配信13回目 「探しています」――私の顔が、知らない投稿に載っていた【前編】の表紙画像

配信13回目 「探しています」――私の顔が、知らない投稿に載っていた【前編】

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/1 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 4,356文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信13回目 「探しています」――私の顔が、知らない投稿に載っていた【前編】

本文

*****

 「探しています」という投稿が、三日前から回っている。

 写真は普通だ。笑顔の若い女。文面は一行だけ。

 問題は、その投稿を見た人間が、翌日から「その女を探す行動」を取り始めることだ。無意識に。本人も気づかないうちに。

 そして今朝、私のスマホにも、その投稿が届いた。

 送り主は、知らない番号だった。

―――

 話は数時間前に戻る。

 夜見よみよろず相談事務所は、今日も終わっていた。

 積みっぱなしの書類。空の缶。絡まった充電器。呪符じゅふの束と配信機材が雑多に混ざる、生活しているのか怪異が巣食っているのか判別不能な空間。そこの掃除を一人でやらされている私、影森かげもりゆら、十六歳。借金四千九百八十万円超。時給三百円。バイト三か月目。

 相変わらず全部終わってる。

「ねえ朔夜さくや、今月の明細まだ出てないんだけど」

「来週出る」

「来週って言って先月も出なかったんだよね」

「計算が複雑なんだ」

「複雑な理由が全部私の死亡回数と比例してるよね」

 ソファに深く沈んだまま端末を操作していた男――夜見朔夜は、視線も上げずに答えた。

「そういうこともある」

「そういうこともある、じゃないんだよ!」

 その時。朔夜のスマホが着信した。

 朔夜が画面を一瞥する。その顔が、ほんの少しだけ変わった。温度が一段落ちたみたいな変わり方。

「……真琴まことから」

「真琴さん? 珍しい」

「珍しくない。ただ、あの人が俺に直接かける時は、たいていろくでもない」

 短い通話だった。朔夜はスピーカーにしなかった。でも声が低い部屋の中で、断片は聞こえてくる。

『数字の動きが、怪異案件の時と一緒です』

 私は掃除機の柄を持ったまま固まった。

 通話が終わる。朔夜が端末を確認する。

「ゆら」

「なに」

「今日の予定、全部消せ」

「は?」

「案件だ」

「また!?」

「今から人が来る」

 私は掃除機を床に置いた。

 ぬいが窓枠で丸くなったまま、片目だけ開く。

「来る前から嫌な匂いじゃ」

「お前、嗅ぎ分けられるの?」

「顔色で分かる。あやつ、今日の顔がいつもより悪い」

 朔夜の顔は、確かに、いつもより少しだけ険しかった。

―――

 毒島ぶすじま真琴さんが事務所に来たのは、それから三十分後だった。

 黒髪ボブ。やや眠そうな目。パーカーにジャージ、オーバーサイズのトップス。ノートPCを脇に抱えて、スマホを二台持っている。今っぽい無気力系の可愛さというか、部屋着のまま仕事してそうな生活感というか、最初見た時は正直「バイトの子かな」と思った。

 でも端末を開いた瞬間だけ、目の温度が変わる。数字を見る顔が、ちょっと怖い。

 この人が「数字で怪異を読む」という、私には一生できそうにない仕事をしていることを、私は六話ぶんの案件で学んでいた。

「夜見さん、送ったデータ見ましたか」

「見た」

「どう思いますか」

「怪異だ」

「私もそう思います。本人には言いたくないですけど」

 真琴さんがノートPCを開く。画面を私たちに向ける。

「まず元の投稿がこれです。三日前にエクスに上がった。差出人は非公開アカウント。写真は若い女性が一名。文面は一行だけです」

 スクリーンに映る投稿。

 ――「探しています。見かけた方はご連絡ください。」

「これ自体は普通に見えます。でも拡散の数字がここで跳ねてます」

「跳ねた理由は」

 朔夜が短く聞く。

「ミリアさんが取り上げたからです。三日前の深夜配信で、"気になる投稿見つけた"って紹介してます」

「それで広まったの?」

「それだけなら普通の拡散です。問題はその後です」

 真琴さんがグラフを出す。

「投稿を"見た"人間のうち、翌日に"探す行動"を取った人間の割合。通常の善意リツイートや好奇心でのシェアとは、明らかに違う動き方をしてます」

「どう違う」

「自発的じゃないんです。見た後、本人も気づかないうちに、その人物を探し始めてる。連絡を取ろうとする。その場所へ向かう。理由を聞くと全員、"なんとなくそうしたくなった"と答えてます」

