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配信14回目 「見つけました」――それで、終わりにしていいと思ってた【後編】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,870文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信14回目 「見つけました」――それで、終わりにしていいと思ってた【後編】

本文

「探しています」の投稿に、影森ゆらの顔が載っていた。

 その写真が拡散し始めた時、私は入口でノートPCを開いて数字を見ていた。

 増えていく数字が、怪異のパターンだと分かっていた。怪異案件の時の伸び方は、普通のバズと違う。感情の重さがない。機械的に、均等に、止まらずに広がる。

 でも写真の中の顔がゆらちゃんだと気づいた瞬間、私は初めて、それを数字として見られなくなった。

 それは私の問題で、仕事の話とは別で、だから今は言わない。

―――

 気づいたら、廊下にいた。

 生きている人間の廊下ではない。

 薄暗い。天井が高い。床が白い。でもコンクリートの白じゃなくて、温度のない白だ。

 左右に、何かが貼ってある。

 壁一面に、光っているものが貼ってある。

 スマホの画面を壁に貼り付けたみたいな発光。全部、「探しています」の投稿だ。写真と名前と、シェア数。

 そして、その中に、自分の顔があった。

「……最悪」

「最悪だね」

 声がした。

 振り返る前に、隣に立っていた。

 玻璃はりだった。

 色素の薄い髪。白い肌。古いワンピース。輪郭が少し透けている。足音がない。気配もない。でも、隣にいると少しだけ呼吸が楽になる。それが玻璃の不思議なところだ。

「また来たの」

「また来た。今回は頭打って」

「痛かった?」

「最初だけ。あとは静かだった」

「それは良くない方の静かさだよ」

 そうだな、と思った。

「……ここ、全部私の投稿があるの?」

「あなたのだけじゃない」

 玻璃が壁を見る。

「全部繋がってる。探す側になった人間が、次の探す対象を投稿する。それを見た人間がまた探す側になる。終わりがない連鎖」

「じゃあ全部が」

「全部、繋がってる。そして全部の中心に、ひとつだけ最初の投稿がある」

 私は壁を端から端まで見た。

 一枚だけ、他より古い投稿がある。写真が違う。若い女性。他の投稿より画質が荒くて古い。

「これが最初?」

「たぶん。でも、この人はもういない」

「いないって」

「探されすぎた。向こう側へ、完全に引き込まれた」

 向こう側。

 今私がいるここより、もっと奥。

「……その人を助けることは」

「できない。もう行けない場所にいる」

 玻璃が静かに言った。事実として言っている。責めているわけでも、慰めているわけでもない。

「じゃあ」

「でも」

 玻璃が続ける。

「最初の投稿を消せば、連鎖は止まる。この人が選んだわけじゃないから、起点だけ切れば残りは解ける」

「消し方は?」

「こっちから消すのは難しい。現実側での処理が必要。でも現実側が動けるようにするには、あなたがこっちで核に触れないといけない」

「触れたら、どうなる」

「構造が崩れる。朔夜さんが処理を通せるようになる」

 私は少しだけ間を置いた。

「触れたら、私は戻れる?」

「……たぶん」

「たぶん」

「今回は、ちょっと深い。あなたが今まで来たことない深さに行く必要がある」

―――

 現実側では、まずいことになっていた。

 真琴さんがリアルタイムでデータを追っていた。

「ゆらちゃんの投稿、この五分で四千シェアを超えました」

「止められるか」

「拡散停止の術式があれば。でも今使うと感染者三人の拘束が」

「解ける。順番がある」

 朔夜が感染者三人を『強制隔離アイソレート』で拘束したまま、ゆらの状態を確認している。呼吸はある。脈もある。でも深く落ちている。

 その時。

「……ミリアが消えた」

「さっきから見てません」

 真琴さんが外を確認する。入口付近にいたはずのミリアの姿がない。

「ビルの中に入った」

「くそ」

 朔夜が術を維持したまま動けない。

「真琴」

「はい」

「お前がいられる限界まで、数字を見ていろ。俺が動いたら声をかけろ」

「分かりました」

 真琴さんは頷いた。でも画面から目を離した一瞬だけ、ゆらの方を見た。

 それだけだった。

―――

 ビルの最奥。

 ミリアが一人で来ていた。

 カメラは持っていない。

 廊下を奥へ進む。「探す気配」が濃くなる方向へ。自分でも分かっていた。なぜここへ来たのか。

 ミリアには分かっていた。自分が怪異を活性化させた側だということ。真琴に言われるまでもなく。配信を始めた夜から、数字の伸び方がおかしかった。気づいていて、止めなかった。

