第144話:【兵俑】万里の長城、兵馬俑と火の試練の表紙画像

第144話:【兵俑】万里の長城、兵馬俑と火の試練

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中― - 第144話:【兵俑】万里の長城、兵馬俑と火の試練

本文

門が、開いた。

 壁の裂け目から、整然とした足音が響く。土色の人型兵器が、1列、2列、3列——終わりが見えない隊列で前進してくる。手に持つのはナノマシンで強化された矛と盾。顔はない。目もない。ただ赤い光が胸の中心で脈打っている。

「……来たわね」

 私は壁面の最初の端末パネルを剥がした。リュウガが隣でパネルの固定ボルトを素手でねじ切る。力だけはある。

 内部の配線に診断プローブを差し込む。古い。二千年前のアリスのコードがそのまま残っている。

「暗号化層7重。ただし第3層と第5層はアリスの癖で同じ鍵構造を使い回してる」

 リュウガが即座に読み上げた。

「2000年前の癖が抜けてないわね、アリス! なら、バイパスを通すのは簡単よ!」

 背後でシスターズが剣を振るう衝撃が壁を揺らす中、私はハンダの煙で目を細めながら、ショートさせた配線を次の端子へ無理やりねじ込んだ。火傷しそうなほど熱を持った基板の熱気が、焦りとともに額の汗を噴き出させる。

 コードの中身を理解している。書き換える力はもう残っていないけど、地図は全部頭の中にある。

「第3層パス。第5層も同一鍵でパス。実質5層——1基あたり40秒!」

「さすがですわ。わたくしが次の端末の暗号解読を先行しますので、猿嫁は書き換えに専念なさい」

 ピッコが隣の端末パネルに取りつき、白い指が配線の上を走る。医者の指だ。精密で、迷いがない。

 背後で、世界が割れた。

 チェロの重力斧が地面を叩き、方陣中央の密集地帯が陥没する。ボーンの重突撃ランスが追撃し、折り重なった兵馬俑が地面に沈む。

「第2環、前へ!」

 コルネの大剣が装甲と擦れ合い、摩擦熱の火花が夜明け前の空に散る。魔法はもうない。純粋な物理だ。ハープの振動爪が先頭列の関節を切断し、首のない胴体がゆっくりと倒れる。

 ユーフィとルーテが左右から駆け抜け、包囲しようとする列の端を削り取る。薙刀の一閃、双剣の無音の斬撃。止まらない。常に動き続ける。

 カイルの砲座が火を噴く。徹甲弾が方陣の厚い面を貫通し、散弾が薄い面に叩き込まれて足止めする。ヴィオラのリアルタイム解析が射角を修正し続け、リディアのドローン蜂が頭上から陣形の穴を映し出す。

