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配信88回目 借金だけは残る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/29 📚 シリーズ: 影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます 📝 3,304文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

影森ゆらは今日も死ぬ ――死後も無理やり働かされます - 配信88回目 借金だけは残る

本文

喧嘩の翌日です。

距離は置きました。ちゃんと置いたはずでした。

でも請求書だけは、なぜか置けませんでした。

―――――

 翌朝、私はちゃんと学校に来ていた。

 来たくなかったわけじゃない。

 むしろ、来られてよかった。

 あの事務所に行かなくていいだけで、朝の空気がちょっとだけまともに思える。

 るなは(いつも通り?)朝からパンを二個食べていて、透羽とわは教室に入ってきた瞬間から「影森かげもり、今日ちょっとだけ人間っぽい顔してる」と失礼なことを言った。幽々ゆゆは「ちょっとだけ、なんだ」と小さく追撃してきた。

 つまり、いつもの学校だ。

 それなのに、私は朝礼が終わった一時間目の始まる前から、やたらそわそわしていた。

 スマホが気になる。

 通知が来そうで嫌だ。

 でも来ないなら来ないで、それも妙に怖い。

「……何回見るの、それ」

 透羽が私の手元をのぞきこんだ。

「別に」

「別にの人、五分で三回画面見ない」

「見たくて見てるわけじゃないんだけど」

「じゃあ完全に依存だよ」

「やめて」

 るながのんびり首を傾げる。

「きのう、ちゃんとかえれたぁ〜?」

「帰れた」

「ねれたぁ〜?」

「……ちょっとは」

「じゃあえらいねぇ〜」

「るなの採点、甘すぎるだろ。幼稚園の先生か」

 そこで、スマホが震えた。

 私は反射で固まる。

「ほら来た」

 透羽が言う。

「言い方」

「だって顔」

 いやな予感しかしない。

 画面を見る。

 送り主は、知らないアドレスだった。

 件名。

 **【ご請求のご案内】十月前半分 仮締め明細**

「…………は?」

 思わず声が漏れた。

「何」

 透羽が身を乗り出す。

「何来たの」

「請求書」

「朝から?」

「朝から」

 るながパンを持ったまま目を丸くする。

「こわぁ〜……」

「ほんとにそれ」

 私はメールを開いた。

 PDFが一通。本文はやたら丁寧だ。

 **平素より夜見よろず相談事務所の業務へご理解ご協力を賜たまわり、誠にありがとうございます。

 下記、十月前半分の仮締め明細をお送りします。**

「誰が平素よりだよ」

 私は小声で言った。

「そんな平素日、一日もないんだけど」

 透羽が横で吹き出す。

「待って、文面ちゃんとしてるのが余計怖い」

「ちゃんとしてる顔で殴ってくるやつなんだよ、あの職場は」

「うわ、出た。ブラックバイト経験者の重い一言」

 PDFを開く。

 そこには、整いすぎた明細が載っていた。

 蘇生費。

 呪符消耗費。

 臨時交通費。

 現場危険手当――は、ない。

 代わりに。

「……何これ」

「どれ」

「”感情的離席による業務停滞損害金”」

「なにそれ!最低すぎるでしょ!」

 透羽が即答した。

 るなも引いていた。

「えぇ〜……けんかしたのに、おかねだけ取るのぉ〜?」

「そう」

「それはぁ〜、だいぶやだねぇ〜……」

「だいぶじゃ済まない」

 スクロールする。

 まだあった。

 **事務所離脱に伴う清掃未了分**

 **臨時補助要員不在による配信準備遅延分**

 **精神的負担による作業効率低下は個人差として補償対象外**

「補償対象外って自分で言うんだ……」

 透羽が真顔になる。

「いやもう、普通に引くんだけど」

「私も引いてる」

「そこにいた本人が一番冷静なの逆に怖い」

 幽々が私の手元を見下ろしたまま、静かに言った。

「……でも、来ると思ってた」

「え」

「請求書」

 幽々は淡々と続ける。

「そういうのだけは、あの人ちゃんとやるでしょ」

 ぐうの音も出ない。

「否定できないのが腹立つわ~」

「うん」

「しかも“仮締め”って何。まだ増える余地あるってこと?」

「あるんじゃない?」

 透羽が肩をすくめる。

「最低だけど」

 スマホが、もう一度震えた。

 今度は別件だった。

 差出人名だけで胃がきゅっとなる。

 **毒島ぶすじま真琴まこと**

「えっ、追撃?」

 透羽が言う。

「追撃だね」

 幽々が言う。

「そんな実況いる?」

 私は恐る恐る開いた。

 本文は短い。

 **請求書は自動送信です。私の意思ではありません。

 あと、事務所の給湯器が壊れました。影森さんがいつも叩いて直していたので、誰も直せません。

 ついでに、シュレッダーも詰まりました。

