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神様 拾いました (二)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/7 📚 シリーズ: 貴方へ ~もう一つのラブレター~ 📝 8,288文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

一話完結・オムニバス(長めの物語)

本文

神様 拾いました(一) | 小説投稿サイト「あいぺん」

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神様 拾いました (二)

神様が消えてから三日後の夜、純のスマートフォンが光った。

画面には発信者名が表示されていなかった。番号もない。ただ、画面の端から端まで、誰かが夜空を指でなぞったように、銀河の渦模様がかすかに揺らめいていた。街の電灯とも液晶の青さとも違う、もっと古くて遠い場所から来た光だった。

「もしもし」

「若造。準備しろ。明日の夜、儂の宇宙へ招待してやる」

あの重厚なバリトンが、スピーカーから溢れ出した。純はそれを聞いた瞬間、三日間かけて「あれは夢だったかもしれない」と積み上げてきた言い訳が、砂の城のように静かに崩れていくのを感じた。

「招待……? どうして急に」

「感謝の礼だ。お前と、その面白い女を。儂の宇宙には今の時期しか見られない現象がある。百億年に一度だけ、最初に創った星が超新星爆発を起こす。特等席を用意してやる。それに――」

神様は少し間を置いた。

「お前たちを、眷属たちに紹介したい。人間が宇宙の柱まで乗り込んできた話は、儂の宇宙中に広まっておる。あやつら、お前たちを見たくて仕方がないのだ。儂の宇宙始まって以来の有名人だぞ」

「噂になってるんですか、僕たち」

「英雄譚として語り継がれておる。……まあ、マスタードの件も一緒に伝わっているが、そこは気にするな」

佐藤 純 は複雑な気持ちになった。

「明日の夜、目を閉じて眠れ。あとは儂がやる。それから――マスタードを買っておけ。前回の失態は、儂の叙事詩に記録されておるからな」

電話は切れた。画面の銀河模様も、潮が引くようにゆっくりと消えた。純はしばらく暗くなった画面を眺めた。胸の中に、温かい石をひとつそっと置かれたような感覚があった。

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翌日の夜、純と彼女は彼女の部屋で並んでソファに座り、目を閉じた。

彼女は「ちゃんとおめかしした方がいいかな」と言って普段より少しだけ丁寧に髪を結い、純は「神様の宇宙に何を着ていくか、そもそも体があるのかさえわからないですよ」と答えた。彼女は「じゃあ裸で行く可能性もあるってこと?」と言い、純は「そういう意味じゃないです」と言い、二人ともなんとなく可笑しくて、目を閉じる直前まで笑っていた。

光が来た。

前回とは違う、ゆるやかな光だった。砂糖が水に溶けるように意識の端からほどけていく。おだやかな海の波のように存在がふわりと持ち上げられ、体の輪郭が霞んでいく。幼い頃に母親の声を聞きながら眠りに落ちた瞬間に似た、安堵があった。

次の瞬間、二人は立っていた。

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その景色に、二人はしばらく、息さえ忘れた。

広がっていたのは、「宇宙」という言葉が持つどんなイメージよりも、遥かに精巧で、遥かに荘厳な世界だった。

宙に浮かぶ巨大な岩盤は、地球の大陸ほどの広さがあった。その表面は何千億年もの時間が磨き上げた星間物質で覆われていて、踏みしめるたびに足の裏から七色の光の波紋が広がっていく。波紋は互いに干渉し合い、干渉した場所から新しい色が生まれ、その色はまた別の色を呼んで、床全体がひとつの巨大な万華鏡のように呼吸していた。自分が宇宙の鼓動の真上に立っているような感覚があった。

岩盤の縁から天の果てまで、光そのものを圧縮して柱の形に固めたような列柱が、等間隔に並んで伸びていた。柱の一本一本は半透明で、内側に星雲の渦を封じ込めている。近づいて覗き込むと、柱の奥に、まるで瓶の中に入れた海のように、小さな銀河がゆっくりと自転しているのが見えた。触れると指の先から微弱な電流のようなものが走り、それは痛みではなく、むしろ「存在している」という感覚をひとつ余分に与えてくれるような、不思議な刺激だった。

