第136話:【殲滅】三竜殲滅戦、イレブン・シンフォニー
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中― - 第136話:【殲滅】三竜殲滅戦、イレブン・シンフォニー
本文
「B班、空のドラゴンを0.3秒だけ怯ませなさい。A班、地上のドラゴンの動きを0.5秒止めなさい。カイル殿、海面への集中砲撃で水中個体の頭を押さえて。その隙にC班が中継点を撃ち抜きます」
オーボエの統制音がMNWを貫く。
「……いけますわね?」
『0.3秒なら余裕だよ!』コルネが炎を纏った大剣を構えた。
『0.5秒、止める』テューバが拳を握った。
『砲撃、任せろ』カイルが操縦桿を握り直した。
「カウント。3、2、1――今ッ!」
B班が空のドラゴンの両眼に同時攻撃を仕掛けた。
コルネの炎とユーフィの衝撃波が交差し、ボーンのランスが鼻先を叩く。ルーテが翼の関節に高周波双剣を突き立て、ハープが反対側の翼膜を鉤爪で切り裂いた。ドラゴンが一瞬だけ首を引いた。0.3秒。
同時にA班が地上のドラゴンに全力を叩き込んだ。チェロの重力斧が頭を押さえつけ、テューバのハンマーが前脚を地面に叩き込む。オルガのビットが全方位から電磁パルスを浴びせ、巨体が0.5秒だけ硬直した。
海面では、カイルの号令で全車が一斉射撃。徹甲弾の集中砲火が水中のドラゴンの頭部を叩き、浮上のタイミングを遅延させた。
その隙間を、C班が逃さなかった。
「風読み完了。偏差修正、0.002度」
クララが鉄扇で気流を固定し、ヴィオラがロングライフルのトリガーを引いた。
電磁加速された弾丸が、3体の弾幕の中心を一直線に貫いた。高度200メートル。肉眼では見えない「中継点」――空間に浮かぶナノマシンの通信ノードが、一発で粉砕された。
◇◆◇◆◇
同期が断たれた瞬間、3体のドラゴンの動きが崩壊した。
完璧だった連携がバラバラになり、空のドラゴンが海面のドラゴンと衝突しかけ、地上のドラゴンが味方のブレスを浴びて暴れ始めた。統率された軍団が、一瞬にして3匹の暴走する獣に成り下がった。
「セフィラ、今ですわ!」
オーボエの号令に、白銀の影がアークの屋根から飛び立った。
「了解。……ここからは、わたくしの出番です」
セフィラの翼が開く。パッチ・オフではない。通常出力。だがソフィアの量子コアとナノ紋の代謝強化を得た今のセフィラは、通常出力だけで以前の全開に匹敵する。
混乱する3体を、セフィラが1体ずつ仕留めていった。
まず空のドラゴン。同期を失って高度を下げたところへ、セフィラが音速で肉薄した。振動剣の一閃が翼の付け根を断ち、巨体が結晶の海面へ墜落する。着水の衝撃で結晶が数百メートルにわたって砕け散り、海面のドラゴンが巻き添えで体勢を崩した。
「ヴォルフ、エネルギーの管理を!」
「了解だ! セフィラ、冷却を切るな! 出力を62%で維持しろ!」
ヴォルフが必死にケーブルのエネルギー配分を調整する。セフィラの機体温度を適正域に保つために、アークの予備電力を惜しみなく注ぎ込んでいた。
リディア様のドローンが側面支援に回った。バレット蜂の集中射撃がドラゴンのセンサー器官を破壊し、ジャム蜂の電磁パルスが残った同期の断片を妨害する。100機の深紅の蜂が銀色のドラゴンに群がる光景は、まるで巨大な獣に挑む蜂の軍団だった。
「リディア様、ナイスですわ!」
オーボエが珍しく声を弾ませた。
「褒めてないで指揮を続けなさい!」
リディアの声は素っ気なかったけれど、ドローンの精度は完璧だった。
次に海面のドラゴン。体勢を崩したところへ、セフィラが海面すれすれを滑走し、振動剣で首を薙いだ。返す刀で核を貫き、巨体がナノマシンの粒子となって海に還る。
最後に地上のドラゴン。チェロの重力場に捕まったまま暴れる巨体に、セフィラが上空から急降下した。振動剣が胸の核を一撃で貫き、結晶面に着地した時には、全てが終わっていた。
3体が、塩の粒子に還っていく。ナノマシンの光が地中海の夕陽に溶け、結晶面に静寂が戻った。
勝利に湧く一家。カイルの従者隊が拳を突き上げ、コルネとユーフィとボーンがバイクの上でハイタッチを交わしている。
『実況ぅぅぅ! 三竜殲滅、完全勝利ですよぉぉぉ! 全員無事! 帰路最大のバトルを制しましたよぉぉぉ!』
ボーンの絶叫がMNWを揺らし、ヴィオラが『おーっほっほ! わたくしの一撃で勝敗は決していましたわ』と高笑いした。ルーテが『……疲れた』と一言だけ漏らし、ハープが『全員の装甲に海水の塩分が付着しています。帰還後に消毒を』と相変わらずの潔癖発言をする。
だがセフィラの機体は満身創痍だった。翼の片方が折れ、胸部装甲にひびが走っている。結晶面にふらりと着地した彼女の横に、ヴォルフが走り寄った。
「セフィラ! 大丈夫か!」
「……問題ありません。フレームの損傷は表層のみです」
「表層じゃねえだろ、翼が折れてんぞ! 帰ったらフルメンテだ」
ヴォルフが涙目でセフィラの翼を支えている。その横で、リディアが背後から黙って工具を一本ずつ手渡し続けていた。何も言わない。ただ、必要な物を必要な時に差し出す。
「……お前は俺の誇りだ」
「……知ってます」
セフィラが小さく答えた。
『てぇてぇ記録ですわ。ヴォルフ様の涙目、セフィラの「知ってます」、リディア様の無言の工具リレー。全て永久保存版ですわ……』
クララの囁きがMNWに流れた。
◇◆◇◆◇
「ピッコ、今回のドラゴンは何だったの?」
修理の手を動かしながら、私は尋ねた。ヴォルフがセフィラの翼を応急処置している横で、私はアークの被弾箇所にハンダを流し込んでいる。
「Gaiaの『免疫反応』ですわ。再定義を受け入れきれないシステムの残滓が暴走した、世界の治癒過程の痛みです」
ピッコが演算球体のデータを読みながら答えた。
「……ですがこれが最後の大規模な抵抗のはず。旧防衛プログラムのエネルギー残量から逆算すれば、この先は脅威の規模が徐々に小さくなっていきます」
「つまり、一番デカいのを越えたってこと?」
「……そういうことですわ」
夕陽が地中海に沈んでいく。溶けかけた結晶面が最後の光を受けて、一面の金色に輝いた。2000年ぶりに戻り始めた波が、静かに結晶の縁を洗っている。
行きは1体と死闘を演じた海。帰りは3体を、11人のシスターズとセフィラとリディア様のドローン100機とカイル隊の全戦力で迎え撃った。あの時とは違う。もう、一人で抱え込まなくていい。
「……帰ろう、リュウガ。みんなが待ってる」
「ああ」
リュウガが義手で私の手を握り返した。冷たい金属の感触。でも、その力加減だけは温かかった。
壊れたキャラバンを直しながら、私たちは北へ向かう。帰路最大の戦闘を終えた夜、地中海の上で、修理屋は今日もスパナを握った。