 ぬいが低く唸る。

「見たら、探す側になる怪異じゃ」

「私はそういう言い方したくないですけど、数字的にはそうです」

 朔夜が腕を組む。

「感染の入口が"見ること"なら、拡散するほど被害が広がる」

「はい。そして三日前から現在まで、ミリアさんが配信で視聴者に見せ続けてます」

 部屋が少しだけ静かになった。

「あと、もう一個あります」

 真琴さんが続ける。声のトーンが落ちた。

「探す対象が、増えてます」

「増えた?」

「最初は一人でした。でも昨日から。感染した人間が、"次の探す対象"を投稿し始めてるみたいで。今、三人になってます」

 私は声が少し固くなるのを感じた。

「その三人、今どこにいるの」

「不明です。全員、昨夜から連絡が取れなくなってます」

―――

 朔夜がミリアに連絡を入れた。

 応答なし。

 代わりに、ミリアの配信通知が飛んできた。

 タイトルは――**「【緊急配信】"探しています"の女性、発見しました」**

「……やってる」

「今から現場に入ってます」

 真琴さんが言う。

「場所は?」

「この街の旧繁華街の外れにある古い商業ビルです。廃墟系の映えスポットとしてインスタムで流行ってた場所で。感染した三人が全員、そこへ向かってるみたいで」

 朔夜が立ち上がった。

「行く」

「私は?」

「来い」

「やっぱりそうなんだよな!」

 真琴さんも立ち上がる。

「私も行きます」

「現場は向かない」

「分かってます。でも配信データのリアルタイム監視は現地の方が精度が上がります」

 朔夜が真琴さんを一瞥する。

「体調崩しても知らん」

「崩す前に帰ります。その判断だけは早いので」

「それだけは正しい」

 ぬいが私の肩に飛び乗る。

「わしも行くぞ」

「役に立つ?」

「今回ばかりは、立つかもしれん」

「"かもしれん"って言った」

「保証はせん」

「知ってた」

―――

 夜の商業ビルは、遠くから見るだけで分かった。

 かつて飲食店や雑貨店が入っていたらしい構造。今は全部シャッターが閉まっている。でも廃墟映えスポットとして有名なのか、床には空き缶や紙くずが落ちていた。

 ゆらの現場感覚として、正直に言うと。

 建物の外からでも、空気が違った。廃墟の古さや湿気じゃない。もっと違う種類の「重さ」がある。ぬいが肩の上で鼻をひくつかせた。

「……濃い」

「怪異?」

「人の、探してる気配じゃ。何人かが、ここで同じ方向を向いとる」

 入口近くで、配信機材の明かりが見えた。

 そして、ミリアがいた。

 紅坂べにさかミリアは、今日も見た目だけは完璧だった。赤と黒の衣装。長い髪。カメラ映え特化の顔と衣装で、ネイルまで戦闘装備みたいだ。ただ、配信カメラを持っている時だけ、目元がさらにきつくなる。「私の方が絵になる」という顔を、いつもしている。今日もしていた。