見上げると、天井はなかった。

代わりに、あらゆる方向へ宇宙が広がっていた。ただしそれは、地球から肉眼で見上げる夜空とは根本的に違った。星と星の間の「黒」が、ここにはなかった。すべての隙間が光で満たされていて、近くの星の青白い光、遠くの銀河の橙色の輝き、さらにその向こうで生まれたばかりの星雲の薄紅色が、幾重にも重なって、宇宙全体がひとつの緻密な刺繍のように見えた。見ていると、光の奥にまた光があり、その奥にまた光があり、どこまでも深く、どこまでも続いていた。

遠くに見える巨大な星雲が、建物の壁画代わりになっていた。紫と金と深紅の渦がゆっくりと、まるで誰かが息をするように回転している。その渦の中心から、白く細い光の柱が何本も伸びていて、柱の先端がこの観測台の床のあちこちに触れていた。そこだけ床の光が特別に強く輝き、触れると足の裏が温かくなった。星雲から直接、光のエネルギーが届いているのだと、言葉ではなく体が理解した。

重力は穏やかだった。踏み出すたびに足がわずかに宙を浮く。「重さ」という概念が、ここではほんの少しだけ緩んでいるようだった。

「ここ……神様の家ですか」

「まあ、神殿に近い場所だな。正確には儂の宇宙の中心にある観測台だ。ここからなら儂の宇宙のすべてが見渡せる」

神様が現れた。

コンビニの駐輪場で会ったときとは、まるで別の存在だった。縮んでいた体はすっかり元の大きさに戻り、純の背より頭ひとつ分高い。白い長衣をまとい、銀の髭は胸まで届いて、風もないのにゆったりと揺れていた。その髭の一本一本が、冬の星座の光を束ねて糸にしたように輝いている。瞳の中には、見ているだけで足元がなくなるような星々の海が広がっていた。

「神様……別人みたいですね」

「あれが縮んだ状態だったのだ。お前の自転車のカゴが窮屈すぎたのだぞ。カゴのサイズくらい、もう少し考えんか」

「神様のサイズを考慮して自転車を買う人間はいないですよ」

神様はふんと鼻を鳴らし、列柱の奥へ手を振った。空気がさわりと揺れ、まるで宇宙が息を吸い込んだように、彼らが現れた。

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最初に出てきたのは、水でできているとしか思えない少女だった。

全身が透き通った深海の色をしていて、動くたびに波紋が広がる。髪の毛の先から細かな泡が絶え間なく浮き上がり、光を受けて真珠のように輝きながら宇宙へ溶けていく。笑顔を見せると口元から小さな魚が泳ぎ出した。

「わたしはルシーダ。神様の宇宙の海を管理しています。あなたたちのこと、聞きましたよ。あの外神に向かって『マスタードもついてないような無愛想な世界』って叫んだ方たちでしょう?」

「……あ、はい」

「かっこよかったです。宇宙中で語り草になってます。ちなみに外神、マスタードの意味がわからなくて今も混乱してるらしいですよ」

「それは少し申し訳なかったかもしれない」

「いいえ、自業自得です」

ルシーダは純の手を取り、ぶんぶんと振った。その手は冷たくて、大海原の一番深くて静かな場所の匂いがした。

「次は私」

今度はどこからともなく声がして、純は慌てて周囲を見回した。声がどこにもない。というより、至るところから同時にしていた。

「上よ、上」

見上げると、星々の間に、風のような輪郭の存在がいた。実体がなく、光の粒子がゆるく集まって人の形を模しているだけで、焦点を合わせようとするとすぐにほどけてしまう。ちょうど、水面に映った月を掴もうとするときのように。笑い声だけは鮮明で、鈴を転がすように澄んでいた。

「わたしはセレナ。神様の宇宙の大気と嵐を担当しています。あなたたち人間が外神に立ち向かった日、わたしもそこにいたんです。神様が最後に使った風、少し手伝いました」

「そうだったんですか」

「感動して、嵐をもう一個余分に作ってしまいました。銀河の端っこで今もまだ回ってます。あなたたちの名前をつけておきましたから、いつか覗いてみてください」

「嵐に名前がついてるのか」と純が神様を見ると、神様は「細かいことを気にするな」と目を逸らした。

セレナは笑いながら風になって散り、また戻ってきた。彼女の髪が、見えない風にふわりとなびいた。

「こんにちは」

最後の一人は、純と彼女の目の前に、突然ぼとりと落ちてきた。

小さな老婆だった。しわだらけの顔、曲がった腰、節くれだった手。どこからどう見ても人間の老婆なのに、背中には夜空を丸ごと折り畳んだような「翼」があった。広げるたびに翼の内側から異なる時代の星空が覗く。春の大三角、冬の銀河、まだ名前のついていない星座たちが、羽ばたくたびに入れ替わる。

