月、戴冠式の練習で王冠が重いと泣きました」

「繊細なの」

「王冠は軽くなりません」

 くっ。

 全部事実なので言い返しづらい。

「じゃあ何? あなたは私なら平気だと?」

「ええ」

「なぜ」

「面倒くさがりですが、有能だからです」

「うっ……」

「必要な時は逃げません」

「うぐっ……」

「妹より向いています」

「最後の一言だけは認めるけど、だからって嫌よ! そんなにやらせたいなら、あなたが王女をやってみなさい!」

 言った。

 完全に勢いで言った。

 クロードは、窓辺の大きな鏡にちらりと目をやった。古い王家の品らしく、金の装飾がいやに仰々しい。

「貴女こそ、一度でいいから私の机に座ってみてください」

「嫌よ!」

「では、願いは一致していますね」

 その瞬間。

 鏡が、ぴかっと光った。

「え」

「下がって」

 無理。間に合わない。

 私はクロードの腕に引かれ、次の瞬間には世界がひっくり返っていた。

     ▼

 現在。

 私の身体に入ったクロードは、いつもの調子で言った。

「……状況は理解しました」

「私はしてない!」

「貴女が私、私が貴女です」

「言い方が落ち着いてるのが腹立つ!」

 しかも明日は継承会議だ。

 ばれたら終わり。ばれなくても終わりかもしれない。

 翌朝。

 私はクロードの身体で執務室に座り、人生で初めて宰相の机を見た。

「なにこれ」

「書類です」

「知ってる」

「今日の分です」

「今日だけで山脈なの!?」

 しかも全部細かい。税。軍。道路。外交。小麦。塩。羊。羊? なんで羊で三通もあるの?

 私はその瞬間、決意した。

 絶対に女王になりたくない。

 そして会議前の打ち合わせで、私はクロードの顔のまま、堂々と言い放った。

「やはり次代の女王はルイーゼ殿下がよろしいかと」

「は?」

「は?」

「は!?」

 廷臣たちが三段階で固まった。

 私の身体に入ったクロードだけが、ひどく冷たい声で言う。

「閣下、昨夜から気でも触れましたか」

「正気です!」

「その発言が異常です」

「妹殿下は可愛いので!」

「国政に不要です」

「可愛いは正義でしょう!?」

「戦時には弱い」

 だめだ。

 この男、私の顔で私より怖い。

     ▼

 さらに最悪なことに。

 その日の夜、私はクロードの執務机の隠し抽斗から、とんでもないものを見つけた。

 隣国宛ての暗号文。

 国境の兵の配置。

 王城の出入り記録。

 しかも一通には、こう書いてある。

**『年長の方は必ず押さえること。年少の方では代わりにならない』**

「なにこれぇぇ……」

 ぞっとした。

 私を推す。妹では駄目と言う。敵国への暗号文。

 まさか。まさかだけど。

 この男、もしかして。

 もしかしなくても。

「スパイ……!?」

「違います」

 真後ろから声がして、私は本気で飛び上がった。

 私の顔をしたクロードが立っている。心臓に悪い!

「人の背後に立たないで!」

「宰相の部屋を漁っておいて言うことですか」

「それはそうだけど今はこっちが被害者でしょう!」

「違います」

「じゃあこの手紙は何! “年長の方を押さえる”って何! 私を敵国に売る気!?」

「売りません」

「妹を?」

「もっと売りません」

「じゃあ何よ!」

「説明すると長い」

「今すぐ短くして!」

 クロードは、ほんの少しだけ目を伏せた。

 あ、これは言いたくない時の顔だ。私の顔なのに腹立つくらい分かる。

「隣国の王弟が」

「うん」

「貴女か妹殿下を、婚姻で取り込もうとしている」

「は!?」

「私はそれを阻止している」

「えっ」

「妹では話にならないので、向こうは貴女を狙っている」

「なによそれ気持ち悪い!」

「同感です」

 えっ。待って。

 じゃあこれ、スパイ文書じゃなくて、私を売らないための文書?