「夜見。来たの」

 振り返りながら言う。

「呼んでない」

「知ってる。でも来た」

「……やめろ。配信を止めろ」

「理由を言えば止める」

「視聴者への二次感染リスクがある。投稿を見た視聴者が全員、感染候補になってる」

 ミリアの顔が、ほんの少しだけ変わった。でも、止めない。

「証明できる?」

「できない。だが俺の見立てはそうだ」

「証明できないなら、私には止める理由がない」

 真琴さんがミリアの横に立つ。

「ミリアさん。今この配信を見てる視聴者の数、把握してますか」

「……把握してるけど」

「視聴者のうち、今夜この場所に向かってる人間が何人いるか。その数は把握できてますか」

 ミリアが少しだけ黙る。

「言いたいことは分かった。でも私はまだ、これが怪異だとは確認してない」

「してから動いたら遅いです」

「だから今確認してる」

 朔夜が短く言う。

「勝手にしろ。ただし建物の中には入るな」

「……入らない。今のところは」

 今のところは、か。

 その言い方が嫌だと思いながら、朔夜・ぬい・私でビルの中へ入った。真琴さんは入口付近でPC監視に残る。

―――

 ビルの内部は、外より暗かった。

 シャッターの閉まった店舗が並ぶ廊下。蛍光灯は半分切れている。床に廃材が積まれていて、足元がおぼつかない。匂いは埃と古いコンクリート。普通の廃墟の匂いだ。

 だけど廊下の奥から、空気が違う。

「……人がいる」

 私の声が先に出た。

 廊下の奥、壁際に人が立っていた。

 一人じゃない。三人。

 全員、同じ方向を向いている。ビルの奥。奥の奥。壁に向かって、じっと立っている。

 動かない。でも生きている。呼吸している。

「あれ、感染した三人?」

「たぶんな」

「完全に感染してる?」

「……向こう側を向いてる。もう半分、引き込まれてる」

 ぬいが耳をひくつかせる。

「目が、開いとらん」

「立ってるのに?」

「立ったまま、見ている夢の中にいる。起こせるが、乱暴にやると壊れる」

 朔夜が慎重に一人に近づこうとした。

 その瞬間。

 三人が一斉に振り返った。

 目が開いていた。でも焦点がない。

 全員が、私を見た。

 ゆらだけを、見た。

「……え」

「影森、下がれ」

「なんで私だけ見てるの」

「下がれ」

 三人が同時に一歩、私に向かって踏み出す。

 朔夜が術を組む。"位相固定フェイズ・ロック"。三人の動きが止まった。

 止まった。

 でも。

 私のスマホが、光った。

 開いていないのに、画面が光る。

 通知。

 見てしまった。

 画面に一枚の投稿が浮かんでいた。

 ――「探しています。」

 写真は、今夜の服装の、私だった。

「……は?」

 その瞬間、止まっていた三人のうち一人の手の中で、スマホが光った。

「撮ったぞ!」

 ぬいが叫ぶ。

「引き込まれる、カメラを――」

 視界が、一瞬、白くなった。

 引っ張られる感覚がした。

 向こう側からじゃない。自分の中から。

 魂の一部を、写真として切り取られた感覚。

「っ……」

 膝ひざが折れる。

 朔夜が駆け寄ろうとする。でも術の維持で手が塞ふさがっている。

 三人の動きが再開した。

 一人が走ってくる。目に焦点がない。でも動きは速い。まっすぐに、私に向かって。

 ぬいが飛びかかるが、弾かれる。

 感染者の手が私の腕を掴んだ。

 冷たい。人間の手なのに、冷たい。

 引きずられる。廊下の端。段差がある。

「待って――」

 間に合わなかった。

 段差から落ちた。頭を打った。

 床が冷たい。コンクリートの冷たさ。

 視界の端で、朔夜が術を全部解いてこっちへ走ってくるのが見えた。

 間に合わなかった。

 痛みより先に、静けさが来た。

 音が遠くなる。ぬいの声。朔夜の声。届かなかった。

 意識が落ちる直前。

 スマホの画面が、また光った。

 **「探しています。」**

 **写真:影森ゆら**

 **既に△■〇×☆件シェアされています。**

 数字だけが、意識の端で増えていくのが見えた。

 それが最後だった。

―――

 入口付近で待機していた真琴さんのノートPCに、アラートが鳴った。

 新しい投稿。

 開く。

 写真を見て、真琴さんの顔から表情が消えた。

 外でミリアが近づいてくる気配がした。真琴さんがPCを向ける。

 二人とも、黙った。

 画面には、ゆらの顔が載っていた。今夜の服装で。廃ビルの廊下で。

 **「探しています。」**

 ミリアが、初めて、配信カメラを下ろした。

 つづく

ジャンル・タグ

, , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

👥 フォロワー: 2人

作者ページを見る