 ヴォルフのバリケード帯に兵馬俑が突っ込み、落とし穴で100体が転落、粘着樹脂で足が止まり、即席カタパルトが鉄塊を投射して列を崩す。

「4基目完了! 5基目!」

 私の指は止まらない。ピッコが2基先の暗号を解読し、リュウガがパネルを剥がし、私が書き換える。3人の流れ作業が回り始めた。

「左翼300体迂回中。第3環、対応を」

 オーボエの冷静な声。ユーフィとルーテが弧を描いて走り、迂回部隊の先頭を切り裂く。カイルの3号車が砲座を旋回させ、側面から援護射撃。

「12基目……15基目!」

 指が震える。ハンダの煙が目に染みる。セフィラの振動剣が私の頭上で閃き、壁を登ってきた兵馬俑の腕を矛ごと切断した。ナノ粒子が頬にかかる。

「……っ、ありがとセフィラ!」

「礼は不要です。……続けてください」

 15分経過。20基完了。残り12基。

 背後で、鈍い音がした。

 振り返る余裕はない。でもMNWが伝えてくる。コルネの生体信号——Loss。

 兵馬俑の矛が、コルネの胸を貫いていた。大剣を握ったまま、コルネの身体がナノ粒子に分解されて散る。3体の兵馬俑が同時に矛を突き出した——前線に穴が開いた。

「第2環、1名ロスト! ハープ、15秒保て!」

 オーボエの声に動揺はない。ハープが無言で振動爪を広げ、コルネが消えた穴を一人で塞ぐ。

 ——7秒。

 アークのハッチが開いた。予備素体に意識が転送され、新しいコルネが甲板から跳躍する。赤い髪が朝風になびく。手にはナノマシンが即座に成形した新しい大剣。

「——ボクを壊すなら、あと2回は必要だよ!」

 着地と同時に大剣が横一線に振り抜かれ、穴に殺到していた兵馬俑3体の胴が断たれた。

「コルネ、1回目ロスト&復帰! 素体残り38! 不死のループ健在ですわー!」

 ボーンの実況が響く。

 ——あの子たちは死ねる。でも帰ってくる。私がそう設計したから。壊れても直る。何度でも。それが、私の作った「修理」の形だ。

 だけど、素体には限りがある。38体。11人で割れば1人あたり3回ちょっと。25分以内に終わらせなければ、本当の「死」が来る。

 直後、第3環が崩れた。側面から殺到した500体の波状攻撃——ルーテが背後からの矛に貫かれ、音もなくナノ粒子に散った。

「ルーテ!?」

 ユーフィの悲鳴。薙刀を振り回して穴を塞ぐが、1人では側面が保たない。

 ——5秒。アークのハッチが再び開き、新しいルーテが飛び出す。着地。双剣を抜く。一言も発さず、兵馬俑の列に斬り込んだ。

「遅いんですけどー!」

「……ごめん」

「ルーテ1回目ロスト&復帰! 素体残り34!」

 ボーンの実況にユーフィが「実況してないで手伝ってよ!」と叫び返す。

 側面が回復した直後——ユーフィの死角から、矛を構えた兵馬俑が突進してきた。

 鉄の風切り音。

 クララの鉄扇が後方から弧を描いて飛び、兵馬俑の首の関節を正確に貫いた。頭部が転がり、胴体が崩れ落ちる。

「ユーフィ、背後がお留守ですわ」

「クララありがとー! マジで死ぬとこだったんですけど!」

 第4環の後方から、クララが2枚目の鉄扇を構え直す。情報統制だけじゃない。この子の精密狙撃は、戦場の保険だ。

「テューバ、左3メートル!」

 オルガの声。テューバが重力ハンマーを横薙ぎに振り、壁際に迫った5体をまとめて弾き飛ばす。第1環は破られていない。

「ボーンちゃん実況! 現在撃破数推定2200! 残り2800! バリケード帯で600が足止め中! ヴォルフのおっちゃんすごーい!」

「おっちゃん言うな!」

 ヴォルフがカタパルトの弾を込めながら怒鳴る。

 20分経過。26基完了。残り6基。

 前線が削れている。コルネの大剣に再び罅が入った。ハープの振動爪の出力が落ちている。チェロが片膝をついた——その背後で、矛を振りかぶった兵馬俑が迫る。

 蛇腹剣が、闇を裂いた。

 ヴィオラの刃が30メートル先から伸び、チェロの背後の兵馬俑を胸の赤い光ごと貫く。ナノ粒子が飛び散り、土色の身体が崩れた。

「チェロ、後ろが甘いですわよ!」

「……助かったわ」

 チェロが立ち上がる。第4環は情報だけじゃない——ヴィオラとクララの狙撃が、戦場の穴を縫うように塞いでいく。

「第5環、下がれ。第2環と交代。コルネ、ハープは後方で30秒休め。チェロ、ボーン、前へ出ろ」

 オーボエが即座に環を組み替える。疲弊したユニットを下げ、温存していた火力を投入する。

「30基目!」

 残り2基。壁の最上部、高さ4メートルの位置に最後の端末が並んでいる。

「リュウガ! 肩!」

「了解」

 彼が片膝をついた。その肩に足をかけ、壁面を蹴って登る。ピッコがもう片方の端末に取りつくため、リュウガの反対側の肩を踏んだ。

「おい、二人同時に乗るな……っ」

「我慢なさい」

 ピッコが涼しい顔で言い放つ。リュウガの肩が軋んでいるが、歯を食いしばって耐えている。Admin権限のない、ただの踏み台——いや、ただの男の意地だ。

「最終層——暗号ではなく、テキストですわ」

 ピッコが呟いた。私の端末にも、同じものが表示されている。

『この門を正しく開ける者が来るまで、待っていてね』

 ——アリス。

 あなた、最初からこうなることを。

「猿嫁。泣くのは後になさい」

「泣いてないわよ!」

 ハンダごてが最後の接点を繋いだ。同時に、ピッコの端末も青く点灯する。

「32基、全端末——書き換え完了!」

 壁全体が、赤から青に変わった。

 兵馬俑の胸の光が、一斉に消える。5000体の人型兵器が、矛を下ろし、盾を地面に置き、そしてゆっくりと——膝をついた。

 沈黙が降りる。

 風の音だけが、万里の長城を吹き抜けていく。

「……門が、開いたわ」

 私は壁の上から振り返った。東の空が白み始めている。門の向こうに広がる大地——極東。帰る場所。

 下では、ボロボロの仲間たちが笑っていた。チェロが斧を杖代わりにして立ち、テューバが座り込んで肩で息をしている。コルネが罅だらけの大剣を掲げて「勝ったよ!」と叫び、ユーフィが「髪ボッサボサなんですけどー!」と文句を言っている。

 ルーテが無言で双剣を鞘に収め、ハープが爪についたナノ粒子を丁寧に拭いている。オルガが微笑み、ヴィオラが蛇腹剣を巻き戻し、クララが全員の損傷を記録している。

 そして、ヴォルフが粘着樹脂まみれの手でリディアの肩を抱き、カイルの部隊が砲座の上で拳を突き上げていた。

 ピッコが壁の上で白衣の埃を払い、「まったく、踏み台の肩幅が足りませんでしたわ」と文句を言った。

 ファーファの声が戦場にこだまする。

『全端末書き換え完了、認証ステータス——歓迎、だお!』

 リュウガが壁の下から私を見上げている。Admin権限のない、肩が軋む、ただの男。でもその目には、二千年分の知識と、それ以上の何かが宿っている。

「エリー。降りろ。火傷の手当てをする」

「……うん」

 壁を降りながら、思った。

 アリスが遺した最後の門番を、私は壊さなかった。直した。4000年前の王の軍隊は、今は静かに膝をついて、道を譲っている。

 ——私は修理屋だ。壊すんじゃない、直すのよ。

 門の向こうから、朝陽が差し込んできた。

ジャンル・タグ

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

ざつ

ざつ

ファンタジーxSFxラブコメ 生成AIゴリゴリ使いますが、丸投げじゃないですよ。まずはフォローいただける嬉しいです。

👥 フォロワー: 11人

作者ページを見る