「……本当に?」

「ええ」

「なんで言わなかったの」

「貴女が余計なことをするからです」

「余計なことって」

「単身で敵国使節に怒鳴り込みに行きます」

「行かないわよ!」

「半分くらいは」

「半分なら行ってるみたいで嫌!」

 でも、胸の真ん中のひやっとしたものは、少し消えた。

     ▼

 翌日。

 妹ルイーゼを交えて秘密会議を開いた。

「というわけで、ルイーゼ。次代の女王になって」

「いやです」

「即答!?」

「だって面倒くさいですもの」

「そうなの!?」

「姉上、わたくしたち姉妹でしょう」

「そこは似なくていいのよ!」

 ルイーゼは真顔でお茶をすすった。

「というか、わたくし、前から言ってますわ。書類は眠くなるし、会議は長いし、王冠は重いし」

「でしょうね」

 私とクロードの声が綺麗に重なった。

 ちょっとだけ、間が空く。

 クロードが、いつも通りの低い声で言う。

「ですので、やはり貴女です」

「嫌」

「貴女です」

「嫌ったら嫌」

「諦めてください」

「雑!」

 思わず机を叩いたら、ルイーゼが楽しそうに笑った。

「でも姉上、宰相閣下の身体で一日働いて、少し気が変わったでしょう?」

「え」

「閣下がどうして姉上を推すのか、前よりは分かったのでは?」

 ずるい質問だ。

 分かってしまった。少しだけ。ほんの少しだけ。

 この男、冷たい顔をしているくせに、私が逃げたくなるような厄介ごとを、先回りして片づけていた。

 しかも無言で。かわいげゼロで。黙って全部。

「……そういうところは」

 思わずこぼれる。

「ちょっとだけ、ずるいと思う」

「褒め言葉として受け取ります」

「褒めてない!」

 クロードは相変わらず淡々としている。

 なのに、口元だけほんの少しだけ緩んだ気がして、私は急に落ち着かなくなった。

     ▼

 入れ替わりは、その夜、鏡の前で元に戻った。

 条件は単純だったらしい。

 互いの立場を“最悪だ”と認めたうえで、相手に任せたいことを言葉にすること。

「では」

 鏡の前で、クロードが言う。

「戻ったら、逃げずに継承会議へ」

「うっ」

「私は、貴女を売らない」

「……それ、任せてもいいの?」

「最初からそのつもりです」

 ずるい。

 そういう言い方は本当にずるい。

 鏡が光る。

 視界がぐらりと揺れて、次の瞬間には私はちゃんと私に戻っていた。

     ▼

 継承会議の当日。

 私は女王になりたくない顔をできるだけ隠して座った。

 隣にはクロード。いつもの宰相の顔。いつもの無表情。

 会議は進み、最終的に――当然のように、私が指名された。

 終わった。

 私の平穏な昼寝人生は終わった。

 がっくり肩を落とした私に、散会後、クロードが低く言う。

「そんな顔をしないでください」

「するわよ。これから私、ずっと働くのよ」

「私も働きます」

「比率がおかしいでしょう」

「補佐します」

「全面的に?」

「ええ」

「……逃げても?」

「捕まえます」

「怖い」

 でも、なぜだろう。

 さっきまで絶望しかなかったのに、その一言で少しだけ笑いたくなった。

「ねえ、クロード」

「はい」

「もし次に、私を面倒ごとに巻き込むなら」

「巻き込みません。既に中心です」

「うっ……じゃあ、その、もう少し優しく言って」

「善処します」

 短い返事。

 なのにそのあとで、彼はほんの少しだけ身を屈めた。近い。近い近い。

「戴冠が済んだら、もうひとつお願いがあります」

「な、なに」

「今度は貴女の身体ではなく、私として隣に立たせてください」

 待って。

 それは。

 それはちょっと、かなり、ずるい。

 顔が熱くなる。絶対赤い。

 でもクロードは、そんな私を見ても、あくまで淡々としたままだ。腹立たしい。かっこいい。腹立たしい。

「返事は」

「……保留!」

「では、その間も逃がしません」

「だから怖いのよ!」

 妹ルイーゼの笑い声が、廊下の向こうから聞こえた。

 たぶん最初から全部見ていたのだ。あの子はそういうところがある。

 こうして私は、不本意ながら次代の女王になった。

 でも隣には、言葉少なで、感じが悪くて、たまにずるいくらい頼れる宰相がいる。

 それならまあ。

 ……ほんの少しだけなら、悪くないかもしれない。

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うえはらゆうり

うえはらゆうり

日経ダブルベアで大損し続ける逆張り地獄

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