第8章 見送る
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
突如発表された「首都機能の出雲移転」。 日本中が混乱する中、それは遠いニュースのはずだった——地方の小さな町に暮らす遥にとっては。 しかし、カフェで働く日常の中に、少しずつ“変化”が入り込む。 移転関係者が現れ、人が動き出し、町の空気が変わっていく。 「選べる」という言葉に揺さぶられながらも、遥はまだ決断できずにいた。 やがて、周囲の人々が次々と出雲へ向かい、ついには店の店主・真琴までもが何も告げず去る。 残された遥は、初めて自分の意思で「行く」ことを選ぶ。 出雲で待っていたのは、“何もない場所”と、過酷な現実。 未完成の国家プロジェクトの最前線で、遥は肉体を削りながら現場に立つことになる。 そこで出会ったのは、過去の災害によってすべてを失い、「形に残すこと」に執着する現場責任者・真白。 彼女の背中に導かれるように、遥は“作る側”へと変わっていく。 しかしある日、現場事故が発生。 真白は他人を救い、その代わりに命を落とす。 悲劇の直後、それでも現場は止まらない。 「止めればすべてが止まる」という現実の中で、遥は問いを突きつけられる——逃げるのか、続けるのか。 そして遥は、再び立ち上がる。 真白の意志を引き継ぎ、自らが現場を回す側へと変わっていく。 一方その頃、東京でも静かに人材流出が進み、国家の重心そのものが移り始めていた。 これは、国家の転換点の物語であると同時に、 「選ばなかった人生」から「自分で選ぶ人生」へと踏み出す、一人の人間の物語である。
本文
※本作はAI生成を含みます。
朝。少しだけ早い時間。駅前。人がいる。いつもより多い。騒がしくはない。どこか、落ち着いている。
遥は、ホームに立っていた。あの男を、見送るため。名前は知らない。仕事も詳しくは知らない。ここで何度か話した。それだけで、十分だった。
遠くに、列車の音。近づいてくる。
男は、すでに来ていた。小さなバッグ。それだけ。「おはようございます」遥が言う。男は振り向く。少し驚いた顔。「来たんですか」「はい」特別な理由はない。ただ、見送ろうと思った。それだけ。
「ありがとうございます」男が言う。少しだけ照れたように。「いえ」短い返事。
会話は続かない。もう決まっていることだから。
列車が入ってくる。音が大きくなる。風が動く。現実が、動き出す。
「行きます」男が言う。遥は、頷く。「はい」それ以上はない。男は、一歩踏み出す。列車に向かう。乗る前に、少しだけ振り返る。「じゃあ」短い言葉。それで十分だった。
「気をつけて」遥が言う。ありきたりな言葉。今はそれがいい。
ドアが閉まる。列車が動く。ゆっくりと、そして加速する。あっという間に、遠ざかる。見えなくなる。
静けさが戻る。ホームに、遥だけが残る。風が吹く。少し冷たい。
「……行ったか」声に出た。分かっていたこと。実際に見ると違う。もう、ここにはいない。
何かが抜けた感じ。寂しい、というほどではない。重い。これが、変化なのかもしれない。何かが増えると、何かが減る——その最初の実感。
遥はゆっくり歩き出す。駅を出る。町に戻る。同じ道。同じ景色。さっきまで、ここにいた人がいない。それだけで、空気が変わる。
カフェ《灯》。扉を開ける。——チリン
真琴が、こちらを見る。「行った?」遥は頷く。「はい」それだけで伝わる。真琴は何も言わない。軽く頷く。それで十分だった。
遥はカウンターに立つ。いつもの位置。いつもの景色。空いた席。さっきまでそこにいた人。もういない。それが、はっきり分かる。
コーヒーを淹れる。湯を注ぐ。いつもと同じ音。少しだけ違って聞こえる。
選ぶということは、動くということだ。そして、離れるということでもある。初めて、それを実感した。小さく。確実に。