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ソーシャルワーカー(企業編)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/20 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 2,345文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

​企業の相談支援室は、静かで、少しだけ無機質だった。

​白い壁、整えられた机、観葉植物、音の小さい空調。誰かが深刻な顔で入ってきて、少しだけ軽い顔で出ていく場所としては、機能的なのだろう。

​以前は三人いた部署だが、今は 佐藤 純 ひとりで回している。

​一人は相談者の感情を抱え込みすぎて疲れ果て、もう一人は終わりのない調整業務に心を削られて去った。人の問題を扱う仕事は、見た目よりずっと消耗する。

​それでも純は、なぜか残り続けている。

​相談件数も対応速度も落ちず、休職率や離職率に関わる数字まで改善した。会社がそれを評価し、待遇に反映したのは自然な流れだった。

​純自身は、そのことにあまり執着がない。

---

​午前最初の面談は、育休から復帰した女性社員だった。

​姿勢も受け答えもきちんとしている。ただ、鞄の持ち手だけは最初から最後まで離さなかった。

​「戻ってきたかったんです」

​彼女はそう言った。

​「でも、戻ってみたら、前みたいにできなくて」

​時短勤務。急な呼び出しへの不安。子どもの体調。以前なら引き受けていた仕事を断る場面もある。周囲は配慮してくれている。責められてはいない。それでも、自分だけ戦力外になった気がするらしい。

​純は静かに相手を『視た』

​問題は職場ではなかった。

​彼女は、過去の自分と毎日戦っている。

​残業できた自分。何でも回していた自分。急な案件にも対応できた自分。その記憶の中の全盛期と、今の自分を比べ続けている。

​「以前の自分と比べていますね」

​純が言うと、彼女は目を上げた。

​「……そんなにわかりますか」

​「なんとなくです」​純は答えた。

​彼女は少し笑い、それから視線を落とした。

​「前はもっとできたんです」

​「前のあなたは、その時の条件で働いていました」

​純は穏やかに言った。

​「今のあなたは、別の条件で働いています。同じ仕事に見えて、別の競技です」

​彼女は思わず吹き出した。

​「競技って……」

​「睡眠時間も違いますし、突発対応の頻度も違います。ルールが変わっています」

​静かに、現実だけを並べる。

​それだけで、彼女の肩から力が抜けていった。

​「今の条件で積み上げた方が早いです。昔の自分に勝つ必要はありません」

​彼女は小さく息を吐いた。

​「私、ずっと一人で焦ってました」

​「だいたい皆さんそうです」

​「そういう言い方、少し冷たいですね」

​「公平です」

​少しだけ笑って、彼女は部屋を出ていった。

---

​今日 最後の面談は、部署異動後に上司との関係が悪化し、休職を考えている男性社員だった。

​姿勢だけ整っている。中身はかなり削れている。

​「何をしても怒られます」

​報告が遅い。説明不足。勝手に進めるな。確認しろ。会議でも人前でも叱責される。朝、駅まで行って戻った日もあるという。

​「休職届を出そうかと思ってます」

​純はうなずいた。

​否定はしない。追い詰められた状態では、言葉は届かない。

​話を聞きながら、純は相手を『視た』

​男性は処理能力が高い。頭の中では先まで組み立てられている。ただ、それを途中で省略してしまう癖がある。

​一方で上司は、順序と確認を重ねるタイプだった。飛ばされた情報を不安として受け取り、叱責に変える。

​噛み合っていない。

​だが、壊れているわけではない。

​「上司の方、確認が多いですね」

​男性が顔を上げる。

​「……多いです」

​「あなたは説明を省略しがちです」

​男性は数秒黙り、やがて小さく笑った。

​「それも、あります」

​純は紙に四つ書いた。

​結論。理由。進捗。次の行動。

​「報告はこの順番で、三十秒以内にまとめてください」

​「三十秒……」

​「長いと途中で切られます」

​男性は少しだけ表情を緩めた。

​純は続ける。

​「確認されそうな点を一つ先に出すといいです。安心します」

​さらに、感情と事実を分けて記録すること。叱責の内容は客観的に残すこと。必要なら人事同席で調整できること。

​「休職は最後の選択肢でいいです」

​静かに言う。

​「まだ打てる手はあります」

​男性は長く息を吐いた。

​「……明日、一回だけやってみます」

​「一回で、結果は出ます」

​紙を丁寧に折り、胸ポケットへ入れる。来た時より、背筋が少しだけ自然だった。

​夕方、記録を終えた頃にメッセージが来た。

​『終わった?』

​『今です』と返すと、すぐに返事が来る。

​『一階にいます』

​ロビーを出ると、彼女が柱のそばに立っていた。純に気づくと、少しだけ目を細める。

​「その顔、今日もちゃんと片づけてきた顔ですね」

​「そんな顔がありますか」

​「あります。あと、少しだけ電池残量少なめ」

​純は小さく笑った。

​「そこまで見ますか」

​「見えます」​並んで歩き出す。

​「今日、どうでした?」

「いつも通り、普通です」

「その普通、だいたい普通じゃないのよね」

「会社では平和です」

「そう言えるのはあなたくらいです」

​駅前の灯りが近づく。

​「ご飯どうします?」

「任せます」

「じゃあ、いつものところでいいですね。今日はあなた、考える必要ない顔してるので」​純は少しだけ黙った。

​「そこまでわかりますか」

「長い付き合いですから」

​それ以上は何も言わない。

​向こうの世界で過ごした十五年は、こちらではわずか十秒だった。帰ってきた時、時計の秒針が少し進んだだけだった。

​その十五年で得たものは、伝説の剣でも強大な魔法でもない。人の心の奥底を読み取ること。絡まった事情をほどくこと。壊れそうな人の限界点を、本人より先に見つけること。

​けれど、この世界ではそれが、何よりも役立っている。

​「また、ぼーっとしてる」

​隣から声がして、我に返った。

​「店、通り過ぎますよ」

​顔を上げると、いつものレストランの優しい灯りがすぐそこにあった。

​

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JJ

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