「儂はトラだ。神様の宇宙の時間を管理している。老婆の姿をしているのは、長い時間を扱うと自然とこうなるからじゃ。もっとも、『老い』を感じたことは一度もないがの」

トラは純の顔をじっと近くから覗き込んだ。

「ほう。いい顔じゃ。時間を惜しまない顔じゃな。……それと、お嬢さん」

トラが彼女の方を向いた。

「お前さんは、ちょっと時間を急ぎすぎる癖があるのう。焦らんでもよいぞ。まだ全部、間に合う」

彼女は少し目を丸くしてから、胸のどこかがほぐれるような顔で微笑んだ。

「ありがとうございます」

「素直で良い。あの若造も見習え」

純が「どっちの若造ですか」と聞く前に、神様が列柱を低く叩いた。その音が宇宙全体に広がり、遠くで眠っていた星々がぴくりと揺れた。

「時間だ。星が動き始める」

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神様の宇宙の観測台から見た超新星爆発は、どんな言葉にも、収まらなかった。

百億年前に神様が最初に灯した星は、観測台から見てちょうど真正面にあった。最初は気づかないほど小さな揺らぎだった。星の表面を走る光の筋が、いつもより少しだけ速く、いつもより少しだけ強く、脈打ち始めた。それは、長い長い眠りから目覚めた巨人が、一度だけ大きく息を吸い込む瞬間に似ていた。

膨張は、最初はゆっくりだった。

星が呼吸するたびに、その輪郭が数光年単位で外側へ押し広げられていく。星の表面で、これまで封じ込められていたエネルギーが層を破って溢れ出す様子が、まるで花が一枚一枚花弁を開くように、丁寧に、しかし取り返しのつかない速さで進んでいった。星の色が変わった。白から青白へ、青白から灼熱の橙へ、橙からついに見たことのない色へ。それは名前のない色だった。人間の言語が追いついていない色だった。これから誰かが名付けるために、今この瞬間に生まれた色だった。

そして、限界が来た。

光が全方位へ、音よりも速く、光速よりも速く――存在そのものの速さで炸裂した。

宇宙全体がひとつの「音」を鳴らした。

音というより振動で、体ではなく魂が直接揺さぶられるような感覚だった。その振動は、骨を通り抜けて心臓の奥まで届き、心臓がその拍子に合わせて一度だけ強く打った。まるで、宇宙そのものに、生きていると確認されたような感覚だった。

爆発から飛び散った光の欠片が、真空の中をスローモーションで広がっていく。欠片はそれぞれが尾を引いて、互いに引き合い、絡まり合いながら新しい星雲を形成し始めた。青と紫と金が混ざり合い、その境目から深い緑が生まれ、緑の縁が燃えるように橙に変わっていく。一枚の絵として見れば、それは誰かが宇宙という大きなカンバスに光の絵の具を思い切り投げつけた瞬間のようだった。しかしそれは絵ではなく、実際に生まれている何かで、今この瞬間にも成長を続けていた。

百億年かけてひとつの星が生き、そして今、百億年分の光が、一瞬に解き放たれていた。

ルシーダが感慨深げに「あの星の海に、わたしが最初の水を注いだんです」とつぶやいた。その声が少し震えていた。

セレナが「あの渦の中心に、わたしが最初の風を送り込んだの」とどこか遠くから笑った。

トラが「この瞬間のために、百億年分の時間をここに貯めておいたのじゃ」と静かに言った。翼を一度だけゆっくりと広げると、その内側にこれまで見たどの星空よりも鮮明な夜空が広がった。

神様は何も言わなかった。ただ遠くを、百億年先を見つめながら、銀の髭を一度だけ静かに撫でた。その横顔には、誇りと悲しみと愛情が混ざったような、宇宙の年齢を持つ者だけが宿せる表情が浮かんでいた。