 戻れとは言いませんが、壊れていることだけ共有しておきます。**

 私は天を仰いだ。

「これどういうことぉ~?」

 るなが聞く。

「給湯器とシュレッダーが死んだらしい」

「しらないよぉ〜……」

「私も知らないよ!」

 透羽が机をばんと叩く。

「いや最低すぎるでしょ、ほんとに! 喧嘩した翌日に送る内容それ!?」

「しかも戻れとは言ってないのが余計ずるい」

 幽々が小さく言った。

「困るって分かってて投げてる」

 その通りだった。

 戻れとは言わない。

 でも、いないと困る情報だけ寄越してくる。

 それでこっちが勝手に気になるなら、お前の判断だろって顔が透けて見える。

「……ほんと最悪」

 私は机に突っ伏した。

 るなが私の背中をぽんぽん叩く。

「ゆらちゃん、今日はぁ、行かなくていいよぉ〜?」

「行かない」

「ほんとにぃ〜?」

「……行かない」

 言い切ったのに、自分の声が少し弱い。

 そこへ、教室の後ろで誰かが小さく悲鳴を上げた。

「え?」

 振り返る。

 掃除用具入れの前にいた女子が、床を指差して青ざめていた。

「なんか……これ、動いてない?」

「は?」

 見れば、古い紙片みたいなものが床をずるずる引きずるように動いている。すごく弱い。すごくしょぼい。でも、普通に嫌だ。

 クラスの空気がざわつく。

「やだ、何あれ」

「虫?」

「紙じゃない?」

 私は反射で立ち上がっていた。

「あっ」

 透羽が言う。

「行くの?」

「……行くしかないでしょ、あれは」

 自分でもいやだった。

 もう距離を置くって決めたのに、こういう時の足だけは先に動く。

 私は掃除用具入れの前まで行って、しゃがみこんだ。

 紙片みたいに見えたそれは、誰かが雑に破って捨てた、お祓はらい札ふだの切れ端だった。効き目が切れたまま、半端に残って、弱い気配だけ引っかけている。

「……しょぼ」

「感想それ?」

 透羽が後ろから言う。

「でも、しょぼい」

 私は鞄の中を探る。

「え、何出すの」

「塩」

「なんで持ってるの!?」

「持つだろ、この街で生きてたら!」

「生きてたら普通、お料理以外で持たないよ!」

 小袋の塩をぱらっと撒いて、切れ端をティッシュで包む。ついでにゴミ箱へ入れようとして、手が止まる。

「だめだ、これ燃えるゴミじゃない」

「分別あるんだ……」

 透羽が引いた声で言う。

「あるよ。むしろそこ大事」

「そこだけ急にプロ意識出すのマジ勘弁」

 私は小さく息を吐いた。

「……ほら、終わり」

「終わったの?」

「今日はこれで終わる」

「“今日は”って何」

「聞くな」

 席へ戻る途中で、幽々が静かに言った。

「結局、完全には離れられてないね」

「うるさい」

「責めてない」

「それが一番刺さるんだよ」

 チャイムが鳴る。

 いつもの学校。いつもの授業。いつもの教室。

 なのに私のスマホには、請求書が残っている。

 机の中には塩の予備が入っている。

 シュレッダーが詰まった事務所の様子まで、勝手に頭に浮かんでくる。

 私はまだ、あの職場から完全には自由じゃない。

 喧嘩しても。

 距離を置いても。

 請求書だけは、ちゃんと残る。

 それが今日いちばん、笑えるのに笑えなかった。

――――――

ゆら「たぶん、こういうのは数えた時点で意味を持つ。」

■今回の登場人物

・影森かげもりゆら

 距離を置いた翌朝に請求書を食らった。しかも小さな学校怪異には普通に対処してしまい、自分でも完全には切れていないことが分かった。

・夜宵やよいるな

 「けんかしたのにおかねだけ取るのぉ〜?」と素直に引いた。正しい。

・夏目なつめ透羽

 請求書の最低さに全力でドン引きした。外から見るとほんとうにそう。

・白澤しらさわ幽々ゆゆ

 「でも来ると思ってた」と静かに刺した。いちばん事実に近い。

・毒島ぶすじま真琴まこと

 追撃メール担当。たぶん悪意は薄いが、タイミングが最悪。

■今回の帳面

・金の借金

 きっちり継続。しかも感情的離席による業務停滞損害金まで乗ってきた。最悪。

・死の帳尻

 死亡追加なし。学校の小粒案件だけなら、まだ日常側で処理できる範囲。

・なゆの状況

 直接登場はなし。ただし前話の告白以降、ゆら側の距離変化と事務所側の関係悪化で、“書かない側”としての負荷はむしろ増しているはず。

・白い帳面まわり

 人間関係は壊れかけても、借金と業務だけは妙に現実的に残る。ホラーのくせに事務処理だけ生々しい。

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作者について

勇者ヨシ君

勇者ヨシ君

愛知県安城市で「ギルド酒場るすと」というゲームバーをやりながら、小説を書いています。 レトロゲーム、ボードゲーム、シーシャ、酒場の空気感が好きです。 異世界×ゲーム×酒場の作品や、 ホラー×...

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