 だから来た。カメラなしで来たのは、今回だけは「映え」じゃないから。

 一室だけ、ドアが開いている。

 中に、最初の投稿の写真と同じ服装の女が立っていた。でも顔が違う。もう人間の顔をしていない。長く探されすぎた顔だ。

「……あなたが最初?」

 女が振り返る。

 ミリアは一歩も退かなかった。

「ねえ、聞こえる? もう終わりにしていいよ」

 女が動く。

 ミリアが術を組もうとした。間に合わない。

―――

「……現実側で、誰かがまずい場所に入ってる」

 玻璃が言った。

「誰」

「あなたが嫌いな人」

「……ミリア?」

「嫌いじゃないの?」

「嫌いとは言ってない」

 私は壁の最初の投稿を見た。

 現実側で朔夜が動けるようにするには、こっちで核に触れる必要がある。触れたら戻れるかどうか分からない。でも触れなかったら、ミリアが。

「行かなかったらミリアが」

「たぶん」

「行ったら私が」

「戻れなくなるかもしれない」

 しばらく黙った。

「朔夜は助けに来てくれる?」

「現実側での処理は通せる。でも引き戻すのには時間がかかる。深ければ深いほど」

「……」

「怖い?」

 怖い。

 めちゃくちゃ怖い。

 頭を打って死ぬ前から、ここに来るたびに、毎回怖い。慣れた試しがない。

「怖い。でも」

 私は立ち上がった。

「行かなかったら後で後悔する気しかしない」

「なんで」

「分かんない。でも、ミリアがカメラ持たずに来たって、なんか聞いた気がして」

「聞いてないよ。私言ってない」

「じゃあ勘だ」

 玻璃が、ほんの少しだけ笑った。年相応の、柔らかい笑い方だった。

「……戻れる線は、教える」

「ありがとう」

「でも引っ張るのはあなたの仕事。私には引き戻す力がない」

「知ってる」

「次来た時も、ちゃんと戻って」

「毎回言うじゃん」

「毎回来るから」

―――

 最初の投稿に、触れた。

 紙の感触はなかった。でも何かが伝わる感触はあった。

 向こう側で、構造が揺れた。

 現実側で真琴さんのPCが鳴った。

「……数字が、止まった」

 グラフが急に横ばいになった。シェアが止まっている。

「今です!」

 朔夜が術を切り替える。

『拡散停止スプレッド・ロック』

『記録焼却ログ・イレイズ』

『再帰封止ループ・ロック』

 三つを同時に展開。

 登録者が燃える。財布が燃える。

「登録者、今三千飛びました」

「知ってる」

「財布は」

「見るな」

「……見ちゃいました」

「だから見るなと言った」

「夜見さん、大丈夫ですか」

「大丈夫じゃない。でも止める」

―――

 ビルの最奥で、最初の女の動きが鈍くなった。

 怪異の核が崩れ始めている。

 ミリアが一歩も退いていなかった。術は間に合わなかった。でも退かなかった。

 朔夜が最奥へ駆け込む。ミリアを横に突き飛ばして。

 最後の封印。

 『断界執行デッドエンド』

 女の輪郭が崩れた。

 拡散していた投稿が、一斉に消えた。

 感染者三人の目に、焦点が戻った。

 真琴さんのアラートが鳴る。

「拡散数、ゼロになりました。ゆらちゃんの投稿も、消えてます」

 朔夜が床に膝をついたミリアを見た。

「怪我は」

「……ない」

「なんで入った」

「私が活性化させたから」

「それだけか」

「……それだけ」

 朔夜は何も言わなかった。でも、立ち上がろうとするミリアに手を貸した。

 ミリアがその手を、一瞬だけ見た。

 それだけだった。

―――

 喉が焼けるみたいに痛かった。

 息が入る。でも痛い。むせる。苦しい。全部戻ってくる。生きてる感じが、ぜんぶ最悪な形で戻ってくる。

「――っ、ごほっ……!」

 廃ビルの床が冷たい。コンクリートの匂いがする。

 朔夜が私の横に膝をついて、首元へ二本指を当てた。脈を確認する。息を吐く。いつもよりその息が、少し長かった。

「……戻った」

「今回、遅かった」

「深かった」

「……そう」

 起き上がろうとしたら、真琴さんに支えられた。

 顔を見た。

 真琴さんの目が、少し赤かった。

「……泣いてた?」

「泣いてないです」

「目が」

「見ないでください」

「……ごめん」

「謝らないでください。私が数字じゃなくて顔を見たのは、私の問題なので」

 その言い方が妙に可笑しくて、私は少しだけ笑った。真琴さんも、少しだけ笑った。

 離れたところにミリアが立っていた。

 配信カメラは、まだ持っていない。

 私がミリアを見る。

「……生きてた」

「生きてたわ」

「カメラ、なかったじゃん」

「……今回だけ」

「そっか」

 それ以上は言わなかった。ミリアも言わなかった。でも今夜だけは、少しだけ、距離が違った。

―――

 帰り道、真琴さんからメッセージが来た。

『今回の案件の数字、後でまとめて送ります。あと朔夜さんの請求書も一緒に届くと思うので覚悟してください』

「覚悟ってどのくらい」

『今月の借金、ちょっと増えます』

「ちょっと?」

『……だいぶ』

「やっぱりか!!」

 朔夜が隣で歩きながら端末を確認している。

 横目で見た。登録者数の画面だ。さっきより三千少ない。財布も薄い。

「……朔夜」

「なに」

「今回、ちゃんと全部消えた?」

「ほぼな」

「ほぼ?」

「"探しています"の最初の投稿主は、もう向こう側にいる。消し切れなかった分は、ある」

 静かだった。

「……その人は」

「助けられなかった」

「そっか」

「お前が気にすることじゃない」

「気になるよ」

「それはそうだ」

 夜の街を歩く。

 大通りのネオン。高架の影。一本裏へ入ると時間が古くなる、この街。

 さっきの死後側を思い出した。壁一面の投稿。自分の顔。シェア数が増えていく数字。

 全部消えた。

 でも最初に探されていた人は、消えなかった。

 それだけが、残った。

 生きてる感じが戻ってくる。今夜もそれは最悪な形で戻ってきた。

 でも、最悪でも戻ってきた。

 それだけが、今は正しいことだ。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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