純は隣に立つ彼女を見た。

彼女は爆発の光を正面から浴びながら、目を閉じていた。光が彼女の輪郭を縁取り、髪の毛の一本一本を金糸のように染め上げ、その先端から光の粒子がこぼれていた。まるで彼女自身が、今まさに生まれたばかりの星のようだった。純はうまく言葉にできないまま、ただ彼女を見ていた。

「綺麗だね」

純が言うと、彼女は目を開けずに答えた。

「うん。……泣きそう」

「え」

「宇宙の心臓の音を、直接聴いているみたいで」

純も正面を向いた。百億年分の光が、今この瞬間に全部開いていた。

「そうだね」

しばらく沈黙が続いた。爆発はまだ広がり続け、その余韻が宇宙をやわらかく揺らしていた。すべてが途方もなく、静かだった。

と。

「ねえ、純君」

「うん」

「ちょっと聞いていい」

「なに」

彼女は目を開けた。超新星の光を映した瞳が、いつもより少しだけ真剣だった。純はなんとなく、胸の中心が静止する感覚を覚えた。宇宙がこんなに騒がしく光っているのに、二人の間だけがひっそりと凪いでいた。

「もし――宇宙の端みたいな場所でも、あなたがいれば、わたし多分怖くないと思うんだよね」

「それは……経験上、確かに」

「今日も怖かったけど。最初に化け物に追いかけ回されたときも」

「でもわりと楽しかったですよね」

「楽しかった。すごく」

彼女は少し笑った。その笑顔が超新星の光と溶け合って、純の目にじかに沁みてきた。

「あのさ、純君。結婚しない?」

宇宙が、静止した。

正確には静止していないのだが、純の意識の中では完全にそう感じた。百億年分の爆発の光が広がり続ける中で、世界の音量が一気に下がって、彼女の声だけが透明な結晶のように空中に残った。

「……今、宇宙で言いますか、それを」

「一番いい景色のところで言いたかったんだもん。百億年に一度なんでしょ。わたし待ちきれない性格だって、トラさんに言われたし」

「言われてたの、早速活用してますね……」

「どうなの」

純は宙を見た。超新星の残光が星雲を形成しながらゆっくりと広がっていく。百億年かけて育った星の最後の一呼吸が作り出した光の海が、今この瞬間、二人を等しく照らしていた。

「……はい」

「はい?」

「はい、です。結婚します。しましょう。そういうことにします」

「なんか素っ気ない返事ね」

「宇宙の真ん中でプロポーズされたら、誰だって何て言えばいいかわからないですよ」

彼女はぷっと吹き出した。純も笑った。おかしくて、なぜか少し目頭が熱くなった。百億年分の光の前で泣くのは恥ずかしいと思ったが、光が多すぎてたぶん誰にもわからないだろうと思い直した。

背後で、地響きのような笑い声がした。

「面白いのう」

トラだった。翼の内側の星空が、嬉しそうに明滅していた。

「百億年、時間を管理してきたが、こんな場面は初めてじゃ。よかった。この瞬間のために、少し余分に時間を貯めておいて」

ルシーダは海の色のまましゃくりあげるように泣いていた。波紋が足元から際限なく広がり、体から無数の泡が浮き上がって、それぞれ小さな光を宿しながら宇宙へ溶けていった。「おめでとうございます、おめでとうございます」と繰り返しながらどんどん泡が増えていった。このままでは宇宙が泡だらけになってしまうと純は思ったが、その泡がどれも信じられないくらい綺麗だったので、何も言わなかった。

セレナは風になって二人の周りをくるくると回り、「こういうの好きです! 嵐じゃなくてそよ風にしておきますね、特別に!」と声だけ笑いながら言った。風は温かく、どこか懐かしい香りがした。

神様は腕を組み、眷属たちをしばらく眺めてから、ぼそりと言った。

「儂の宇宙で結婚の約束をした人間は、お前たちが初めてだ。……まあ、許してやろう。その代わり、儂への供物は欠かさんように。マスタードつきのフランクフルトでよい。年に一回で構わん」

「それだけでいいんですか、宇宙を救ったのに」

「贅沢を言うな。叙事詩への掲載料だと思え。……それから、お前たちは儂が保証する。大丈夫だ」

神様が「大丈夫だ」と言った瞬間、超新星の残光の中から小さな光の粒がひとつ、ふたつと飛んできて、二人の周りをふわふわと漂い始めた。火の粉ではなく、温度のない柔らかい光だった。触れても熱くないのに、見ているだけで胸の奥が温かくなる光だった。

「なんですかこれ」

「新しい星の種だ。百億年をかけて育って、最後の瞬間にこれだけの光を残した星の欠片だ。お前たちにやる。悪いお守りにはならんだろう」

彼女が手のひらを広げると、光の粒がひとつ、まるで最初からそこにいたようにすとんと落ちた。ほのかに温かくなる。純の手にも、ひとつ。

二つの光は、お互いの方向へゆっくりと近づいていった。引力と呼ぶには優しすぎる速さで。

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帰り際、ルシーダが駆け寄ってきた。目元がまだ少し潤んでいた。

「あの、ひとつだけ聞かせてください」

「なんですか」

「神様を自転車のカゴで拾ったとき、怖くなかったですか」

「怖かったですよ。めちゃくちゃ怖かったです。化け物が来たときは脚が動かなくなるかと思った」

「でも逃げなかった」

「逃げられる状況でもなかったし……あと、隣にいたので」

ルシーダは純の視線の先を追って彼女を見た。彼女は少し離れたところでセレナの風と話していた。笑うたびに、光の粒が周りに生まれているような気がした。

「なるほど」

ルシーダは深く頷き、満足そうに波紋を広げながら後退していった。

セレナがぽつりと言った。

「神様、あなたたちのこと、すごく気に入ってますよ。あの方が人間をここに招いたのは今回が初めてなんです。神様の宇宙のものって、全部どこかに特別な理由があるんです。星の配置も、重力の強さも、風の向きも。招かれた人間が特別でないはずがないでしょう?」

純は何も言えなかった。隣で彼女が「ありがとうございます」と小さく言った。

トラが最後に近づいてきて、二人の額にその節くれだった指先でそっと触れた。

「時間のプレゼントをあげましょうかの。お前たちが共に過ごす時間に、少しだけ余白を足してやる。大事な瞬間をすっ飛ばさないように」

「ありがとうございます」と彼女が言うと、トラは「礼には及ばん」と手を振り、それからぼそりと付け加えた。

「……ただし、フランクフルトの供物は儂の分も忘れるな。一本でいい」

「神様も同じこと言ってましたよ」

「そうじゃ。我々は宇宙の理よりも、フランクフルトに意見が合う」

純が笑うと、トラも翼の内側の星空をかすかに輝かせながら、目を細めた。

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気がつくと、ソファの上だった。

窓から夜風が入り込み、カーテンをふわりと揺らしていた。時計を見ると、目を閉じてから十秒も経っていなかった。あれだけの宇宙を旅して、たった十秒。時間というのは、場所によってこんなにも違う顔を持つのだと純は思った。

純は手のひらを開いてみた。光の粒はない。しかし手のひらの中心が、まだほんのりと温かかった。百億年分の星の欠片が触れた温度だった。彼女も同じように手のひらを眺めていた。

「……行ってきた気がするね」

「うん」

「夢じゃない気がする」

「うん」

彼女はソファの脇のコートを手に取った。神様が直してくれたコート。裏地の銀河模様が、部屋の灯りの中でかすかに息をするように輝いていた。

「純君」

「うん」

「さっきの、本気だよ」

純は彼女を見た。

「知ってます」

「ちゃんとお返事、宇宙じゃないところでも聞かせてよ」

「……はい。喜んで」

「なにそれ、居酒屋の人みたい」

「じゃあなんて言えばよかったんですか」

「わからないけど、もっとこう……」

二人はまた笑い出した。声が重なって、狭い部屋に広がって、夜風に乗って消えた。

テーブルの上には、どこから現れたのかわからないフランクフルトが二本、小さなメモと一緒に置いてあった。二本になっていた。

メモには、古い文字で、しかし読めるように書かれていた。

『マスタードつきを忘れるな。祝言、楽しみにしている。もう一本はトラの分だ。手をつけるな。 神』

純が「トラさん、ちゃっかりしてるな」と言い、彼女はそのメモをコートのポケットに宝物のように大事にしまった。

窓の外には、普通の夜空が広がっていた。

ただ、いつもより少しだけ、星が多かった。そのうちのどれかひとつが、今もまだ銀河の端っこで回り続けている、純と彼女の名前のついた嵐の、生まれた場所なのかもしれなかった。

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神様 拾いました(三) | 小説投稿サイト「あいぺん」

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JJ

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